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9話 名付け親決定戦(1)

もうすぐ目標の10話!

次は20話を目指します。最近寒すぎて朝起きるのが大変です。

「では、これより名付け親決定戦を始めまーすっ!!」


『わぁぁぁぁ――――――っっ!!!』

歓声があがるのは魔王傘下である魔物たちだ。ウッドゴーレムの肩に乗せてもらったゴブリン四兄弟たちも小さな拳を振りかざして興奮している。自然の装飾を施した円形状のリングに群がる観客たちは中央の魔王に熱い声援を送った。

広大な植物園には立派な競技会場が突如として現れ、魔王たちはスタート地点に立っている。



「・・・いつのまにこんな会場が出来たんだ?。」

立派な出場門を見上げた魔王は呆れた面持ちで呟いた。

「魔法を使って急いで仕上げたんだ。」

ルンルン気分のリンネは上機嫌で鼻歌まじりに歌っている。

「リンネ一人で?」

「ううん。ヴォルとか使い魔に手伝ってもらってね。魔界は魔力がただ漏れだから枯渇しないし、魔法が使いたい放題なの。」

潤みをおびた瞳に、まばゆい金縁の睫が上目使いに魔王を見る。男なら会った瞬間に愛の弓を射られて恋の奴隷へ落ちる微笑みを受けながらも魔王の表情は始終冴えないままだ。


(・・・この試合に出たら死ぬかも。)

どこからか、死を予兆する夢魔のメリー・スリープがめぇーめぇーと鳴いているような気がする。

頭を抱えて蹲る魔王と双子メイド、闇医者と暗黒剣士のメンバーが勢ぞろいしていた。


観客席の舞台でマイク片手に実況をするのは怪鳥の魔族だ。

「さぁて白熱する会場のなか、決定戦を中継するのは『噂大好き捏造大好きな魔界のパパラッチ』ことタマがお送りします!!!」

マイクを継承した派手な鶏冠頭の悪魔は「ひぃぃぃ―――ヤッホ――――!!!」と叫んだ。目に痛い極彩色の羽毛を広げればキラキラ効果がもれなく付いてくる。求愛相手を募集中なのかやけに目立つ。かなり目立つ。まるで狙ってくださいと言わんばかりの激しい自己アピールだ。気分の高揚が高いタマに観衆たちも釣られて咆哮を放つ盛り上がり様だ。

魔王は逆に異常な盛り上がり様に引き気味に腰が引けた。


「た、たかが、名前を付けるだけなのに、こんなに大がかりはいらないだろ。」

「もう、魔王さま。名前は魔族にとってとっても大切な意味をもっているんだよ。名前は魔族の階級と権力を誇示するし、大事な儀式でもあるんだ。」

「どういうことだ?」

魔王の頭上には?マークが乱舞する。


「名は命の源であり、悪魔を形作る魔法の呪文だってこと。」

詩のような表現に魔王の眉がぎゅっと寄る。

理解が出来ていない様子にリンネはうーんと首をひねった。


「魔王さまってば、ちょっと魔族の常識がないよね。」

リンネに続いてその場にいた魔族たちが賛同する。

「天然なところがあるのですよ。でもそこがまた魅力ですわ。」

にこにこと子どもを見守るようなまなざしのシフォン。

「バニラ、聞いたことがあるよ。バカと天然は紙一重っ!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねて悪意なきトドメを刺す。

「・・・それを言うなら『バカと天才は紙一重』なのでは?」

すかさずエスメラルダが訂正したがフォローには至っていない。


うんうんと頷く臣下たち。魔王は精神的にぐさぐさと見えない矢が突き刺さった。


魔王のガラスのハートが粉々に砕け散る前にリンネは話を続きへ戻る。


「まぁ、分かりやすいように絵本形式で答えるね。」

メイドのバニラが真っ白な紙に絵を描き始めた。

黒いぐるぐるの渦が白の世界を塗りつぶす。

「まず、ぼくら魔族は闇から生まれる。人間と違って親はいない。その時には個人の名前はなくて、一族の括りとして数えられるんだ。一族では見かけで呼ぶのが普通だね。ぼくの場合は『鬼族の三本角』で、ヴォルは『蛇族の白鱗』という具合にね」

「名前はそんなに重要なものなのか?」

「魔王様、魔族で名を有する者は上級の証なのです。魔獣でも名前のあるのは使い魔の契約を交わした場合のみ。」

「そうか・・・名前があるのが上級悪魔の証か。」


バニラがすいすいと人魚のように滑らかなタッチで魔族の肖像を描いていく。

「よし!できた!!」

会心の出来のようで満足げにこちらを振り返る。

(これは・・・!)

描かれた絵には魑魅魍魎ちみもうりょうたる悪魔が跋扈ばっこする地獄絵図をモチーフだ。

「・・・見たことがない斬新な絵画だ。」

だが、バニラの力作は、悪魔は棒人間で、リンネの肖像は黄色いひよこみたいな塊に三角の角から辛うじて判断できる。ヴォルゲーツィオは、くねくねした線が一本走り書きされているだけで最早、紐にしか見えない。ある意味でこれも芸術に匹敵する。

いささか緊張感の欠片もないファンシーなお絵かき模様に魔王は感心した。



一方、リンネの講習は続く。

「悪魔にとって名を与えることは何でしょうか?」

はい、と控えめに手を上げたシフォン。

「従属と隷属を意味します。」

優等生と先生のようなノリで話が進む。

「その通り。名前を与えることを“刻まれた名誉ラシェド”と言って上級悪魔にはステータスになっているんだ。そして名を刻まれた悪魔は主人の魔力と密接に影響を受けて能力が向上する代価に、命令に逆らえないし、命令違反をすれば即消滅になる。」

上級悪魔の眷属となるものは刻まれた名誉ラシェドの洗礼を受ける。その話に魔王は気になったことを尋ねた。


「上級悪魔の部下たちは皆、刻まれた名誉ラシェドなのか?」

「はい、わたくしたちも刻印を承っております。」

「誰からなんだ?」

くすりと綺麗な唇がほころんだ。

「ヴォルゲーツィオ様ですわ。」


「はぁ!?」

美麗敏腕の蛇執事と可憐な双子メイドの組み合わせ。

驚愕の事実にあごが外れる勢いで驚く魔王。

「わたくしたち蝙蝠一族とヴォルゲーツィオ様の蛇一族は共同で隠密組織の諜報部を担っていますの。あの方が司令官になって以来とても活動がしやすくなって感謝いたしております。」

「えーとちょっと待て。情報が多すぎて処理機能を突破している。」

ぎゅうぎゅうに押し込まれた情報を整理する。


「シフォンとバニラの上司がヴォルゲーツィオで・・・二人の名前を付けたのか?」

シフォンとバニラという可愛らしい名前を考えている姿を想像して魔王は腹を抱えて、噴出しそうになった。

「はい、ヴォルゲーツィオ様が『シフォンケーキとバニラアイスクリーム添え』のお料理を作っているときに名づけてくれました。」

「・・・・・・・。」

適当すぎだろ。魔王は脱力した。

「名前は大切な意味を持つけど、ネーミングセンスはまた別物ってこと。ぼくの知っている悪魔のなかに一度聞いたら忘れられない名前を付けられた奴がいるんだよ。」

思い出してケラケラと笑うリンネ。一方では、大きな盛況ぶりの会場で司会進行役のタマが『名付け親決定戦』の説明をしていた。



「出場者には各コーナーに分かれて名前候補を上げ連ねてもらうぜ。だが、魔界特別ルールで競争レースに一番でゴールした者が名付け親になる。当代魔王様も参加するとの情報だ!!さぁて挑むのは『赤い血潮は灼熱の煉獄色コーナー』。リンネ様&バニラ様&ヴォルゲーツィオ様だ―――!!!!!。」


「うぉおおおおぉ―――――――――――――――――っ!!!」


外野から野太い歓声があがる。

「そして『青白い顔は地獄へお迎えコーナー』ではエスメラルダ様&シフォン様&魔王様など豪華揃いだ―――!!!この試合の行方は全く分からないぜ。さて勝負は簡単だ。各チームで植物園内を一周したものが勝者になる。卑怯卑劣な罠に妨害なんでもアリだ。悪魔らしい戦いを見せてくれよ!また名付けによる主従契約も可能だから所有権も優遇するぜ。」


「・・・陛下。この規定はまずいことになりますね。」

エスメラルダが急いた声が鎧に反響する。

「あぁ、赤子の所有権が委譲すれば魔王わたしの許可がなくても好き放題にできるというわけか・・・。」


バニラは着せ替え人形として愛でるだろうから害はない。だが、リンネの手に渡れば、人間の実験体として玩具にされるのは目に見える。魔王が気がかりだったのはヴォルゲーツィオだ。鉄面皮の裏でどんな手に出るのかは分からない。


不安が表情に出る魔王にエスメラルダが肩に手を置いた。



「自分たちが勝てば良いのです。」

「魔王さま、わたくし精一杯頑張ります。」

凛々しい立ち姿のエスメラルダが励まし、綿菓子のように柔らかな笑みでシフォンが言い切った。

「あぁ、そうだな。」


(赤子よ、ここで見ていてくれ。わたしは必ず・・・。)

握り拳をつくり、決意を込めて振り返る魔王。


視線の先には豪華なクッションの上でケルベロスのふさふさとした尻尾に包まれた赤子がいた。『豪華賞品』のたすき掛けに小さい王冠がちょこんと鎮座している。周りにはお菓子が山盛りにされ、口元には食べかすが付いたままだ。満足げな笑みを浮かべて、赤子はすやすやとお昼寝タイムに突入していた。


(必ず・・・うん、とりあえず頑張ろう)


説明ばかりの台詞でしたが、次回は戦闘シーンが入る予定。

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