中編
太陽は今日も自己主張が激しいみたいで、見事に晴れた土曜日。ノースリーブにバミューダパンツ、頭にはすこし大きな男物の帽子。きっちりと、日焼け止めを肌に塗ったんだけれど、全然太陽から肌を守ることは出来ないみたいで、じりじりと肌を焼いていた。はぁ、袖の無い服なんて着るんじゃなかった。
それに、太陽だって少しくらい曇っていてくれても良いと思う。ほら、そこの中学生も言ってるじゃない「もうすこしくらい太陽はサボってくれたほうが良いのにね」って……まぁ、実際にサボられたら地球が滅んじゃうんだろうけど。
さて、どうしてボクがここにいるかと言うと、それは明日の渡瀬との対決の準備の為だ。昨日、散々悩んだ末に出した結論。それは、渡瀬にこの胸のうちの思いを思いっきり打ち明けてけじめをつけるってこと。明日、ボクの誕生日に渡瀬に告白する。けど、今持ってる服は全部一度は渡瀬の前で着てるから、今日新しい服を買って、新しい服で勝負を挑むつもりだ。
どれだけ勝率が低くても、少しでも勝率が上がるならそれを実践する。断られるって分かっていても、断られたくないって思うし、渡瀬の隣はボクがずっと独占していたい。その為なら、ボクはなんだってする。それくらい、もう渡瀬でいっぱいだってことに昨日気がついたんだ。
それに、明日の勝負服を選んでもらう為に日は助っ人を呼んでいるんだ。渡瀬のお陰で友達になれた人、田原真紀。
最近では真紀って呼び捨てに出来るくらい仲が良くなった。ボクの毒舌も全然気にしないみたいですごく付き合いやすい子。たぶん、女友達の仲で一番の友達。
約束した時間は12時丁度に駅前の噴水。
現在の時間は12時を少し回ったところ、そろそろ来るとは思うんだけどじっと待ってるなんて退屈すぎる。それに、暑苦しいくらい輝いている太陽がボクの体力を徐々に削ってる。噴水なんて日のあたる場所を待ち合わせ場所にするんじゃなかった。そんな後悔が頭をよぎる。けれど、この駅前は噴水以外に目印になりそうな場所なんてほかに無かったから仕方が無い。
待ち合わせにしてた噴水の前のベンチに腰を降ろして駅のほうを眺めていると、携帯を片手に持ったサラリーマンが忙しそうに早や歩きをしていた。
そんなに急がなくても良いんじゃない?って思ってしまうほどの速さに少し興味深く見つめているボク。この暑い中、多分取引先に向かう途中なのだろうサラリーマンに軽く同情していた。
「こんなに暑いのにがんばってるんだ……けど、暑苦しい」
けど、口からこぼれた言葉には一言無駄なことが入ってくる。こんな自分の口が嫌いだ。
「こら、そんな事言わないの!あのおっさんもがんばって働いてるんだから!たとえ暑苦しいと思っていても、言ってはいけないよ?」
不意に後ろから声が聞こえた。
腰に手を当てて二カっと笑っている真紀がいた。
「人に説教する前に、真紀遅刻してるよ?」
全然悪びれた様子も無く、舌を出して笑っている真紀。
「まぁ、いいじゃん。ちょっとくらい。それよりさ、ご飯食べに行こうよ!走ってきたからおなかペコペコだよ」
自分に都合の悪い話題をどこか遠くへ放り投げて、自分の欲求に忠実に行動する。
自分の感情をストレートに表現する真紀は裏も表も無い、そんな真紀がすこしだけうらやましかったりする。
ボクの正反対の性格だ。
「ほら!ぼうっとしてないで行くよ?こんな暑い中、陽が当たるところなんて居たくないしね」
「……その陽の当たるところでずっと待たされてたボクはどうなんのよ?」
「細かいことは気にしない!そうだねぇ~涼しくなるもの食べに行こ!」
ボクの右手を取って歩き出した。ふいに振り返ってボクの顔を見て
「ほら、そんなにふてくされてないでさ、遅れたことは謝るからその仏頂面やめなよ」
「別にふてくされてないから、もともとこの顔なの。仏頂面でわるかったわね!」
「わかってるよ~。言ってみただけだから、気にしないで。前だったら怒らないで無表情だったのにね。人は変われば変わるもんだね」
屈託の無い笑顔で笑ってる真紀を見てると、怒るのも馬鹿らしくなってきた。それに、その笑顔を見てるとこっちまでつられて笑ってしまう。
「人のことからかってないで、さっさとお昼食べようよ。ボクもおなかすいてるし」
ボクは真紀に引かれている手を払って、真紀の横に移動した。
やっぱり、友達と肩を並べて歩くのってすごくうれしい気持ちだ。
今まで、友達なんて居なかったからすごく新鮮だし楽しい。
「じゃ、ざるそばでも食べに行きますか!」
「賛成~」
ボクは右手を上げて返事をしてあげた。
その様子を見た真紀は又笑い出した。
ボクもつられて笑えてくる。
真紀といたら笑がたえないな。もしかしたら、渡瀬はこういう子の方が好きなのかもって考えてしまう。
渡瀬と真紀が一緒にいるところはたまに見かけるしね。
まぁ、今は考えても仕方ないし、とりあえずお蕎麦屋さんを探しますかね。
◆
ここは、某うどん屋さんのチェーン店。
トレーを手にレジまでに並んでいる揚げ物やお刺身などのおかずを取っていって、最後にレジにて支払いを済ますシステムのお店。
だから席を取るのが一番最後になるんだけど、もし満席だったらどうするんだろ?そんな疑問が頭の中を駆け巡ったんだけど、特に心配する必要も無かったみたいだ。
先に会計を済ました真紀が窓際の席から手を振って待っていた。
「お~い、こっちこっち!」
「そんな大きな声を出さなくてもわかるから、かなり見られてるよ?こっちが恥ずかしいよ」
何気に、店の中の注目を集めてしまっていた。
だって、手を振ってるだけでも目立つのに、その上大声で呼ぶんだよ?当たり前に目立つよね。
ボクは早足でテーブルまで行って、真紀の向かいに腰を下ろした。
「まぁ、細かいことはいいじゃん。さ、食べよ」
そう言って真紀は割り箸を割って食べ始めた。
「真紀、うどん屋さんなのにざるそばって……」
「まぁ、気にしない気にしない。なに食べようが、客の自由でしょ?おいてあるんだから別にいいんだよ。ほら、レイも食べないとざるうどん私が食べちゃうよ?」
にこっと笑いながらジョーダンジョーダンって言ってる真紀だけど、今の一瞬は目がマジだった。早く食べないとホントに食べられてしまう気がする。ボクも割り箸を割って食べ始めた。
「でさ、今日はどういう用件なわけ?レイが私を遊びに誘うって珍しいしね」
ずずーっとそばをすすりながら真紀が尋ねてくる。いったいどういう風に言ったらいんだろ?明日告白するからその時用の服を選んでほしいって言うの?それじゃあ、告白するのバレバレじゃん。
別に、告白すること自体はばれても全然問題は無い。けど、真紀の性格を考えると絶対にその現場で生で見たがるからあんまり言いたくないんだけど。
「ん~、そんな無表情で悩まないでよ。ていうか、私に用があるのにその用を言わないっておかしくない?」
真紀はジト目でこっちを見てくる。……そばをすすりながら。
「まぁ、言いたくないなら言わなくても良いんだけどね。私も暇だったし、たまにはレイと遊びに行きたいし。それにさ、私呼び出した用って渡瀬君がらみでしょ?」
真紀の『渡瀬』という言葉にココロが暴れる。いきなりの不意打ちで、ココロが揺れる。けれど、ここで動揺してしまったら真紀の思う壺だ。ここは落ち着かないと。
「そ、そんなわけないじゃん!なに言ってんのよ」
動揺が心の中から抜け出して、言葉に乗り込み真紀に向かって発信してしまった。ほんと、こういうときにいつもの無表情、無感動が出ればいいのに、こういうときに限って感情が表に出てしまう。
プッと噴出す真紀。笑いをこらえるように下を向いてしまった。
けれど、真紀はどうして渡瀬がらみで呼び出されたって言うのがわかったんだろう?そんなこと、昨日誘うときも今日会ってからも一言も言ってないのに。それどころか、昨日の連絡から今まで渡瀬の名前は一度も出していない。もしかして、真紀は超能力者なのかもと真剣に考えてしまった。
真紀を見ると、もう笑うのをこらえるのをやめて普通に笑っていた。
「カマかけてみたんだけど、あっさり引っかかるなんてね。いつものレイじゃ考えられないよ。いつもはクールにスルーするか受け流すかするのに、渡瀬君がらみになると人が変わったかのように素直になるんだから。カワイイね」
最後の言葉は、とりあえずおいておこう。真紀はたまに意味不明なこと言うから。
「別に、クールとかそんなつもりわないし、渡瀬がらみだからってべつに素直になったりしてないよ?ていうか、カマかけたのね……」
「ごめんごめん、冗談のつもりだったのに図星とかホントに偶然だからね」
目に泪をためて笑う真紀を見てると、怒る気力もなくなってくる。これもある意味真紀の魅力だ。
「それで、渡瀬君がらみで私に用事ってなぁに?」
真紀はすごいニヤニヤしながらこっちに迫ってきた。ものすごい威圧感だ。
なんか手もワキワキと動かしながら体ごと迫ってきて近づいてきているっていう錯覚までおこ……ってほんとに体ごと迫ってるし!
「テーブルに体を乗り出さないの!もう、高校生なんだから少しは考えなさいよ」
「あれ~?もっと取り乱すと思ったのに全然クールねぇ。やっぱり渡瀬君がらみじゃなきゃ取り乱さないか……ふむふむメモメモ」
ぱぱっと自分の席にもどるとカバンから手帳を取り出し、本当にメモを取り始めた。
「で、用事を早く言いなよ」
メモをいつでも取れる体勢をとって、ボクに催促してくる。
なんだかすごく言いたくなくなってきた。目がキラキラしてる真紀がすごくムカつく。ボクは真紀のおもちゃなんかじゃないし。
「やっぱり言うの辞めた。今の真紀見てたら、どう転んでも真紀がおもしろがるだけだもん。これでもボクは真面目に悩んでるんだから、そういう風にされると嫌だ」
「ぐはぁ~、なんか今グサッときたよ?ひどくな~い?」
わざとらしく泪を貯めてこっちを見てくる。
そんな顔されると、ボクが悪い子とした見たいじゃん……
ん?なんだろ?右手に目薬があるような……
「…真紀?なにその目薬」
「あれ?もうバレちったか?いやぁ~冗談だよ冗談」
「なんか罪悪感感じた自分が馬鹿みたい。真紀なんて馬にでも踏まれたらいいよ」
舌を出しながらおどける真紀。
さっきとは違って今回はちょっとムッと来た。ちょっとやそっとじゃ許してなんてあげないんだから。
「ほら、ちょっとざるそばあげるから機嫌直してよ」
もうそんなものなんかで釣られるボクじゃ……
「レイちゃ~ん、ほっぺたが緩んじゃってるよ~」
「緩んでない!」
「嘘だね。もう、ツンデレだねぇ~。怒ってる振りも大概にしないと、渡瀬君にも勘違いされるよ?」
「え?」
「だ~か~ら~、ちゃんと態度で示さないと人には伝わらないよって言ってんの」
いつの間にか真紀はまじめな眼差しでボクを見ていた。
その瞳は真剣そのもので、ボクの心なんて全て見透かしてしまいそう。
「ほら、言ってみ」
ふいに、表情をやわらかくしてボクに話を促してくる。
どうしてだろ、なんでこんなにボクの心にするりと入ってくるんだろう。
どうして、こんなに、こんなに優しいんだろ?
今聞かれてることは昨日のことじゃないのに、昨日のことを思い出してしまう。
昨日たくさん泣いたのに、また、涙が出そうになる。
そんな顔を見られたくなくて俯いてしまった。今しゃべるといらないことまで言ってしまいそう。
自分の意思とは関係なしに暴れる心を押さえつけないと、また泣いちゃいそう。
「まぁ、今は無理にとは言わないけど、この食事が終わるまでには今日の用事教えてね」
そういって、ボクの頭を優しくなでてくれた。
こんなちいさなことが、今のボクにとっては涙腺というダムを決壊させる爆弾。決壊したダムのように目からは涙がとめようも無く流れてくる。
真紀はボクが落ち着くまで、頭をなで続けてくれた。
「まったく、君はかわいいね」
そういいながら、なで続けてくれたんだ。
◆
「なるほどねぇ~、自分の誕生日に告白すると。あわよくば、渡瀬君が自分への誕生日プレゼントってこと?」
「そんなんじゃないってば!一つの区切りってことで、自分で納得したいだけ。」
少し前にやっと泣きやんだボクは、真紀につれられて喫茶店へ来ていた。
さすがにうどん屋さんでするような話ではなくなってきてるし、周りから注目されるようなアクションも起こしてしまったわけだから懸命な判断だとは思う。
けど、喫茶店に移動してからずっと真紀からの質問攻めはどうかと思う。で、とうとうしゃべってしまったし。
「ふ~ん、まぁ聞いてしまった手前、ちゃんと服選びに付き合うから安心しなよ」
ぱちっとウインクまでくれてしまう始末。
「やる気満々なのはうれしいけど、ちょっとうざい」
「またまた~、内心うれしいくせに素直じゃないんだから」
ボクの言葉遣いにも動じなくて、真意を読み取ってくれるのはかなりうれしいんだけど、うざいのはちょっとほんとだったり……
ちょっとうざいくらいで接してくれないとそっけなくするから、すぐ人がボクの周りからいなくなっちゃうんだけどね…
「まぁ、今日は服選びを手伝ってもらうのと、グチを聞いてもらおうともっただけ」
「そっかそっか~、私はレイに愚痴を言ってもらえるくらい信用されてるって事か~、なんか照れるね」
はにかむように笑う真紀は、同姓のボクがみてもかなり魅かれるような魅力がある。
こんな笑顔を見せられたら男子はひとたまりも無いんだろうな。
「まぁ、信頼してないってことは無いよ。真紀だしね」
とにかく、勝負は明日なんだ。今日はその準備をしなくちゃね。
明日どんな結果になっても、後悔が無いようにがんばらないと真紀に申し訳ないし。
「なんか含みのある言い方だなぁ~、まいいや。とりあえず、服買いにいこっか」
そういうと真紀は立ち上がり、会計をするためにレジへ。
ボクもそれに習って、レジへ向かった。
「今日は、私のおごりね。かわいいレイ見せてもらったから、それで充分おなかいっぱいだよ」
「なっ、なんでそうなるの!?」
真紀は笑って何も言わなかった。
真紀なりに応援してくれてるってことにしておこう。そうしないと、ボクの精神が持たないかも。
ボクと真紀が向かったのは近くのデパート。
それからの真紀はすごかった。
ボクの体力が尽きるまで、服屋という服屋を見て回り、その服屋にある服でボクのサイズに合う服は全てボクに当てて似合うか見ていた。
見た服の数は多分3桁に達しているかもしれない。けど、それはボクの体力が尽きたからであって、真紀いわく『このデパートにある服で一番似合うものを買おうね』って最初に言ってたから、ホントに全部の服を見ようとしてたかもしれない。
数ある服の中から選ばれたのは、うすい水色のワンピース。
そして、今はデパートの中にあるフードコートで一休み中だ。
「あのさ、ボクはカッコいい感じの服がほしかったんだけど」
真紀は飲んでいたオレンジジュースから口を離した。
「いやいや、何を言ってんの?レイにはこういった服のほうが似合うのよ。普段のイメージとは全く違って、なんていうか清楚みたいで、だけど可憐なレイ。試着したときに『これだ!!』って思ったね」
そう、ボクはカッコいい服がほしかったんだ。
それも男の子よりもかっこよくなれるような服。どんなことがあっても、強気で居られるような服が。
だけど、買ったのはワンピース。それも飛びっきり可愛いものだ。
「だけどさ、やっぱりボクの好みってあるじゃん」
ボクの抗議をもろともせずに、にっこりと笑う真紀。
「これを着れば、渡瀬君なんていちころよ!それに、ほかの男子どもも選びたい放題!もしかしたら向こうからよってくるかも!」
きゃーっとほっぺたに両手を添えてくねくねする真紀。
正直、ちょっときもちわるいです。
「ボクはさ、付き合うっていうのは両方が好き同士じゃないと嫌なんだよね。だけど、入学当初からうざったいくらい言い寄られて迷惑してるのよ。それに今は、渡瀬以外とは付き合う気なんてさらさら無いのにね」
頬杖をついて、自分のグレープジュースを飲む。
ふと真紀からの視線に気がついてそっちを見てみたら、真紀がニターっと笑っていた。
「なにわらってんの?」
真紀はふふふっと含みのある笑いを見せながら口を開いた。
「いやいや、レイちゃんは天然さんなんだねぇ~」
いまだに、ニタニタしている真紀。
いったいさっきの会話の中で、何処にそんなにニタニタとわらえるようなところがあるんだろう?
「いやいや、意味わかんないし」
「ふぅ~ん、いや~、ほんとに気がついてないし」
いっそうニタニタした顔を辞めない真紀。ちょっとイライラしてきた。
「だから、どこがなのよ?」
「全く、レイは自分の発言に自覚あるの?さっきね『渡瀬以外とは付き合わない』って言ったのよ。それってさ、『私は渡瀬君が好きです』って言ってるようなもんじゃない。まったくのろけちゃって~」
いや~ん、っとさっきと同じようにクネクネする真紀。
そんな真紀を見てる余裕は今のボクには無かった。
しまった~!っという、言葉がぐるぐると頭の中で回り続けていたから。たしかに、渡瀬のことは好きだ。けれど、他の人からその事実を指摘されるのはかなり恥ずかしい。
「うわ~、レイちゃん真っ赤だよ~。いやぁ~、今日は良いものが見れる日みたいですねぇ~」
自分でも真っ赤なのは分かってる。けど、全然体が言うことを利かなくて顔の色が戻せない。いつもならこれくらいポーカーフェイスで誤魔化せるのに。
こういう風に自分の感情がストレートに表情に出るようになったのも、渡瀬のお陰かもしれないけど、こういうときは前のままでよかった気がする。
こんなの、自分のキャラじゃないし、恥ずかしいし。ほんとに、顔から火が出るようだ。
「もういいじゃん!そんなの!そろそろ出よ!ジュースも飲み終わったし!」
ずずーっと残りのジュースを飲み込んで、ボクはここから立ち去る理由を造っていた。
「あははぁ~、飲み終わる前に飲み終わったって言われても、全然説得力ないよ。あ~涙出てきた。今日のレイってば最高だね」
涙を流しながら笑う真紀を見て思う。今日真紀に頼んだのは間違いだったのではないかと。
◆
デパートから朝真紀と待ち合わせした駅に帰ってきたら、もう周りは赤く染まっていた。
太陽が傾いて大きく見える。昼間は、溢れ返るほど人がいたのに今はぽつりぽつりとしか人がいない。
「あ~っ、たのしかった!」
「ボクは疲れた」
ボクは対照的なテンションの真紀がちょっと疲れる。
ボクの右手には服が入った袋がぶら下がっていた。
真紀が選んでくれた勝負服。これで明日の大勝負に勝つ予定。っていうか、勝つとか負けるとかじゃない気がするんだけど、真紀が『絶対勝ちなさいよ!』とか言っててちょっとついていけなかった。
まぁ、勝ち負けって言うか自分のけじめなんだしね。負けるとしたら、自分に負けるとかかな?
ちらりと左手にぶら下がってる大きな紙袋を見て、大きな溜息が出てしまう。
「いやぁ~、レイもいっぱい買ったねぇ~」
「こんなに買うつもりじゃなかったのに……」
「欲しいと思ったら買わなきゃ損だよ!」
「そう言ってそそのかしてくるから、こうなっちゃんだよ!」
真紀がずっとこんな調子だから、ついつい予算を大きくオーバーしてしまったんだ。
ちょっと良いなって思った服を手当たり次第に買い物籠に放り込まれて、気がついたら服の山が出来てしまっていた。
これでもその服の山から、さらに好みのものだけに絞ったんだけど、それでも5,6着はあると思う。
はぁ~、次のお小遣いの日までまだまだあるからちょっとの間は、節約生活しないと……
「まあまあ、自分へのプレゼントだと思ったら良いんじゃないの?そのつもりで今日、私を誘って服を買いにいったんでしょ?」
「いやいや、違うから。渡瀬に告るときの服だけを見てもらおうと思ってたのに」
「ふぅ~ん、そんなこと言っちゃうんだ?結構ノリノリで服選んでたくせに」
「えっ?そ、そんなことないよ」
「動揺がモロに表情に出てるんだけど。まぁ、可愛いからいいか……あっ!そうだ!」
何かひらめいた!そんな感じでこっちを向く真紀。
そのひらめきがかなり怖い。変な言い出しそうでかなり怖いんですけど。
「よし!帰ろう!」
真紀が何かを口にする前に、さっさと帰ってしまえばいいんだ。すこしだけ、良心が傷むけど……
ふと、横を歩いていた真紀がいなくなった。
後ろを振り向くと真紀がうつむいて立ち止まっていた。
「うわぁ~、レイがいじめる」
こ、これは、マジ泣きだ!
大粒の涙を滝のように流しながら泣きじゃくっていた。
「え?え?今のボクが悪いの?」
「まだもうちょっとあそぼ~よ~」
幼稚園児のような理由で泣くなよ。
心の中で盛大に突っ込みを入れてみるものの、それを実際に真紀には伝えられなかった。
さすがに、この状況でそんな冷たい言葉を言ってしまったらもっと泣きじゃくってしまうのが、目に見えている。
それに、少ししか痛んでなかった良心が、激しく痛み出したし。
「わかったから!もうちょい遊ぶから!だから泣きやんでよ!」
「言ったね。遊ぶって言ったね。言ったからには遊んでもらうから!」
顔を上げた真紀の目には、もう涙なんか無かった。
そして、右手の中には目薬が。
やられた。お昼ごはんを食べてるときにもやられそうになった手にやられてしまった。
「よし!とりあえず、渡瀬君ちの花屋さんにでも行きますか!敵地偵察は大事だよ~」
さっそうと歩き出す真紀に唖然とするボク。
「ちょ、ちょっとまってよ!どうして渡瀬んとこ行くのよ!?」
「え?だから敵地偵察だってばぁ~」
真紀は、はぁ~っと大きなため息をついていた。
「ていうかさ、今日の話を聞いてて思ったんだけどさ、レイは渡瀬君に会いたくて会いたくてしょうがないんでしょ?」
ぐさっと、胸に矢が刺さった気分。
たしかに、本当のことなんだけれども他の人に言われたらかなり恥ずかしい。
「ま、まぁそうなんだけどね。けど、もしさ。三浦がいたらどうすんのよ……」
「確かにそうだけどね。けど、会いたいなら会ったほうが良いと思うんだよ。レイはさ、もっと積極的になるべきだと思うんだよね」
「それは、自分でも分かってるんだけど。たぶん、今三浦と渡瀬が一緒にいるのを見たら明日告白する勇気がなくなると思うからやめときたいんだけど」
真紀はさっきよりも数段大きなため息をついていた。
「あ~もう、わかった!わかったわよ。そのかわり、絶対明日告白しなよ?私はレイのこと応援してるんだから」
真紀の優しい気持ちがひしひしと伝わってきているのがわかる。
さっき渡せのトコに行こうとしたのも、ボクが会いたいと思ってるのを感じたからだ。
応援してくれてるのも、全部全部ボクのため。
こんなに思われているのはすごくうれしい。けど、今すぐにその気持ちにこたえることが出来ない自分自身にイライラする。
「なぁに、今焦らなくても明日が来たら決着つんだからもうちょっとの我慢だね。私ちょっと暴走してたみたい。ゴメンね」
顔の前で手を合わせて申し訳なさそうな顔をする真紀。
お願いだからそんな顔をしないで。その期待に応えられないボクが悪いんだから。
そう、ボクがこの期待に応えなくちゃいけないんだから。
「今日はありがとうね、真紀。明日、絶対うまくいかすから!良い報告するから待っててね!」
ぽかん、そんな擬音が聞こえてきそうな真紀の顔。
けど、すぐに意味を理解したみたいで、ニコッと笑ってくれた。
「うん!良い報告待ってるからね!」
満面の笑みで笑いかけてくれた。
その笑顔のためにも、明日ボクは渡瀬に告白する。
そんな決意を新たに固めて家路に着いた。
評価、感想などがあればしていただけたらうれしいです。作者が飛び跳ねてよろこびます。