第18話:熱田商人 加藤順盛と生駒家宗
───第六層:仮設休憩所
「こ、これは・・・・夢か・・・」
「ここは地下のはず・・・、なぜ地下に陽の光がある・・!」
震え怯えているのは、熱田街の商人:加藤順盛
そして、尾張でも有数の馬借(物流組織):生駒家宗だ。
武士としても活動し、少々のことでは動じない彼でさえも、この光景には腰を抜かした。
「さて、本題に入ろうか」
季光が、あえて威圧的に声をかける。
「お主らをここに招いたのは、他でもない商談だ。それも、特別な。」
俺は季光の前に、ダンジョン機能で生成した品を召喚する。
どこからか降ってきたように、ゴトっという音を立てて宝箱が出現する。
「っ!」「な、なにが・・・」
二人の商人はビクッと身を震わせるが、そんなことも気にせずに、季光は出現した宝箱を開ける。
「(やはりダンジョン内には、こういった宝箱を配置する方が様式美なんだろうなぁ・・・)」
などと、益体もないことを考えつつ、季光たちの様子を見守る。
中に入っているのは、"ガラスペン"、"陶磁器(炻器)"、"蜂蜜(仮)"、"石細工"、"木細工"、"硝石"、"塩"、"刀"
そんなものが、それぞれ木箱や瓶に入って置いてあった。
「ほれ、手にとってみよ」
季光は、商人の二人に声をかける。
恐る恐る手を伸ばした加藤が、最初に取り出したのは2つの"炻器の椀"だった。
その黒色の椀の片方には、精緻な龍の絵が描かれている。
もう一方は無地だ。
「「美しい・・」」
加藤は、その龍の絵を見てそう呟き、
生駒は、その無地の椀を見てそう呟いた。
「この椀を売る、と?」
「私が買いますよ、1つ500文でいかがです?」
「いやいや、生駒さんお待ちなさい。私も買わないとは言っておりませんよ」
「いやいや、加藤さん。こういうのは早い者勝ちでしょう?」
喧喧諤諤とでもいうのだろうか?
それとも別の言い方があるのか。
それはわからないが、この2つの椀だけで二人は言い争いを始めた。
やはり、相応の価値となるのだろう。
通常の安い土器で、だいたい1〜2文だそうだ。
ざっと、その500倍。
こちらは一度作ってしまえば、量産できるから単純計算でも1000個で500貫。
流通量が増えれば、もっと値段は下がるだろうし、商人生駒の値付けだ。
市場価格よりずっと安い値段だろう。
それに、絵付きの方がいいのかそれともなしの方がいいのか、その辺りも気になる。
「いいかげんやめよ、見苦しい。商品は他にもあるのだぞ。」
収拾がつかず、軽い言い合いが口論にまで発展しそうなところで、季光が沈静化させる。
「あ、これは申し訳なく・・・」
「いや、余りにも良い椀でしたので・・・」
二人も、醜態を晒したことは自覚できたのだろう。
一言頭を下げた。
「では、先に消え物からいこう・・。硝石に塩、そして蜂蜜だ。」
「少し確認させてもらっても?」
「構わない。そもそもここにあるのは売り物ではない。お主らへの、そうだな、試供品といったところだ。」
「い、頂けると?」「なんと・・・!」
ガラスペンや炻器などもあるが、ここにあるのはそう大した量ではない。
そこまで驚くほどのことでもないのだが・・・
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※あと、炻器というのは、陶器と磁器の中間にあたる陶磁器だ。
詳しくは自分で調べてくれ。
ただ、常滑焼や備前焼といったものがこれにあたる。
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彼らは、炻器の椀を置き、塩や蜂蜜、硝石を手に取る。
「これが塩・・?真っ白だが・・・っ。確かに塩だな。」
「蜂蜜は普通・・でしょうか?色味はとても綺麗ですが。」
「硝石の方は、・・っ。・・・?しょっぱくありませんね?本当に硝石なのか・・?」
「生駒さん、私にも見せてください。・・・これは・・まさか、いえ・・ここならあり得るのか・・・・?」
「加藤さん、どうされました?その硝石が何か?」
「生駒さん。これは恐らく最高級・・いえ、それ以上の純度の硝石・・、かもしれません。
正直、私にもこれ以上はわかりません。
ただ、舐めると冷たさを感じますし、高級品ほど白に近いという話も聞いたことがあります。」
「なるほど」
「あとは、職人にでも確かめてもらうほかありませんね。」
そういって、消え物の品評は終わった。
「あとは、これらですな。」
そういって、季光は"ガラスペン"、"木細工"、"石細工"、"刀"を取り出す。
「生駒さん。まずは決めやすいものから決めていきましょう。正直、私の身が持ちません・・・」
「・・・ですな。加藤さん、刀、刀からでいいでしょう。これならまだ決めやすい」
そんなことを言いつつ、両名が刀の鑑定をする。
「しかし、これは鈍にしか見えませんが・・・」
「いえ、流石にそれはあり得んで・・・・!き、切れた・・」
加藤はその刀を見て、一目で鈍だと判別した。
まぁ、刀というものをしていれば当然だろう。
その刀には、地肌も刃紋も存在しないのだから。
この刀は、鉄を針先レベルで圧縮加工したもので、焼き入れさえされていない。
マイクロレベルに近い形で加工されたそれは、全体に均一な銀色。
現代人が見れば、工業製品として作られた包丁を思い浮かべたかもしれない。
ただ、この刀が現代のものと違うのは、マイクロレベルで配列が整っているという点だ。
これによって、その刃先はその鋭利さで標的に牙を向く。
その結果が
「か、加藤さん!こ、これ、鈍どころじゃありません!こんな触れただけで斬れるような刀、見たことありませんよ!!」
生駒は、そのあまりの鋭利さに悲鳴をあるほどだった。
加藤も、そんな様子の生駒をみて、自分の持っている刀の品質にビクビクしだし、
そのまま持っていられなくなったのか、刀を箱へと戻した。
彼らが試供品として受け取ったものには、全てにおいて驚く・・・、いや、腰を抜かすような要素が存在した。
木細工や石細工も、単に木や石を切り出したものではなく、そのままの形で生まれたような継ぎ目ひとつない精巧な品だったのだ。
今すぐにでも動き出しそうなほど精巧に作られた、木彫(?)の熊や魚。
生きていてもおかしくはないと思うほど、精巧な姿の石製の女体像。
そんなものまであるのだ。
「生駒さん・・・これいくらで買い取ったらいいんでしょうか・・・?」
「加藤さん、私に聞かないでください。」
二人はそんな言葉を交わしながらも、最低でも商人としてこれらの品の値付けだけはしておきたい。
そんな思いだけを持って、値段を決めていく。
それが終わった頃。
「そろそろよろしいかな?」
千秋季光は、二人との商談を始めようと話をすすめる。
「え、えぇ、大丈夫ですよ」「はい、やっと値決めが終わりましたので」
「・・・値決め?あぁ、まぁそれも必要か。だがそれより、商談だ」
二人は、商品の値決めの為に呼ばれたのではないのか?と疑問の表情を浮かべる。
「え、と、これらの商品の買取値を決めるために呼ばれたのでは・・?」
「いや、違う。」
「ではいったい何を・・・?」
「これらの商品を全国各地で売り捌いてもらいたい。それも秘密裏に。」
「「はい??」」
まるで双子の兄弟のように彼らは返答を返した。
「捌けと言えば捌きますが・・・。秘密裏に、ですか?」
生駒は、「コイツは何を言い出すんだ?」とばかりに疑念の表情を浮かべる。
「あのな?この品を見ただろう?
このような品がこの熱田から産出するなどと知られてみろ?いったいどうなるのかも分からぬか?」
季光は、子どもに言い聞かせるようにそう話す。
実際、これらの品がここから産出すると知れれば、確実に争いになるだろう。
それも、商人だけの争いには収まらないだろうことも容易に想像がつく。
「今川に美濃斎藤、伊勢国人たち。様々な絵連中が牙を向くだろう。信秀様ですら例外ではない。」
「そ、それは・・・」「確かにその通りでしょうな」
「うむ。まずは、ここの品にさらに幾らかを追加したものを、堺で売り捌いて欲しい。」
「ふむ・・・、何が追加されますので?」
「そこは、お主らの要望次第だな。まぁ、こちらにも制限はあるが、おおよそは叶えられると思うぞ?」
季光がそういうと、加藤順盛と生駒家宗は二人で相談を始める。
5分10分ほども経った頃、ようやく決まったようで、増やして欲しい商品についての要望を出してきた。
「これらの品は今後も手に入る、ということでよろしいのですな?」
「あぁ、そのつもりだよ。」
「でしたら、まずは塩を。それも大量に頂きたい。それと炻器ですな。これの絵柄付きのものと無地のものを5000ずつ、は如何でしょう?それと、それと、"刀"は結構です」
「構わない。」
「では私は、木細工と石細工。そして蜂蜜がいただきたいですな。蜂蜜は大量にあれば良いが如何です?」
「蜂蜜は厳しいな。原材料が限られていてね。"ガラス"ならもっとあるらしいが、どうする?」
「・・・では、"ガラス"を頂きます。こちらはガラスを多く頂きましょう。それと、私も"刀"は結構です・・」
「よろしい。では、最初の商談はこれで終わりだ。次の商談では、この場所の秘密を守るために多くの偽装をしてもらうことになる。
そのことは覚悟だけはしておいてくれ。」
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