第37話:開拓団「?」
───日間賀島:港
その日、御霊蛇は日間賀島の港まで足を運んだ。
新設計の船のお披露目と、新たなダンジョンの設営のために、海向こうへと足を進めるためである。
「ふぅ・・・」
船の作成を済ませ、出来上がった船を港まで運ばせる。
ここは、日間賀島。
千秋家のもの・・・・もとい、この私、御霊蛇のものと化した三河湾の先に浮かぶ島である。
かつては、漁師崩れの海賊が、幅を利かせていたこの島も。
今では、他の者が立ち寄らない完全にクローズドな島となっている。
そんな島で、今、新たなる試みが行われようとしていた。
加藤家や生駒家から選抜された、口の堅い手練れの船乗りたち9名、
そしてまだ元服も済ませていない年齢の5人の少年少女たちが、波止場に佇んでいる。
彼らの視線の先にあるのは、御霊蛇が用意した一艘の船だ。
「こ、これが・・・船、ですかい?」
ベテランの船頭が、呆気にとられた声で呟く。
全長三十メートル
一般的な木造船特有の、継ぎ目や木目の一切ない濡れたような灰色の船体。
中でも特徴的なのが、その"帆"にあった。
それはいわゆる一般的な布ではない。
マストには、巨大な黒く大きい板が聳え立つだけだ。
「ははは・・、御霊蛇様に掛かりゃ、船でさえも見たことのないもんが並びやがりますな。」
御霊蛇は、ニヤっと笑いながら、その黒き翼を見上げて言う。
「そうだ。これが『海蛇』だ!」
その言葉を聞き、五人の孤児たちのリーダー格の少年が前に踊り出た。
彼は芝居がかった仕草でバサリと外套を翻すと、高らかに叫ぶ。
「フハハハ!見よ!そして恐れ慄け!これこそが我らが箱舟!世界の理を覆す、新たな黒き翼である!」
「"りんたろう"声がデカいよ」
その横で、体格のいい少年が呆れたように耳を塞ぐ。
彼は船体に近づくと、その滑らかな曲線を愛おしそうに撫で回していく。
「あぁ・・・いいなぁ・・・・しかし、布じゃなくて板が帆になるなんて、どんな理屈だろう?
そして、この曲線の反り具合、この加工技術・・・・・・萌ゆる・・・!」
「てっててーん♪船の中も凄いよ〜。お部屋がいっぱいあって〜、まるで御屋敷みたい〜」
そしてもう一人
おっとりとした少女は、既に船内を検分してきたのか、ニコニコと笑顔を見せながら報告する。
「にゃははは、ここなら騒ぎ放題なのよさ!」
「"りんたろう"さんが騒ぎたくなるのも分かります。すごいですよね、この船」
そこに、言葉を重ねていく、二人の少女のような子たち
"りんたろう"
"いたる"
"まゆ"
"るみほ"
"るか"
彼らは、今回の計画の管理者を担わせようとしている子供達である。
「行くぞ」
俺は、その一言とともに船へと乗り込む。
「御霊蛇様、待って〜」
「お、おい、早いんじゃないか!」
「お、待ってくだせぇ支度いたしやす。」
など、様々な声が上がる。
乗員15名。
初公開の初航海。
そして、俺の今回の計画とは、琉球王国を目指して進み、その近郊に新たなる拠点を建てることだ。
「くくく、元気なことよ。(後は此奴らが真っ当に育ち、俺の仕事を手伝ってくれれば良い)」
新たなる拠点、そこは、御霊蛇が産出するダンジョンの品を売り捌くための、偽装拠点の一つとなる。
海外から来る船や日本の各国から来る船などとと取引し、そこからさらに全国へと様々な品をばら撒いていく。
そんな計画だ。
熱田から出された品も、ここの拠点があれば、大抵はここが産出だと思わせられるだろう。
そして何より、彼らは孤児だ。
この時代、孤児たちというのはとても多い。
大人になるまで育たない子供も大勢いる。
俺が救えるのはほんのわずかだが、彼らの協力があれば、もっと多くの子供達を救えるだろう。
俺は、彼らにもそう教え、教育してきた。
彼らとの付き合いは、まだ半年ほどだ。
だが、その期間に見合わないほど、濃い付き合いをしてきたと思っているし、今後も同じように付き合いを続けるだろう。
それと、彼らの名前、これは俺が名付け親だ。
彼らのキャラクター性がそういうものだったというのもあるが、
何よりこの5人組が、俺の目にそう映るほどにとある作品の彼らに似ていたというわけだ。
「ふ,フハハハハ、世界は我が手の中にある!海蛇よ!いざ、進軍!!」
「進軍〜」
「にゃはははは、進軍進軍〜」
そうして、船は出航していく。
だが、目的地の発見は予想以上に困難を極めることになる。
地図は、御霊蛇のうろ覚え知識の中にしかなかったからだ。
「(コンパスよし!六分儀よし!・・・で、どうやって使うんだっけこれ・・・まぁ、いっか。なんとかなるだろ)」
食料や水は大量に積まれているとはいえ、そんな適当に進み出した琉球王国方面開拓団。
果たして彼らは、琉球王国へと無事辿り着けるのだろうか・・・?
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───出稿してから一刻後
「お、面舵いっぱぁぁぁい!」
絶叫と共に、"りんたろう"が舵輪にしがみつく。
既に、内湾を出て、外洋に出たあたりだ。
"りんたろう"は、本人の希望も相まって、そうんを担当している。
とはいえ、彼の後ろには常に俺がついているので、そう簡単に変な方向へと進むことも 沈没するようなこともないのだが。
沖へと出た船は、コンパス片手に船を進める俺の指示の下、外洋をどんどん進んでいる。
この船の速度は、おおよそ28ノット
この時代の船の速度が、6ノットであったことから考えると、うさぎと亀Lv.の差がある。
時速に直すと、
・安宅船や関船が時速10km
・海蛇が時速50km
となる。
これだけで、自転車と車ほどの差が出ているということが分かるだろう。
何より、この船は逆風でも嵐でも関係なく進むという当時の技術Lv.から考えると、あり得ないオーパーツだ。
こんな船を発見してしまった海賊や漁師は、夢でも見たと思い込むか、幽霊船だと騒ぐかの二択だろう。
「ひゃぁぁぁ・・・・は、速いです!速いです、"りんたろう"さん・・!!」
「にゃはははははははっ!凄いすごーい」
「うわー、すごいねー!」
「流石は、御霊蛇様。まさしく神様だお」
「お、おい!なんでお前らそんなに余裕なんだ!めちゃくちゃはや・・・ぅお!」
"りんたろう"が、操舵の反動に負け、振り回されている。
正直、操舵そのものは、そこまで難しくない。
今回船乗りたちについて来てもらったのも、いざ海に沈んだ時に、「慣れたものがいた方がいいだろう」という配慮からでしかない。
実際、船乗りたちは、最初の頃は、操舵や帆についての解説を聞きつつ動かして楽しんでいたのだが、
外洋に出たあたりで様子が変わり、どんどん顔色が悪くなっていたのだ。
どうにも、船酔いらしい。
彼ら船乗りは、余りダンジョンに入ることも少なく、強化されていないのだろう。
元々、内海での船乗りだというのも相まって、この高速船で外洋に出たことで、一気に船酔いになってしまったのだと思われる。
「だから、ダンジョンに潜っておけとアレほど・・・。いや、彼らは補給要員か・・、それなら仕方ない、のかね・・・?」
彼らは、日間賀島との見せ掛けの補給要員。
いざダンジョンが使えない時の、補助要員でもある
そんな彼らは、島内で働いている者たちより、ダンジョンに寄れる回数がそもそも少ないのかもしれないな・・・と思い直す。
実際、彼らは半日から一日かけて熱田と日間賀島を行き来しており、ダンジョンに入ってモンスターを倒せる時間が少ないのだった。
熱田の方は、基本的に千秋家の者が優先で使用する以上使えず、日間賀島ダンジョンが中心になる。
そうすると、なおのこと使えなくなり、現状に至るのだろう。
「もう少し、見直させるか・・・」
彼らの仕事見直しと、ダンジョンの改装に思いを馳せつつも、船はどんどん西南方向へと進んでいく。
目指すは、現代の沖縄県 琉球王国だ。
それから、一刻ほどの間、彼らは甲板で遊んでいたが、それにも飽きたのかもう何人かは部屋へと戻っていった。
残ったのは、ダル・・・もとい"いたる"とフェイリ・・もとい"るみほ"だけだ。
無理もない。
出港から数時間。
かろうじで陸地が見えるとはいえ、ほとんど海しか見えないのだ。
元々、海に近い場所で住んでいた彼らには、すぐに飽きてしまう様な光景だろう。
「まぁ、しばらくは部屋で休めばいいさ」
結局、俺一人になってしまった操舵室で、俺はひとり労働する。
思っていたのとは違う展開ながらも、子供達が楽しそうにしていた光景を思い出しながら、船は沖縄・・・琉球王国方面を目指して進んでいい区のだった。
「そういえば、コンパス・・全く役に立たないな・・・」
結局、六分儀の使い方も、コンパスの活用法もイマイチ分からないままに、彼は船を進めていく。
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