第31話:信秀到着
「ようこそ、信秀様。ここが先日建築を終えたばかりの八剣砦となります。」
到着した織田信秀たち一行を迎えたのは、八剣砦を建てた千秋季光自身だった。
彼は、自信ありげな表情で信秀たちから驚きの表情を引いき出したことを誇る。
「ありがとう、季光。しかし・・・これは本当に驚かされたぞ!説明が欲しいな・・・」
「もちろんです。まぁ、説明と申しましても、そこまで難しいものではありませんが。」
「・・・どういうことだ?」
「いえ、一番の秘密というか、秘訣というのが、ここに見えております板にありまして・・・。いわば、この砦の全てがここにあるわけなのですよ。」
「つまり、この板切れだけがこの砦を建てた秘訣だと?」
「えぇ、その通りです。我らは、これを組み立てたのみにて・・・。」
「しかし、よく思いついたな・・・こんな、こんな方法。」
「あー・・・・それは、うーん、多少言いづらいことではありますが・・・」
「なんだ?言え。俺とお前の仲だろう?」
「正直、誰が言い出したのか覚えとらんのです・・・。」
「なんだそれは、神からの天啓でも授かったと言い張るつもりか?」
「いえいえ、謀るつもりは毛頭ございませんとも。
単に、宴会の場で話し合っている際に閃いたものでして・・・、誰が言い出したのか、誰も覚えておらん、と、そういうことでして・・・」
信秀は、呆れ顔で季光の顔を見る。
「そういうことか・・・。しかし、よくもまぁ・・・そんな場で出た話を覚えとったな。いや、採用しようと思うたな。」
信秀は壁を叩き、接合部のボルトを指でなぞりながらそう言った。
「思ったより頑丈だな・・・」
「えぇ、槍や矢も通しません。潰すにもどうすれば良いのか我らにも分かりかねますな。ハハハ」
「どうなんだ、それは・・・。ということは、外部には出さん方がいいな。」
「えぇ、出せません。」
「しかし、まさか性能が良過ぎて売り物にできない建材が生まれるとはな。・・・これには、誰が関わっておる?」
「作りを知る者ということなら、極少数ですな。当家の重臣と実際の建造に当たっている職人が5名。あとは、吉法師(信長)様ですな。」
「ほぉ?吉法師(信長)が関わっておると?」
「えぇ、そもそも宴会の席での話を覚えてらしたのが吉法師(信長)でして・・・」
「・・彼奴がよく宴会の場などに最後までおったな・・・」
「いえいえ、いなかったらしいですぞ。というのも、厠に行く際、通り掛かりに聞こえたそうでしてな・・・」
「・・・はぁ・・、それで酒の席で思いも依らん案が出ていると知ったわけか。」
「・・・はい」
少しバツが悪そうに季光が答えていく。
「ゴホン。えーと、これには結板と、名付けましてな。今回の築城ではこれを用いたことで成功したというわけです。」
「・・・なるほどな。始まりはともかく、これそのものは素晴らしい。一通り案内してくれるか?」
「えぇ!かまいませんとも!」
季光は、先の失敗を取り戻すように応える。
・・・とはいえ、全て演技なのだが。
しかし、この作り話は、案外妙案だったと言える。
信秀もその他の者も全く疑っていなかった。
これには、季光の演技もあったのだが、主君の息子を引き出してまで嘘は付くまい、と言った当時の常識が邪魔をしていたと言える。
それと、まだ、十歳の吉法師(信長)が、季光の話に乗るのか?といった疑問も加味したのだろう。
実際、普通の子供がこんな悪巧みに乗るとは考えにくい。
いたずら心で乗るとしても、もっと分かりやすいモノに乗るだろう、という考えも皆の心にはあった。
そうして、末光は中央から順に周囲を見て回った。
中央部分には、まだまだ資材が積み上げられており、信秀はそれらについても見聞した。
「まだ資材が多くあるな・・・。」
「えぇ。この後は広げていくか、支城を作るか相談中でございまして・・・」
「支城な・・・、良いぞ。
しかし、田畑はどうする?この辺りには無いが、周囲にはまだ多くあるようだが・・・」
「はい、そこはむしろ取り込んでいこうかと。」
「取り込む、とは、城の中にか?」
「えぇ。どうせ、籠城するなら水や食糧は必要なのです。なら、中に取り込んでやれば良いな、と。」
「・・・考えとしてはあるのかもしれんが・・、下手をすれば敵を内に入れることになるぞ?」
「そこは当家の領民を使えば良いかと。どうせ敵地ですし。まぁ、買い取っても良いのですがね。」
「まぁ、これからはお主の領地だから別に良いのだが・・・。お、そうだ。
言うのを忘れとったかもしれんが、ここの領地は、俺が稲葉山を取った後には相談させてもらうぞ?」
「えぇ、十分に承知しておりますとも。
しかし、木曽川の流れだけは使わさせていただきたい。当家の分だけで構いませんので。」
「それは最もだが・・・、農地はいらんのか?」
「そちらはどちらでも・・・。我らとしては、以前にも言った、砂鉄と木曽川の流れだけが欲しいのであって、それ以外はお任せいたしますよ。
やり過ぎて恨まれてもしようがありませんし・・・」
「それが本音か・・・くくく。ここまでやっておいて恨まれるのが嫌だとは、笑うしか無いぞ!」
そう言って信秀と季光が笑い合う。
「あぁ、そういえば気になったのだが、あの中央の空いた空間はなんだ?」
「あぁ、あそこですか。あの場所には、将来熱田神宮の分社を作ろうかと思っておりまして・・・」
信秀も、気になったのだろう。
砦の中央部には建材が置かれ、集積所のような様相ではあったが、それにしても広く場所を取り過ぎていた。
季光はそれに対し、熱田の分社を建てるのだ、と、大宮司らしく答えた。
「そういえば、大宮司だったな。」
「そうですよ、信秀様。これでも大宮司、熱田大神のことは決して忘れておりませんからな。ハハハ」
季光は、最近では、信仰先が御霊蛇へと変わりつつあるのをお首にも出さずに答える。
「そう言えば、この後はどうなさるので?」
「うん?そうだな・・・。本来なら近場を略奪して行こうかとも考えていたのだが・・・」
「ふむ?悪手になった、と?」
「城ができている時点で、現状、お主の領地に等しいからな。」
「なら、ばら撒きなどどうでしょうか?」
「ばら撒き?何をばら撒くのだ?」
「ウチで作った肥料など、如何ですか?」
そう言って、季光が灰色の砂のようなものを見せる。
「ただの砂にしか見えんが・・・?」
「そりゃまぁ、農地に使う肥料ですしな・・・」
「肥料ということは、収穫量が上がるということか?」
「えぇ、その通りです。ただ、まだ、一年ほどしか当家では試しておりません。
ですが、収穫量は2倍から3倍になりましたな。」
「は?・・・ちょっと待て2倍から3倍だと?2割3割ではなくてか?!」
「え、えぇ。効果について報告があったのが出陣の直前でしたので報告はまだでしたが、それに間違いないと。」
「ははは・・・、お主はどれだけ・・。」
「え、えぇと、私というより、こちらは吉法師(信長)様の手腕でして・・・。」
「そうか・・・、いや、もう、もういい。流石に疲れたわ・・。戦前であるのにここまで疲労するとは思わなんだ・・・。」
そう言うと、信秀は疲れ切ったように座り込む。
「これについては、またの機会に聞こう。とりあえず、これを周囲の集落の者にくれてやれば良いわけか?」
「はい。そうすることで、百姓どもも、誰が支配するのが良いのか、それを知らしめられましょう。
なんなら、織田の名前と共にウチの名前も入れて頂きたい。そうすれば、後の統治に便利ですからな。」
「要領の良い奴よ。まぁ、それくらいなら構わんとも。」
そうして、信秀は周辺の集落へと部隊を派遣する。
彼は、部隊を複数に分け、以後の支配は織田家と千秋家が行うことを布告していった。
その際、渡された"灰色の砂"は、絶大な効果を発揮し、その辺りの収穫量は2倍にまだ増えた。
そのことから、我先にと支配されに来る集落が増え、千秋家は、稲葉山の南に盤石な支配地を築くこととなる。
以降、八剣周辺、葉栗郡の辺りは全て、熱田の千秋家が支配することとなったのだった。
「あ、そういえば、八剣神社がなかったか・・・この辺り。忘れておったわ・・・」
彼らが建てた八剣砦の西には、熱田神宮の分社である八剣神社が存在した。
このことは、八剣神社の関係者との間に亀裂を走らせる原因ともなったのだが・・・これは割愛しよう。
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