10年後
これは、僕の中のイメージで葉山と渡瀬のその後になっております。もし、そんなの見たくない!ッて人がいましたら、飛ばしていただいても大丈夫です。けど、あの二人のその後が気になる!って方は、そのままお進みください。
セミが泣き喚き自己主張子繰り返す太陽。そのくせ、空には夏の雲が漂い物凄くすがすがしい。
吹きぬける風は、夏の香りがして暑いのだけれど、懐かしい匂いを運んでくる。
今ボクは、店先で花たちのお世話をしていた。
今日、お店はお休み。休みで、お世話を怠るとすぐにしょげてしまうんだ。まったく、人間以上に繊細かもしれないね。
この毎日花のお世話をする生活にも慣れてしまった。かれこれ、5年くらいかな?初めは、わからない事だらけだったのに、気がついたら自分ひとりで大体のことは出来るようになっていた。
それに、ボク自身花のお世話をすることが好きだしね。こうして、花たちに囲まれて生活することに幸せすら感じてしまう。
そんなことを考えながらジョウロを使って水を上げていたら、見知った顔が現れた。
「よっす!レイひさしぶり!!うわ~、なんかすんごい似合ってるね!そのエプロン!ただ、お花に水あげてるだけなのになんだかお花屋さんみたい!」
「久しぶり真紀。あと、お花屋さん『みたい』じゃなくて、お花屋さんなのよ?」
あれから10年の月日が流れた。
あれが何をさすのかというと、10年前の誕生日かな?そして、今日はボクの27歳の誕生日。
20台も後半に差し掛かり、すこしお肌のこととかが気になり始めた今日この頃。
10台のときは誕生日が待ち遠しかったのに、今ではすこし疎ましい。
というか、年をとるって言うのが嫌になってきたって言ったほうがいいな。
「あは~、なんか失言だった?」
そういうと、昔のように舌を出して笑っていた。
「真紀は高校のときから変わらないね。見た目だけは、すっかりキャリヤウーマンなのに」
「そりゃあもう高校卒業して8年だよ?バリバリ仕事人間さ……って見た目だけって酷くない?」
そういって笑う真紀は、高校のときと変わらず魅力的な笑顔をする。
真紀は、結婚間近の彼が居るとか。
さっさと結婚しちゃえば良いのに、仕事をまだ辞めたくないって言うことでプロポーズを先延ばしにしてもらってるらしい。
「ふ~ん。まぁいいや。とりあえず上がってよ。って言っても、なに出すお菓子無いけどね」
「良いよ良いよ。今日はレイの誕生日だからちゃんとケーキ買ってきたし」
そういうと、手に提げてた袋からケーキを取り出した。
「ケーキかぁ……」
「私が買ってきたケーキじゃ不満ってわけ?うわ~、酷いな~。そんな事言ってると、友達なくすぞ?」
真紀の言ってることは、確かにそうなんだけど。せっかくもってきてくれたのに、こんな態度をとっちゃいけないことくらい分かってるんだけど……
「そういうんじゃないんだけどね。今、うちの中で……」
ケーキを作ってる。そう言おうとしたんだけど、家の中から大きな声が聞こえてきて黙ってしまった。
なにやら、台所のほうから黒い煙も見える……
「うわぁあぁ、焦げた!!」
「しょーかしなきゃ!」
「あ!!!水かけちゃだめだってば!!凛!!」
家の中から野太い叫び声と、まだまだ幼い子供の声が聞こえる。
その声を聞いて真紀は苦笑い。
「なんか、相変わらず渡瀬君と仲良さそうだね」
「そうだね。あの日と変わらずって感じかな?っていうか、今ではボクも渡瀬なんだけど」
こういうのはすこし照れくさい。
「あはは、そうだったね。もう、こんなところでのろけないでよ」
そういって、真紀はボクの肩を軽く叩いてくる。こういう真紀とのやり取りも久しぶりだ。とても懐かしい。
どたばたと、大きな足音と小さな足音が近づいてきた。
「悪い、レイ。ケーキ食べられなくなったから、新しいの買ってくるわ」
台所からボクの旦那のトオルが顔を出した。
その横には、愛しの愛娘の凛がいる。
今ボクのお腹の中には新しい命も宿ってる。
「別に良いよ。真紀がケーキを買って来てくれたから。ほんと、トオルは不器用だよね。結婚してからまだ1回しか手作りケーキ食べれてないよ?」
「悪かったってば、次はちゃんと練習しておくからまかせといてくれ」
そういうと、トオルはにかっと笑った。高校のときから変わらない笑顔。ボクは、この笑顔が大好きだ。
この笑顔を見ると、大概のことは許してしまう。付き合った当時からこいつには甘いんだ。それでも、結構楽しみにしていた手作りケーキ。次こそは食べれるようにと釘をさしておく。
「任せろとかはちゃんと成功してからにしてよね」
「相変わらず、ラブラブだね。見てるこっちが恥ずかしいよ」
物凄い笑顔の真紀。そういう風に指摘されるとなんだか照れてしまう。
「らぶらぶ~」
舌足らずな声で、そういいながら無邪気に笑う凛。トオルに似て、すごく可愛い笑顔だ。親バカだって言われてもかまわない。この凛の笑顔は最強だ。
10年前の誕生日から渡瀬との関係は変わることなく今まで続いてる。
10年前の誕生日から変わらず、渡瀬と過ごす日々はいつも輝いていて綺麗に光ってる。
ボクは君に出会えて本当に良かったと思う。
だから、ボクは1年に1回の誕生日には言うようにしてるんだ。
ボクの素直な気持ちを
「そりゃあそうだよ。ボクはトオルのことが今でも大好きだもん」
誕生日だからって、もらってばっかりじゃ悪いじゃん。だから、最高の笑顔でボクからトオルへのプレゼント。
「はいはい、ごちそうさま。まったく、どうして今でもバカップルで居られるかな~って、今はバカ夫婦か!まぁ、渡瀬君とレイらしくて良いけどね」
そういって、微笑む真紀。
照れ笑いをするトオル。
意味も分からずにはしゃいてる凛。
こういう風に、みんなで笑いあえる今の暮らしは幸せで満ち溢れている。
これからも、ずっとずっとずうっとこうして笑い会える、家庭を築いていきたい。
10年前にボクのココロに咲いた花とは、また違う色を見せているボクのココロの花。
だけど、その花はあの時と変わらず、美しく咲き誇ってる。
この花はこれから先、ずっと枯れることは無いと思う。
どうしてって?
それはね。ボクが今、とても幸せだから。これから先も、きっとずっと幸せだから。
読んでいただいてありがとうございます。後編を書いている途中に浮かんできたイメージを書いたのが、この10年後のエピソードです。蛇足かもしれません。けれども、僕の中ではこれでこの二人のお話はおしまいです。もし、感想・評価があればよろしくお願いします。