第28話:浅井 佳袮《かね》
───御霊蛇ダンジョン:第六層
建築は順調に進み出した。
最初に場所決めだったが、これは階段から四半刻ほど歩いた場所に決めた。
川からも距離を離した。
階段から離したのは、あまり人目につきやすい場所に拠点を置きたくなかったため。
川から離したのは、御霊蛇が「川の周囲には薬草が群生することがあるので避けてほしい」と言っていたからだった。
場所を決めると、権六と孤児たちは、その上がったステータスで建材を次々に運んでいき
談笑しながら、どんな形にするか?どこまで大きな家にするか?などと、笑顔で話している。
色々試しつつ作っていくらしい。
そんな、建築作業の合間。
御霊蛇は、皆んなの体力に付いて行けず、ひとり休憩を取っていたおカネに声をかけ、少し離れた場所へと連れ出した。
「おカネ。ちと、頼みがある」
「はい、なんでしょうか?」
人気のいない木陰。
御霊蛇は、虚空から『マッドスライム』を1体召喚した。
「えっ・・・!?」
「これを倒してみよ」
「こ、これですか?ですが、私が戦いなど・・・!」
「いいから、やれ。これならば虫を潰すのとそう変わらんじゃろ」
有無を言わせぬ圧力。
おカネは、少し涙目になりながら、近くの枝を拾い必死にスライムを叩いた。
バシッ!
一撃で泥が崩れ、赤い魔石が残る。
「はぁ・・・」
御霊蛇は、泥の上に落ちた魔石を拾った。
拾った魔石をおカネの方へと向け、「口を開けるのじゃ」と、一言。
「え・・・?」
「これを飲むんじゃ」
「い、石を・・・ですか?」
その言葉に躊躇を隠せないおカネ。
当然だろう。
石を食えと言われて、「はい食べます」という人間がどこにいいるのか?
だが、御霊蛇は逃がさない。
彼女の耳元に顔を寄せ、恋人に囁くように語りかける。
「お主、このままで良いのか?」
「え・・・」
「アレを見てみよ。夫の権六も、みやこ達子供らも、ここで戦い、力をつけ、強くなっていく。
ワシの恩恵を糧にした者は、生き物の格が上がり寿命も延びてゆく。・・・お主だけが、何も知らぬまま先に老いて死んでいくじゃろうな。」
「ッ・・・!」
『夫は若々しいまま自分だけが老いてゆく』
その言葉は、おカネの心臓を鷲掴みにした。
家族に、夫に置いてゆかれる恐怖。
息子を亡くしたおカネにとって、それは何より辛いことだった。
「・・・嫌です。もう、置いていかれるのは・・・」
おカネは、覚悟を決めて口を開く。
そこへ、御霊蛇が魔石を放り込んだ。
「んぐっ・・・!」
咳き込むおカネの目の前に、『ステータス画面』が出現する。
====================
◻︎基本構成と状態
・名称:浅井 佳袮
・種族:人間
・年齢:38歳
・ランク:G
・状態:魔力中毒(小)・覚醒
◻︎ステータス
・HP(耐久力):20/20
・MP(魔力):19/19
・STR(攻撃力):7
・DEF(防御力):6
・INT(知力):12
・RES(魔法耐性):8
・SPD(速さ):5
・LUC(運):10
◻︎保有スキル
・スキル:家事(Lv.3)
・スキル:水魔法(Lv.0)
・スキル:魔力感知(Lv.0)
====================
「・・・これが・・」
「(ほう・・・INTが出たのか?魔法スキルのせいか・・)」
御霊蛇は、そのステータスに興味を抱きつつも、呆然とするおカネに説明する。
「それが、今のお主の『強さ』じゃ。
格が上がれば、人間としての性能も上がる。寿命が延び、病にも強くなろうな。それに・・・
「それに・・・?」
「若返りの効果もあるぞ?肌艶が良くなり、体の動きが良ぉなる。」
「わ、若返り・・・ですか?」
「お主の夫を見てみろ。最近はどうであった?あそこまで動けておったか?肌艶に関してはどうだ?お主の目から見て、以前と比較してどうなのだ?」
「そ、そういえば・・・」
おカネは、最近の夫を思い返し、今の夫の肌なども見ていく。
「き、れいになってる・・・?」
あぁ・・・この方の言うことは本当だ・・・
おカネは、御霊蛇のいうことに嘘がないことを確信する。
確かに、最近の夫は肌艶もよく、ここの潜る前とは違い、体の動きも明らかにキビキビと良く動いている。
「それと、こいつじゃ。」
御霊蛇は、さらに木目の入った容器を見せてきた。
「これには、ここでだけ取れる薬草が混ぜ込まれておる。ほれ」
と、御霊蛇は、その"軟膏"をおカネの手に塗りつけた。
すると、彼女の手の軟膏を塗られた箇所とその周囲が癒えていく。
長年刻まれた、水仕事によるアカギレや、乾燥、皺、しみ。
そういったものが、瞬時に消え去り、幼い童子の肌のような手だけが残った。
「あ、あぁ・・・わ、私の手が・・・!」
───もう戻ることはない
完全に不可逆だと思っていた、その手の皺が、完全に消えていく。
おカネは、涙を流して自分の手を見つめ、御霊蛇に向かって深々と頭を下げた。
「ありがとう、ございます・・・! 本当に、ありがとうございます・・・!」
そこへ、血相を変えた権六が駆けつけてくる。
「カ、カネ!!」
遠くから、妻が泣いているのを見たのだろう、彼はこちらにまで飛び込んできた。
そして、そのままその場に土下座した。
「み、御霊蛇様・・・! 妻が何か粗相をいたしましたでしょうか!? 何卒、何卒ご容赦を・・・!」
「あ、あなた!違いますよ!」
早々に、夫が勘違いしていることに気づき、その勘違いを正す。
そしておカネは、そのまま夫を立たせ、その美しくなった手で夫の手を握りしめた。
「あなた。私も、ダンジョン探索に参加しますから」
「なっ・・・!? 馬鹿な! 危ないから家でいればいい!!」
「いいえ!私も参加します!それに今回のことだって、あなたのせいというのもあるでしょう!」
「うっ・・・だ、だが、だけどな・・」
「それに、ダンジョンで戦えば強くなれるのですよね?そうすれば、あなたも家のことを無用に心配する必要もなくなるでしょう?
私がもっと強ければ、何人チンピラが来たとしても大丈夫だもの。」
「け、けどなぁ・・危険なんだぞ・・?」
「それは、あなたもあの子たちも同じでしょう?熱田の女、舐めないでくださいまし!」
おカネは毅然と言い放つ。
「私も力をつけねば、貴方やあの子たちを支えられません。・・・それに、私だって貴方に置いていかれたくないのです」
その気迫と、美しく戻った手に込められた決意に、権六は完全に言葉を失い・・・渋々 頷いた。
「・・・わかった。無理は、無理だけはするなよ?」
「はい!」
抱き合う夫婦。
それを眺めながら、御霊蛇は重々しく頷いた。
「うむ、良きかな良きかな」
が───
「(・・・あぁ、くそっ、見せつけやがって。いいなぁ、夫婦。俺の37年前世には1ミリも無かった要素だわ)」
神様ムーブの裏で、彼女いない歴=年齢の男の嫉妬が胸に広がる。
「(あんな幸せそうな顔した夫婦に干渉なんてできんよなぁ・・。人妻スキーにだって矜持があるんでい。)」
「(みやこっちは四郎丸が気にしてるし・・・。そもそも若すぎるしなぁ・・・)」
御霊蛇は、完成しつつある家の前で、一人孤独な風に吹かれた。
『(俺の春は、一体いつ来るんだ・・・??)』
御霊蛇は、そっと遠い目をした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ご読了ありがとうございます。
評価いただけますと執筆の励みになります。
FANBOXでは、先行公開を行なっています。
番外編やもっと早く読みたい!という方はFANBOXへ。
URLはXにて。
詳細は"X"にて"@SaitoRen999"で検索ください。
面白かったら、X経由で応援いただけると幸いです。
FANBOXでは、クリエイター:斎藤 恋を検索していただければ出てくるかと思います。




