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5話 汝、問いに答えよ。

徐々に魔王メンバーや城の仲間たちが明らかになっていきます。

「死ぬ・・・本気で今なら死ねる。」


今にも息絶え絶えに机に突っ伏す魔王に、冷酷無慈悲な悪魔が降臨した。


「魔王様。追加の分です。」


ドサっと大量の書類と書簡の山がまた一つ増える。

執務机は魔王をすっぽりと隠すくらい山の峰が出来ている。ちょっと突けば魔王は紙の濁流に呑み込まれ、生き埋めになることは必至くらい高い壁に取り囲まれ、魔王の目の前には押印待ちの書類が空中に浮遊している。


「っ!?・・・この悪魔!!!」


恨みを込めて睨んでも当人には糠に釘、暖簾に腕押しだ。涙目で見上げる魔王は怒りで打ち震えていた。しかし、その姿はまるで、雨に打ち捨てられた子犬のようにプルプルと震えて、全くの逆効果を生み出している。


フッと逆光に照らされ彫刻のような美顔に蠱惑的な眼。


「最高の褒め言葉です、魔王様。」



淫魔ですら虜にする流し目で魔王を見る。



「それだけ、叫ぶ元気があれば後15時間は大丈夫・・・。」


「絶対無理だーーーー!!!。」


限界の頂点に達した魔王は甲高く絶叫した。




ここは魔王城の中心であり、魔王の執務室、いわゆる仕事部屋である。


魔界の王者で魔獣や魔族を統べる【魔王】にも仕事はある。それだけでなく、内戦によって魔界全土が疲弊した状態のなか、一刻も早く国家を立て直しなければならない。だが、内戦が終結した後、国を統一した先代魔王は本来やるべき仕事をすべて城内の臣下たちに押し付けて姿をくらませた。



先代魔王の“置き土産”こと新米魔王も仕事に駆り出された。


始めの内はとにかく仕事を一刻も早く終わらせようと一生懸命(魔族には不相応だと言うな。)。に仕事に取り組んだ。

幸いに先代魔王の臣下たちの飴と鞭による扱きによって仕事の処理能力はみるみる内に向上した。


あの時は本当に辛かった・・・。かの教師たち(ヴォルゲーツィオたち臣下たち以下略)に書類の脱字誤字が見つかるとご飯抜きにされたり、砂を吐くような砂糖と蜜がたっぷり含んだ甘い詩の朗読を強制的に読まされたり、三回廻ってワンと言わされたり・・・。


これって完全に遊ばれていたよな・・・と遠くを見つめる。


あの頃は何もかもが別世界のようでなにが常識か何もわからないことだらけで不安だった。とにかく言われたことを必至にこなすことで精いっぱいだったこのひと月を思い返す魔王。


一通り、仕事の案件ができるようになってからも地獄だった。目くるめく日が過ぎても仕事が終わる気配が一向にない。


徹夜3日はまだいい。だが、2週間ともわずかな休憩しかなかった時は幻覚を見て頭は知恵熱で沸騰しそうだ。



魔族は基本、睡眠を必要としない。眠る行為は活動後に大気中に漂う魔力を体内に効率よく吸収するために行うで普段は寝なくても活動はできる。魔王も1時間くらい眠れば魔力のチャージは十分に溜まる程度だ。

しかし、精神的な疲労は抜けない。


長時間、文章や数字の羅列と向き合い眼球の疲労のせいで文字がぼやけてくし、一気に知識の情報量が入り込んできた頭は悲鳴をあげる。魔族もそこまでの疲労はなかなか癒すのに時間がいる。


「あー、先代帰ってきたら絶対半殺しにしてやる。」


目が完全に据わっている魔王は殺気がだだ漏れである。

皆は偉大だと褒めた称えているが、最後まで責任もってやるのが魔王じゃないのかボケェ!!と叫びたくなる。。




*************




それから10数時間後・・・。

「・・・ふふ、真っ白になった。」


ビロード生地の豪勢な椅子にのけぞる魔王は天井を見上げている。その目に光はない。


完全燃焼を果たした魔王の息の根は浅い。

今ならデコぴんであの世へ逝きそうだ。


そんな凄惨な執務室の扉から伸びやかな声が割って入ってきた。



「ま・お・う・さ・まーーーー!!」

「まおー。」



人間の赤子を抱いて入ってきたのはリンネだった。暗黒の魔界にミスマッチな明るい水色の猫耳帽子つきの上着を羽織っている。

赤子も色違いの赤い羽織に花と果実の刺繍が施されている。このまま外に出ればどこぞに誘拐されそうなくらいの可愛いらしい組み合わせだ。



(万が一、誘拐されてもリンネなら嬉々として誘拐犯を逆に脅して実験道具にしそうだな・・・)





きょとん、としたリンネは魔王に近づく。


「リンネか。どうし・・・た?」


椅子に座ったままの魔王の額にこつんと自分の額を合わせるリンネ。



「魔王さま、またヴォルが無茶させたでしょ。」


「魔王さまも真面目で責任感があるのはいいけど、ヴォルたちに利用されているからね。お人よしもほどほどにしないと調子に乗ってどんどん仕事を任せていくんだから。」



医者の顔になったリンネは呆れた様子で手元の薬箱から錠剤を取り出す。豪快に箱をひっくり返したせいっで色とりどりの薬剤が机に散乱する。

掌に転がる錠剤は・・・不気味な色彩を放つアレと同じ形に見える。



「リ、リンネ。これは何だ?」


「ん~?これはゾンビパウダーだよ。これを飲むと生きている間にゾンビになっちゃうんだ。あとこっちは痛みを一切感じなくなる茸で実験体によく使うんだ。そんでこの薬は・・・」


「いや、もういいリンネ。あっこらソレは食べ物じゃないぞっ!!」


興味深そうに手を伸ばす赤子に魔王は慌ててその手を掴む。不満そうにぶーたれるが、そんな顔も可愛いなぁと親バカ的なことを考えてしまう魔王であった。



「はい、この薬は疲労効果に有効だから、水と一緒に飲んでいて。」


まともな薬をもらいほっと安堵の息を漏らす魔王。


「魔王さまはね、ヴォルたちに期待されているんだよ。」

「っ!ゲホガハ!!」

水と一緒に飲もうとしていた魔王は軽くむせた。


何だと!?初耳だぞ。


「魔王さまってどんな仕事でも一生懸命頑張っていたよね。呑み込みも早いし、応用力もある。最近、仕事にも慣れてきてさばくの上手になったし。」


「あぁ、そう・・・かもしれん。」

とにかく仕事から解放されたくて無我夢中だった気がする。



一息ついた魔王にリンネは嬉々として手を両手で掴んだ。


「それを飲んだら薔薇園に行こう。」


「?なぜだ。」


「エメが来てるよ。」


にっこりと笑顔満面で魔王の腕を掴む。




「っ!?本当かっ。」ぱぁと声音が弾む魔王はリンネによってぐるぐると輪を描くように踊らされる。



「ヴォルがね、魔王の仕事が終わるころにエメが来られるように調整したみたい。」


「ヴォルゲーツィオが?」


「ご褒美だってさ。飴と鞭の使い方をよく知っているよね。。」


「・・・・。」


蛇執事の今朝の出来ごとを思いだし苦い顔をする魔王だった。









魔王城は魔力に満ちた地形のせいで、魔力を利用した仕掛けが城の至る所に設置されている。


転送装置もその一つだ。廊下の突き当たりに濃い紫洸の魔法陣が脈を打つように点滅している。


転送装置の番人のゴブリンは頭の先にボンボンがついた尖がり帽子をちょこんと被っている。小柄なリンネより半分の大きさしかないが、かなりの力持ちで仕事には忠実にこなしてくれる。




仔リスみたいに円らな目に長い三角耳は音を拾うたびにピクピクと反応する。にっこり笑えばチャームポイントの八重歯がキラリと光る。4人兄弟のゴブリンは帽子の色で判断がつく。緑の彼は二男のペペックだ。



『っ!!!シャーーーーッッ。』

ピュンと跳ね、ビシッと敬礼のポーズで立ちふさがる。


「あっ!合言葉を言わなくちゃ。」


「合言葉?」


「うん、ぼくたちの専用通路とつながっているから通れる者にしか分からない秘密の合い言葉を決めたんだ♪ちなみにこの通路は魔王さま専用通路なの。」


「へぇ、どんな合言葉なんだ?」


リンネが前に出て、ゴブリンと向き合う。するとリンネに反応したゴブリンは口を開いた。



『問いに答えよ。問いに答えなければ通さない。』




一瞬の静寂の後・・・。




『まおうさま~


    きょうのパンツは

       

          何色だ~?』




ゴンッッッッ!!!!!!!!!

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・。


廊下の壁を力いっぱい殴った魔王は強烈な怒気を放出している。噴火直前の火山のように熱く煮えたぎって腹から叫んだ。



「合言葉じゃねぇだろーーーーーーーーーー!!! 何で、五・七・五なんだっっ!!!!」


こんなふざけた合言葉を作るやつは魔王城で唯一人しかいない。



「これ考えたのはヴォルだね。ぼくのとは内容が違うし、エメはこんなの考えないもの、まぁ、あとの彼は食い気と放浪以外に興味がないしね。」



「今度ヴォルゲーツィオの奴に会ったか首絞めていいか!!!よしっ!シメる。」



「まぁまぁ、魔王さまもヴォルの冗談なのは知っているでしょう。で、どうするの?」

「は?」


「だ~か~ら。この問いに答えないと通してくれないよ。」にやにや笑いながらゴブリンとその向こうにある転送装置を指さす。


「っっっっっ//////////////」





まおうさま~

   きょうのパンツは

        なにいろだ~




「・・・今までのやつはどうやって通った。」


「ん~ぼくは自分の通路で来ていたからわかんない。」


じゃぁなぜここに来た!!!魔王は心のなかで盛大にツッコミを入れる。


「・・・では、リンネの専用通路から。」


「ぼくのは仕事場から一番遠いの。今からだとかなり遠回りするよ。エメ、もう薔薇園で待っているし、魔王さまは転移魔法まだ使えないでしょ。」


天使みたいに無垢な笑顔をしているが、正真正銘の悪魔で魔族だと確信した。


これも計算していたなら、ヴォルゲーツィオよりも腹黒い。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」




魔王は思案の海を彷徨った。臣下である友か、魔王としての尊厳か、心の天秤が揺れ動く。



・・・そして、魔王ゴブリンの耳の真近でごしょごしょと呟いた。

魔王の耳は熟れた林檎みたいに真っ赤である。



魔王は友のために恥を捨てた。





『 まおうさま~


     きょうのぱんつは

  

         何色だ~



    以外と大人な

       

        レースの黒だ~』




「言うなぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」


「魔王さまってソッチ系?」


「いやっ違うんだ!!これはシフォンとバニラが用意したもので・・・。」



今朝あの双子のメイドが用意したもので断じて!断じて自分の趣味ではない。


          

「ん~魔王さまは最近女体化してきているせいじゃない?可愛いと思うよ。純黒レース。」


「じゅんぐろ~。」


キャイキャイと手を叩いてはしゃぐ赤子。






魔王は精神的に999のダメージを受けた。






次回で魔王の部下四天王のひとりエスメラルダが登場です。略してエメ。


ゴブリン4兄弟。

ピンキー(赤)

ぺぺック(緑)

プリッツ(黄)

ポルポル(白)の名前と(帽子の色)。4つの専門通路の番人をしている。噛まれるととても痛い。

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