10話 名付け親決定戦(2)
テストから解放されて浮かれ気分。試験中に気持ち悪いくらいに頭使ったから悔いはない。
いつもより短めです。
「名付け親決定戦のコース内容この植物園の中でも危険獰猛なエリアに指定されている“暴食の虜”を紹介するぜ。
食人植物に限らず、“毒生成工房”の異名をとる強烈な毒巣をもつ魔蜂針、蔓の鞭で骨まで砕く水草の群れが蠢き、花粉を吸いこめば喉を焼き焦がす危ねぇ障害物を乗り越えるのは一体誰か?早くも賭けは競り上がってきているぜ。」
タマたちの部下たちが、いそいそ賭けの大型の掲示板を掲げた。
「まず最初は、守ってあげたい妹キャラ!桃色悪魔のバニラちゃんっ!!。」のうたい文句に大きく被写体がポスターのように貼られている。
アイドル用の撮影パネルには天真爛漫な笑顔を浮かべるバニラが映る。メイド服のミニスカートからすらりとした脚線美が伸びている。
「このチラリズム的なベストショットは後から焼き増しも可能だ。競売は後で・・・ぐうぇ。」
首を絞められた鶏のような鳴き声をあげてのけぞるタマ。
「勝手なマネは控えてくれるかしら【タマ】?」
タマの鶏冠ごと抜毛する勢いでぐいぐいと引っ張るのは双子姉のシフォン。お淑やかに微笑みながら目が笑っていない。
「・・・スイマセンでした。ちょっ!これ以上毟ると十円ハゲが―――!!!。」
「今夜の晩餐は、鳥の丸焼きに決まりね?」
「いやぁぁぁぁああああああ。」
上級悪魔の本性を畏れと抱いたタマは本能に従っておとなしくなる。
頭の羽毛が若干もぎ取られ、寂しくなった鶏冠を撫でながらタマ。それでも実況を続けるのはプロ根性の賜物である。
「魔王城のゴミは華麗にお掃除。箒を武器に戦うお姉さまシフォン様!!。」
純白のエプロンに鮮やかな鳥の羽がちらりと覗かせて登場したシフォン。
恐れの刷り込みで様付けされている。
「白衣の天使は悪魔の主治医。狂悦の堕天使リンネっ!!」
「どんな風に遊ぼうかなぁ。ねぇエメ、競争してみる。」
ふんわりウェーブの金髪の子どもが楽しげにスタートラインに並ぶ。
「ゾンビなのに綺麗好き!好きな香りは石鹸の泡。常に臭い消しを片手に華麗な剣捌きを見せる。魔王の懐刀エスメラルダっ!!」
「・・・・・・いつもは持っていない。」
無言のまま漆黒の鎧姿がリンネの隣に立つ。小柄なリンネと相まって巨躯な体格が目立つことこの上ない。
「魔王の右腕であり、有能敏腕な蛇執事ことヴォルゲーツィオ!!!」
エスメラルダと居並ぶとさらに圧巻的な長身組の二人。相も変らぬ真っ白な燕尾服を身に纏い、涼しげな目元は蛇の鱗が縁取っている。
その隅で縮こまるのは双子メイドたちの手によってカスタマイズされた衣装を試着済みの魔王だ。
裾が長く動きづらい深緑の装束を短めに切断してもらったのだが・・・。
「足元が涼しすぎる・・・。」
可愛い女服が大好物のバニラが己の欲望に忠実だったせいでもある。ゆったりとしたズボンだったのが、短いキャロットパンツまでの短さになり、足が剥き出しの状態だ。確かに動きやすくはなったが、魔王の衣装としては如何なものか自問自答してしまう。
「そして最後に我らが魔王陛下!大胆にも生脚露出で登場だ!!おっと恥じらう表情も男心にゃポイント高いぜ!さすが魔王ヒバ生脚!――――ぐぴゃ。」
何かがタマの頭にクリーンヒットしてあえなく墜落する一羽のパパラッチ。
ぴくぴくと瓦礫から這い上がるタマはマイクを握りしめる。
「・・・誰かがあっしの道に立ち塞がろうとも・・・あっしは何度でも立ち上がる!それが魔界のパパラッチを舐めんじゃねぇ!!!!!・・・【ドシンっつ!!】」
天へ指を突き上げ決めポーズとつけようとしたタマが突然横に吹っ飛んで壁にめり込んだ。
細長い鞭の影が奥へ引っ込む。
大地を揺さぶる地震が植物園の奥から振動してきた。
「あれは・・・。」
・・・・・・
・・・・
ふしゅーとかすかに漏れる音は周囲の植物を枯らし、意外と素早い動きで天井や壁伝いに駆け巡る。
黒い塊が日の光にさらされたとき、魔王は恐怖よりも悍ましさに身を隠した。
雪が降ってという希少なホワイト・バレンタインとなりました。
おまけ。
バニラ「元気で可愛い名前がいいな。お星さまみたいに輝く【ピカタン・キラメケーナ】にするの!」
シフォン「バニラ、高貴で教養あふれる名前も大切ですよ。例えば、ダヴィッガトィ=ジスティクルド・アーレウェン・モワンジル・フラドジス・ガイゼル・レッツェヴィナ・ロアラン・ダンツォーネ・ゲルマニア・クールディンデス・ネルギータ・ルーカイングス・ライドリロナ・ゲイヴォルク。などはいかがですか?」
落ち着いた口調で先ほどの長文を一息で言い切る。その肺活量が気になるところだ。魔王なら確実に舌を噛む自信がある。
エスメラルダ「男なら、強くなれるように、ゴンザレスとかバルバドスとか、ロドリゲスはどうだろうか。」
強くなれそうだが、ゴツイ名前だな。
リンネ&ヴォル「おもしろそう・・・じゃなくて大きくなった時を想像して考えたよ『マイ・ハニー』か『バンビぃ☆ベイビー』のどっちにするか迷うなぁ。」
魔王「・・・・・・・(人間用の名前辞典はあるだろうか)」
悪魔の名付け方は個性的だと確信したときだった。