第17話:第六層 草原
吉法師(織田信長)らとこのダンジョンで話し合ってから、数ヶ月の時が経った。
あれから、さまざまなことがあったが、まずは新規に作成した階層について話そうと思う。
───ダンジョン第6層:亜空間階層『草原』
「・・・あ、明るい」
誰かが、震える声でそう呟いた。
我々が今いるのは、地下数百メートルよりもさらに深い場所のはずだった。
第1層から第5層まで、ジメジメとした土と苔の光だけに頼る世界を抜けた、その先。
俺が新たに解放した"第6層"
そこには、あり得ない光景が広がっていた。
頭上には、岩盤ではなく突き抜けるような青空が広がり、そこには直視できないほどに輝く『擬似太陽』が鎮座している。
そして、足元には漫画に出てくるような綺麗でふかふかした草原。
草原と青空、そして太陽
そのどれもがダンジョンの機能によって構成されていた。
「・・・うそ」
みやこは、呆然と立ち尽くした。
いや、彼女だけではない。
千秋家が保護し、このダンジョンで生きていくことになった十数名の戦災孤児たち、そしてここまで入ってきた全員が、第六層の入り口で立ち尽くしていた。
彼らには、荒れ果てたスラム・・・裏町か、熱田の社領の光景しか見たことがなかった。
村を追い出されたり、親に売られたり・・・、散々逃げ惑った末に、この薄暗い地下深くへと辿り着いた"子供"たち
この、人によっては地獄とも評される時代は、そこに住む人々にとってどれだけの苦難があるのだろう。
だが、この場所は、この場所だけは違う。
ここは、"御霊蛇ダンジョン:第六層"
熱田神宮が認めぬ限りは、何人も立ち入れぬ階層である。
今回は、この階層を見せるためと、これからのことを考えてショートカットを用意したが、
基本的には第二から第五の層を超えてからでないと入れない場所だ。
そして、第五までの階層は、チュートリアル層だとはいえ、ダンジョンであり、魔石を摂取していない人間に攻略は困難だ。
特に、第五層の最終ボスは"ゴブリン軍団"
これは、ステータスを獲得しそれを上げてきた人間でなければ、確実に攻略できない難易度となっている。
とはいえ、人間の中にも化け物クラスはいるから、確実に、とは言えないが。
今後、ここへの入室には、"魔力認証"が必須の扉が用意される。
この階層に"魔物は出ない"
完全なセーフエリアである。
まだまだ、変えるべき点はあるだろうが、農作さえも可能な肥沃な土が広がる階層だ。
この階層の草原や土は、俺の中に蓄えられた土や草の種などから成り立っている。
有機物は基本的には吸収され魔力へと変換されるのだが、最近では、それをある程度だが選別可能になったのだ。
魔物も敵も、孤児の彼らを虐げるものは誰もいない、
そんな穏やかなだけの空間がここには広がっていた。
「・・・ぁ・・あ、わぁぁぁぁぁあぁあぁぁああ」
「さ、さよ・・」
「「わぁぁぁ!」」
咲世子が突然大声をあげて駆け出し、それを見たみやこ以外の孤児達も同じように走って行った。
「・・・!!み、みんなズルい!わたしも行くーー!」
一歩遅れてみやこもみんなに続いて走り出す。
ただ、穏やかな光景がそこにはあった。
「・・・っ・・」
「あ、浅井さん・・」
彼らを拾い上げ、かつて面倒を見ていた浅井権六は、その光景に涙が止まらなかった。
ただ、無言で涙を流し続ける浅井を見て、まだ若い山田は声を掛けようととしたが、
森や高田は山田の肩に手を置き、無言で首を横に振った。
彼らは、履き古した草履も脱ぎ捨てて、草原の中を駆け回る。
「まてー!!」「まーたなーいよー!」「あははは」
他の子供たちも、堰を切ったように笑顔で走り回る。
彼らは草原の中で転げ回り、草の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
「すごい・・・」「草のいい匂い・・」
ここに生えている草は、そのほとんどがダンジョン内、つまりは俺の中に蓄えられていたものであある。
要は、生ゴミとして捨てられていたものも含まれている。
もっと具体的に言おう。
ここに生えているのは、日本のあちこちに見られるような、ススキなどのありきたりな草だけでなく、山菜なども多く生えていた。
それ以外にも、一部ダンジョン機能によって生成できるようになった"草"が存在し、植えられている。
"サルス草"
ラテン語の"癒し"という単語であるサルースからとって命名した草である。
この草には、その名の通り癒しの効果がある・・・らしい。
ダンジョンの生成画面に載っていたものだから真実だとは思うが、実際の効果のほどは不明だ。
「いよいよファンタジー染みてきたなぁ」などと思ったが、俺がダンジョンだった時点でそうだろ、と思い直した。
子供達は、草原に大の字になって寝そべった。
「・・・あったかい・・」
「ったかいね・・・」
「・・・うん」
彼らは、草原に寝そべり、今まで体感、いや実感したことのなかった太陽の温もりに身を委ねていた。
「(ふ・・・ゆっくり休むといい。)」
俺は、そんな光景にほっこりした想いを抱く。
彼らが穏やかな日常を過ごせますように。
そんな願いを神と名乗りし身でありながら、神に願った。
「・・・素晴らしいな」
吉法師(信長)は、そんな光景を見てそんな草原の活用法について考えを巡らす。
御霊蛇の神、手ずから製作した"世界"
そんな前代未聞の光景に、御霊蛇の神の御力の大きさに驚嘆しつつも、この場所を「どうすれば最大限に利用できるか?」
そういった方向に思考が及んでいたのだ。
「この土地だけでどれだけの人が養える・・・いや、水がない、か」
そんな吉法師(信長)は、この土地の肥沃さに目が行きつつも、現時点での欠点にも気付いた。
「吉法師様、御霊蛇様が、川もそのうち作るゆえに問題はない、と仰っております。」
そんな吉法師(信長)の言葉を聞きつけ、俺は四郎丸通じて、水源である川は後々用意する、と告げた。
現時点でも用意できたのだが、川の水の浄化や循環を考えねばならず、その方策にはまだ手が伸びないために設置していなかったのだ。
草原の草も水がなければ枯れるのだが、今は環境設定を、時折、雨にすることで解決している。
これも、新しく増えた"環境変化の自動化"という項目で周期的に雨・雪・曇り・晴れと、自由に設定できるのだが、使われる水量は無限ではなく、蓄えられた水で成り立っているために手動設定のままなのだ。
そのうち、海中にでも貯水用の扉や穴を設置し、そこから自由に水を調達できるようになりたいとも考えている。
それと、今回階層を作っていて気付いたことが一つ。
ここは現実の地下ではないだろうということだ。
現実なら、地下深くへとダンジョンを広げていく際に、地上への影響も出るのだろうが、どうにもそれがない。
恐らく、位相のずれがここには存在しているのだろう。
目の前にあるがさわれないというやつだ。
制作中に、第二層が鍛錬層とかち合ったこともあるので、ダンジョン階層同士の座標は連結しているのだろう。
だが、それだけで、位相をずらして存在している"異空間"
それが"ダンジョン"だと思われる。
「(川とは言ったが、中心に池を作ったほうがいいかもしれんな)」
そんなことを夢想していると、吉法師(信長)が俺たちに声をかけて促してくる。
「・・・さて、感傷の時間は終わりにしよう。客人が青い顔をして待っておる」
彼が、その手で示した先、そこには二人の商人がいた。
季光の手で連れてこられた彼らは、その百戦錬磨の表情を青くし、驚愕で腰を抜かしていた。
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