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戦国ダンジョン ~現代人は信長の足元で、歴史支配の夢を見る~  作者: 斎藤 恋
第二章:千秋季光救済作戦

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第32話:八剣砦 拡張・攻防



───天文13年(1544年)9月22日:早朝



「全軍、出るぞ!稲葉山を焼き払う!!」



織田信秀のげきが飛び、5,000の軍勢が八剣砦を出て北へと動き出した。

その背中は自信に満ち溢れ、これから起きる悲劇など微塵も予期していない様子であった。


千秋季光は、櫓の上からその背中を見送り、小さく溜息をついた。



「・・・行かれましたな」


「あぁ。だが、ここからが本当の戦いだ。季光、時間は惜しいぞ」



隣に立つ吉法師(信長)は、父を見送る感傷に浸ることもなく、即座に振り返った。

その視線の先には、信秀が連れて行かなかった僅かな留守居の兵と、熱田から運び込まれた膨大な量の"結板むすびいた"の山がある。



「さあ、始めるぞ。御霊蛇みむすび様の授けた最強の城、"五稜郭"を・・・!」


吉法師の瞳には、これから造り上げる異形の城への期待と、来るべき殺戮への冷徹な計算が宿っていた。



───時を遡ること、2週間前


信秀が八剣砦に到着し、この地を兵站基地として利用し始めてからのこと。

当初作り出した八剣砦は、75メートル四方の正方形だった。


だが、この砦は、信秀軍5,000を収容するには狭すぎた。



「予定通り拡張するぞ。・・・御霊蛇様の知恵の力、とくと見るがいい、利政。」





四郎丸と吉法師、そして季光は、砦の拡張計画を再確認していた。




───ダンジョンの第一層


その卓上に広げられた図面には、戦国時代の常識ではあり得ない形状の城が描かれていた。



「・・・五芒星、でございますか?」


季光が、図面を指でなぞりながら怪訝な声を出す。


そこに描かれていたのは、正方形の砦の周囲に、五つの三角形が突き出したような形

いわゆる『五芒星ごぼうせい』だった。



西洋で言うところの『稜堡式城郭りょうほしきじょうかく』だ。


「うむ。五つの角を持つ星じゃ。名付けて『五稜郭ごりょうかく』、じゃの」


御霊蛇の声が響く。



「季光よ。通常の四角い城、これの弱点はわかるな?」


「はっ。壁に取り付かれた際、真下への攻撃が難しくなる『死角』ができることですかな?

石落としや横矢掛けで防ぐのが常道ですな」


「その通りじゃ。だが、この五芒型には『死角』が存在せんのがわかるかの?」



御霊蛇は、図面上の星の角(稜堡)を指差した。


「え?」


「ほれ、敵がこの壁に取り付いたとするじゃろ?すると、隣にあるあの突き出した角から、敵の背中と横腹が丸見えになる。」


「「あっ・・・!」」


季光は、戦術家としての勘で即座に理解した。

吉法師(信長)も、その余りの効率の良さに驚愕した。



星型の壁面は、常に"隣の壁"からカバーされる角度になっている。

敵がどこに取り付こうとも、必ず別の壁から横撃を受ける構造なのだ。



「つまり、壁に張り付いた瞬間、そこは遮蔽物の全くない死地になる・・・と?」


「その通りじゃ。特に、我らには『連弩クロスボウ』があろう?

一直線に背を見せて並んだ敵を、あっという間に殺れる。」


「くくく・・・!これはエゲツない。戦神でもあるのか?貴方は。」


吉法師が楽しそうに笑う。

彼は、この効率的な殺戮城砦を一目で気に入っていた。



「よし、これでいこう季光。親父殿の兵も使って、この二週間でこの"五稜郭"を作る。御霊蛇様、必要な枚数の結板は用意できるのだろうか?」


「既に腐るほどあるわ。お主らが持ってきた資源のおかげでの。それに、今回は壁を作るだけ。中の内装にまで気を使う必要はあるまい?敵を誘い込み、連弩の射撃を浴びせられれば良いじゃろ。」



こうして、八剣砦の拡張計画が定まった。



この計画に基づき、どんどんと拡張作業が進んでいくこととなる。





───拡張工事期間



「なんだこの形は・・・?」


「角を突き出させて、何の意味があるんだ?」



動員された織田家の足軽たちは、口々に不満を漏らしながら作業を進めていた。


彼らにとって、城とは四角いもの

わざわざ三角形の出っ張りを五つも作るなど、資材と労力の無駄にしか思えない。



「なんかのまじないか?」


「千秋様は神官だからな。結界でも作る気だろうよ」



そんな噂が飛び交う中、作業は異常な速度で進んだ。

なにせ、木を切る必要がない。


ダンジョンから次々と吐き出される規格化されたパネルを、図面通りに並べてボルトで締めるだけなのだ。

まるで巨大な積み木遊びである。


大人の背丈の二倍はある壁が、一日で数百メートルずつ伸びていく。


その様子を、吉法師は毎日櫓の上から監視していた。

その懐には、御霊蛇から新たに与えられた"奇妙な道具"を入れていた。



それは、金属とも木ともつかない、鈍い光沢を放つ素材で作られた"円錐形の筒"

大きさは二尺(約60cm)ほど


根元は細く、先端は花のように広がっている。



「・・・若君、それは?」


側近の犬千代が尋ねる。


「これか?御霊蛇様が作った『雷鳴筒らいめいづつ』だそうだ。なんでも、声を大きく響かせるための道具らしいぞ?」


「声を?ただの筒に見えますけど・・・」


「ふふ、まぁ見ておれ」



吉法師は、作業中の兵士たちに向けて筒を構える。

口元に筒の細い方をあてがい、腹に力を込める。





「お前たち!! 手が止まっておるぞ!!」


ビリビリビリッ!!






「うわっ!?」


「な、なんだ!?」


作業場にいた数百人の兵が、一斉に飛び上がった。

吉法師の声が、まるで雷が落ちたかのような轟音となって、空気を震わせたのだ。



それは、ただの大声ではなかった。

指向性を持つ、耳をつんざくような音の塊。



「す、凄まじいですね・・・!今の声、若君ですか!?」


犬千代が耳を押さえて驚愕する。



「くくく、面白い。これなら戦場の端から端まで声が届くな」


吉法師は満足げに筒を撫でた。


「(単眼鏡と合わせて使えば、戦場の全てを視認しつつ戦場の隅々まで声を届けられるようになる。これだだけでも、親父たちの世代とは大きく変わっていくな・・。)」



この『雷鳴筒メガホン』は、ダンジョン内で生成された特殊な"共鳴素材"で作られている。

電気も使用せず、内部の微細な螺旋構造が音を増幅し、声などを遠くまで届けてくれるオーパーツだ。



「後少しでモノが出揃う。あとは、親父殿が派手に負け帰ってくるのを待つだけよ」





吉法師は、中央の櫓から完成しつつある五稜郭を見下ろし、稲葉山の方角を見据えたのだった。




───天文13年9月22日:日没直前【千秋季光 運命の日】



稲葉山城下は、炎に包まれていた。

織田信秀の軍勢が放った火、それは稲葉山城の周囲を焼き尽くし、織田信秀の勝利を表すかのように稲葉山を赤く彩っていた。




「燃やせ!燃やせ!利政の奴輩を燻り出すのだ!」



信秀は、勝利を確信していた。

城周囲の町を蹂躙し、斎藤道三の本拠地である稲葉山城本丸が目前まで迫っている。


道三も、籠もったまま、動く気配がなかった。



「臆したか道三!尾張の虎の牙、とくと味わうが良い!」


一気呵成に攻め込む織田軍



だが、その勢いは日没が近づくにつれて、次第に弱まっていった。




「ちぃ・・!なかなか粘るな、利政め・・・。今日は終わりだな。よしっ!一時撤退じゃ!!」



太陽が西の山に沈み、空が茜色から群青色へと変わる頃。

信秀が撤退の指示を出す。


その時だった。



「ふ、待っていたぞ。信秀。」


利政は、織田軍撤退の気配を感じ取り、反撃の指示を出す。




「今だ!反撃開始!!」





ウォォォォォォォ・・・!



城内から、敵兵たちの声が響く。

織田軍の両横からは別働隊も回り込み、織田を半包囲しようとしていた。



それが合図だったかのように、稲葉山城の門が大きく開く。



「かかれぇぇぇぇ!!!」



これが、斎藤道三の得意とする戦術おはこ


敵を十分におびき寄せたのち、慢心と疲労が頂点に達した日没を狙っての、多方面からのカウンター

史実における『加納口の戦い』、その本番が始まった。




「くっ、おのれ利政ぁ!やってくれよったな!!」



信秀は歯噛みするがもう遅い。

隊列は崩れ、指揮系統は分断され出している。


織田軍は、完全なパニックに陥った。



「退け!退け!!砦へ・・・いや、川へと向かえ!」


指揮官たちは、八剣にできた砦へと、最初兵を向かわせたが、すぐさま、八剣砦の広さを思い出し、あそこでは兵たち全ては入城できないと思い至った。

そのため、出した指示は、砦を超えて川を抜けろという指示だった。


その指示もあって、総崩れとなった織田軍は、我先に木曽川方面へと向かっていく。

背後からは、斎藤家の兵が、猛烈な勢いで追撃し、織田の兵たちを蹂躙し続けていた。



「織田の悪漢どもがっ!逃げるな!!」


「ひ、ひぃぃぃっ!」


そういた光景が、各所で繰り広げられていた。



史実では、このまま木曽川にまで追い詰められ、織田の兵も将たちも、その大部分が木曽川の流れに攫われて亡くなった。


しかし、この世界線では、そうはならない。




敗走する織田兵たちの視界に、巨大な篝火が映る。



「狼狽えるなぁ!!!!」



それは、戦場に響き渡る大きな子供の声だった。


「な、なんだ?」


「誰の声だ・・・?!」


織田の兵も斎藤の兵も、その声に一瞬だが止まった。



「織田の兵よ!こちらだ!八剣の砦に来い!ここなら全員が助かるぞ!!!」



声の主は、織田 吉法師(信長)。

織田信秀の息子であった。



彼は、手に持った『雷鳴筒メガホン』を口元に当て、腹の底から声を振り絞っている。



「早うせい!斎藤の兵に追いつかれるぞ!!」



その生まれながらの支配者としての声色は、織田の兵卒に、最後の勇気を与えた。



「行くぞ!生き残るんだ!」


「八剣の砦だ!砦に向かえ!!」



吉法師(信長)のその拡張された声が、数キロ先にまで鳴り響いた。



「急げ!急ぐのだ!武器など捨ててしまえ!早くこちらへ来るのだ!」



吉法師(信長)は、そうして楼閣から声を張り上げる。

その声は、死の気配漂う戦場に一筋の希望の光を示したのだった。



「俺の名は、吉法師(信長)!織田信秀の息子だ!!皆、早う来るのだ!!!」



その最後の言葉は、織田の兵卒に僅かな信仰の光も灯らせる。


「若君か!若君が、吉法師様が居られるぞ!!」


「皆、砦に向かえ!!」



どんどんと、兵たちが八剣の砦へと収容されていく。

木曽川に沈むはずだった将兵たちの運命が、覆った瞬間だった。





─── 一方、斎藤利政


斎藤利政は、その声を聞いて眉を顰めた。


「誰の声だ・・?」


「俺の名は吉法師(信長)・・・」


「吉・・・法師だと?」



その声と共に、織田の兵卒は砦内へと歩を進めていく。


「馬鹿め、あの城には5000も入らんわ。せいぜい、千ほど、し、か・・・・は?」



利政は、その光景を見て、再度驚愕する。

織田の侵攻前には、1000ほどしか入らなかっただろう砦は、さらなる拡張を遂げていた。


しかも、見たことのない棘のような構造が、利政の視界には映っていたのだった。



「待て・・全軍止まれ!!」



利政は、すぐさま全軍を停止させる。

あの異様な光景の城は、安易に攻め込んで良いモノではないと、彼の勘が告げていた。



「(アレは何か変だ。このまま攻め込んで良いモノじゃない気が・・・しかし、ここまで追い込んでおいて撤退するなどできん・・・・・)一度、攻めるか。」


だが、利政はこれまでの戦果や、前回攻めた際の兵数より倍以上多いこともあって、攻めることを決意する。


「(あの砦の恐ろしさは、矢にこそある。しかし、この暗闇ではそこまで正確には射てまい。

それに、あの形では、ウチの軍を遠方から狙い撃ちにはできんだろ?何を思ってこの形状にしたのだ・・・???)所詮、ガキの浅知恵か」



利政の脳は、五芒星型の城の欠陥も見抜いていた。

しかし、この城の本質が、近距離殲滅型であることには、未だ気付いていなかったのだった。



「敵兵、距離五町!」


「まだだ、抑えろ」


「敵、距離三町!」


「まだだ!」


「距離一町!」


「今だ!射ち方、始め!!!」


その号令とともに、織田の砦から連弩の矢が壁のように飛んでくる。


「うわっ!」

「ぐっ!」


呻き声をあげられられた者、あげられなかった者。

斎藤家の兵は、瞬く間に先頭の兵がその矢によって倒れた。


だが、その程度では斎藤家の進撃は止まらない。


斎藤の兵は、あっという間に八剣砦の壁に取り掛かっていく。


ある者はその木の壁(結板)をよじ登り、ある者は狭間へと拾った矢を突っ込んだ。

槍を突き込もうとした者もいる。



だが、矢は通っても、槍を通すほどには広くないその狭間は、斎藤家の攻撃のほとんどを防いだ。

そして、織田の攻撃は、まだ終わっていないのだ。



「・・ふ、敵の背が丸見えだな。射ろ!狙う必要もない!敵は隙だらけだぞ!!」


"五稜郭"


この城の恐ろしさというのは、その真価は、近距離での攻防にこそある。

敵は、矢に対して背を向けて登らねばならないのだ。


正面切って、盾を構えていようと、登るためには背を向けなければならない。


門を攻略するにしても同じだ。

敵の矢襖に対して、背を向けなければまともに攻撃もできないのだ。



しかも、敵の攻撃は近距離から飛んでくる。

つまり、その正確性はより高まっているということだ。



的確に腹を狙い、心臓を狙い、そして頭を狙ってくる。

さらにいうなら、彼らが射るのは、ダンジョンの力で超強化されたクロスボウだ。



そんなものを防ぐような鎧は、この時代ではほぼ存在していない。


つまり、生身で矢の雨中を歩き回るのと同等の危険があるのだ。



「いいか、声を出しているやつを狙え。指示を出している偉そうな奴を狙えば、確実に勝てる。」


組頭を狙わせるのも、戦術である。


重量級の連弩の方には、こうして組頭や武将を徹底的に狙わせていた。





そして、もう一矢。




「見えたか?」


「はい、見えまする。恐らく、彼奴が斎藤利政かと」


「見せい」


吉法師(信長)が、射手と代わり単眼鏡スコープを覗き込む。


「よしっ、狙いは胸だ。心の臓を狙え。」


射手は、再度吉法師と代わり、利政の心臓へと狙いをつける。

この世界線初の500m級のスナイプ。



「っ!」



シュッ!


という静かな矢音と共に、ボルトが利政へと向かっていく。




「ぅくっ!」


「と、殿!て、敵だ!敵の矢が飛んできたぞ!」


今までは後方で、矢も飛んでこないだろうと思われた場所にまで飛来する矢。

それは、後方で待機していた兵たちにも、恐怖の感情が広がっていった。



「殿が射られた!ひ、退け!!退くのだ!!!」



その側近の掛け声とともに、斎藤家の軍が引いてゆく。

加納口での戦い、その終盤が終わりを告げた瞬間であった。



八剣砦の攻防は、最終的に織田の勝利で幕を閉じたのだった。


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