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戦国ダンジョン ~現代人は信長の足元で、歴史支配の夢を見る~  作者: 斎藤 恋
第一章:ダンジョン

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第16話:身バレ対策

───ダンジョン内部



「欺く・・か?」


季光も吉法師(信長)も、お互いに信秀を欺くという考えはなかったらしい。


「これは、必要なことだぞ?吉法師(信長)によれば、信秀殿は目先の利益に釣られやすいという。

それを踏まえるなら必要なことであろうよ。

それに今の信秀殿は"権威"を欲しておるのだろうしな、余計に欺くことが必要だろうよ。」


俺は、現代で得た知識を交えつつ、季光と吉法師(信長)に自分の考えを伝えていく。


「権威だと・・?」「権威・・・」


「あぁ、その通り、権威だ。信秀殿は少々短絡的で、かつ、金も兵もそれなりにいる。そうだな?」

聞き齧ったことも含めて、予想を話していく。


「あ、あぁ。親父は目の前のことに執着しすぎると平手も言っておった。」


「おおよそだが、わしも信秀殿のことは知っておる。そこからの予測だが、信秀殿は権威を求めておるだろうな。」


「権威・・・守護代か?」


「あるいは守護だろうの」



沈黙が広がる。

御霊蛇の予測に季光は「あり得ない」と言い切ることができなかった。


織田信秀の属する織田弾正忠家は、尾張織田家の中ではいささか位が低い。


彼の父、織田信貞殿の機転で熱田神宮を津島の利権を握ることで金穀は得ているし

その金穀で、兵を多数養っているからこそ、信秀殿は勝てておるとも言える。


無論、信秀殿が戦上手であることも確かではあるのだが。



「金があり、戦に強い。そして、女にも困ってはおらんだろう?

とすると、人というものが後求めるのは"権威"よ」



「なるほどな。御霊蛇様の神としての予見といったところか」


「それほどでもないがの」



予見。確かに予見でも間違いではない。

未来で得た知識をもとにした推察だ。


翌年、土岐を担ぎ上げて美濃に侵攻することを知っておれば、誰でもできる予想だとはいえ

予言や予見と言っても間違いではないだろう。



「では、俺がここの領有を宣言するのはダメだと言いましたな?なら、どうするのが良いと御霊蛇様は仰いますのか?」


「吉法師(信長)殿。貴殿は学びや遊びのためにここに留学なされよ。」


「????」「いったい、どういう・・?」



2人ともわからないらしい。


「つまり、ここに何かがあることは気づかれぬようにしたままということだよ。

ここは単なる熱田の社領にある洞窟。それだけでよいのだ。」



「単に、ここを吉法師(信長)様の遊び場として知らせる、と?」


「まぁ、そんなところだの。」


子供の遊び場。

洞窟なんていう代物は子供にとっては未知の発見、大好物だろう。


それを思えば、特に不思議でもない。



「季光よ。主がここに入り浸っておるのは、四郎丸がここを遊び場にしておるからじゃ。

たまに子供が迷い込み危険な目に合うことがあった、だから、家臣らに見守らせておる。というのが筋書きじゃ。」



「なるほど。しかし、私がしょっちゅう入っているというのはおかしく思われるのでは?」


「そこはほれ、吉法師(信長)の出番じゃろ。どうせ密偵からの報告を聞いておるだけの信秀には、正確な順序などわからん。

つまり、四郎丸が始まりなのか、吉法師(信長)が始まりなのか、そのどちらが正しいのかなんぞ分かるはずもない。」



俺はそう言ってから周囲を見渡す。


実際、ここまで入ってきた密偵なんていないし、そもそも千秋は疑われてすらいないだろう。

それを考えれば、この対応で十分だと思うのだ。



「・・・・なかなかいい案だと思うがな。」

「しかし、流石に入り浸るというのは・・・平手殿や信秀殿が呼び戻しに来ませんでしょうか?」

「・・・むぅ。平手なら来そうだの」



何やら俺の意見について話し合ってくれているようだ。


「だから、留学ということにすれば良いよ。

まず、ここと吉法師(信長)殿の那古野城はそれほど離れてはおらん。だからの、10日のうち何度かは帰るとすれば良かろうよ」



「ふむ・・・、だが平手の爺への言い訳はどうするのだ?」


「それこそそう難しいことでもない。というかの、季光から学べば良かろう。

それが一番分かりやすかろうよ。ただ、平手殿の面子もある。そこは考慮せねばならんぞ?」



「・・・・悪くないな。俺としては悪くない、です。」


俺が神だということを思い出したのか、慣れない敬語を付けて話す。


「だが、その面子が問題ですぞ。平手殿は傅役、これを差し置いて私がモノを教えるなどと・・・」


「確かにの。だが、平手殿が教えられぬことであれば問題なかろう。それと期間を区切ってしまえ、そうすれば向こうも折れやすい」



面子というのは大事だ。

特に戦国時代は、面子で戦争が起きるのが日常だ。


そんな中、面子を無視して傅役の仕事を奪うなどしてしまっては織田家が割れる、とそう考えたのだろう季光は。


だが、それもこれも、吉法師(信長)が単なる子供であればの話である。

どうも、この吉法師(信長)、この頃からすでにやんちゃしている様子がある。



そのことを考慮すると、案外向こうから"助けてくれ"とでも言ってくるかも知れない。

まぁ、向こうに先手を打たせたくはないので、こちらからアプローチを掛けるつもりだが、季光が考えるほどの心配は必要ないんじゃないかな?と俺は安直に考えていた。



「まぁ、この話はこの辺りで良い。それより考えねばならんことがあろう」


俺は、この件は解決したとばかりに次の話へと進もうとする。


「は・・・・?次、ですか?」

「次というのはなんでしょうか?御霊蛇様。」



2人が「なんの話だ?」とばかりに疑念を表す。


「ここから持ち出す品、ダンジョンからの産出品についてだよ」


「持ち出してはいけない・・?ということでしょうか?」


俺が、ダンジョンから生み出される品のことに言及すると、表情が一変し「神域から持ち出してはダメだったのか?!」とばかりに恐慌を示した。



「いやいや、違う違う。持ち出すのは構わんよ。そのことではない」


俺はこれを即座に否定し、ちゃんとした話へと方向を変える。



「(ほっ・・・)では、産出品の何が問題なのでしょう?」


「お主ら、それをどこで金に変えるつもりだ?」


「え・・、それは・・、親しい商人に買い取らせるつもりでしたが・・・?」




そうだろうな。

この時代の人間は、わかっている人間は情報の扱いに注意するが、一つの情報が玉突きのように広がっていくということを感覚でしか認識していない。


当然、ここから産出するような貴重品を近場の商人に売り払えばどうなるか?なんていうことは、貧乏人でもなければ特に気にもしないのだ。



そんなことが続けばどうなるか

現代人が瞬時に理解できてしまう危険についてわかっていない。



「そのような安易なことをすれば、信秀だけでなく今川や本願寺も出てくるぞ。」



ガラスペンや陶器などが産出する洞窟ダンジョン

そんなものがすぐそばにあると知って

黙ってみているようなのは武士ではないだろう。



いや、一般人でさえ狙ってくるだろうな。

そうなれば、如何に権威ある熱田神宮などとはいっても、人の欲望の前には紙切れ以下だろう。



と、そんな予測を俺は2人に話してやった。


「・・そんな」「・・・・・」


この話は四郎丸を含めた他の者にも聞かせたが、"浅井"という者なども同意見らしい。

俺の話に、「あり得るな」と呟いていた。



「だからの、信頼できる商人を味方につける必要がある。」



俺はそう言って、解決策を示す。


「商人としても、ダンジョンから出る品は喉から手が出るほど欲しいだろう。だから、説得の余地はある。」


「えぇ、でしょうね。とすると、それを材料に交渉を行う、と?」



「待て待て、まだ続きがある。

この商人には堺・大湊・博多などの大きい街でモノを売ってもらうのだ。」


「・・・そうするとかなりの大商人でなければなりませんが?」



これらの街は、地元の商人たちによって支配されている。

いわゆる『座』が街の運営を担っているのだが、そんな膝下で大規模な商売など可能なのだろうか?



「代理を立てればよい。わしらにとって重要なのは、ここからの産出品だとバレぬことだ。

だからの、その商人に産地を偽って貰えば良いのよ」



「なるほど。そうすれば、ここから出た品だということは漏れないということでしょうか?」


「そうだ。まぁ、これ以外にも、複数の偽装はしてもらう。

全国各地との少額取引を行わせ、人の少ない田舎町や島などに加工場を設けてもらったりな。」



「加工場、ですか?」


「偽装の一環よ。全国各地から持ち込まれたそれが、その加工場を経由することで様々な品に変わる、というな。

それを見れば、その加工場にこそ秘密があるように思うだろう?」



「・・・でしょうね。」



偽装工作の一環だ。

この時代にそこまでの偽装をしている者などいるまい。


なにより金がかかりすぎて無理だ。


だが・・・



「だが、わしらであればできる。ガラスペンや陶器。それ以外にもここでは多くの品が出るだろう。いや、わしが出す。

それを売れば、その程度の出費は簡単に賄えるだろうよ。」



売る場所の予定が、大都市だということもある。

そのことを考えれば、ガラスペンや陶磁器などは青天井だろう。


刀に銃


そう言った者だって作れるし、土中に紛れ込んだ貴金属を集めて加工することでアクセサリーを作ることさえ容易だ。


それも、どんな形のものでも作れる。



「どうだ?」


「いい案だと思います」「良き思案ですな」



「それと、吉法師(信長)。信秀殿には、"ここは周辺から多くの情報が集まる街故、この地で数年の間学びたいのだ"とでも伝えるといい。」


「ここで学ぶと?」


「あぁ、それと季光。主は信秀殿に伺いを立てろ。

"吉法師(信長)がここで暫く学びたいと言い出しているがどうするのか?"とな。」



「別々で伝えるので?」


「あぁ、季光が先でいい。すぐ後で吉法師(信長)が信秀殿に言いに行くというのが理想かな。」


「分かりました。やってみましょう」


「季光。あまり嫌がる風を出すなよ?それと、乗り気だとも見せないようにな?」


「なぜです?乗り気に見える方が良いかと思いましたが」


「いや、ダメだな。吉法師(信長)を取り込もうとしていると取られると厄介だ。

かといって、嫌がる風では信秀がこちらに気を使うかもしれん。」



「・・・・かもしれませんな」


「とすると、どうとも反応しない方がいい。

そして、お主は吉法師(信長)が逗留したいと思っている本当の理由を吉法師(信長)に隠れて、信秀に流すのだ。」



「え・・・?と言いますと、御霊蛇様のことを」「いや、違う」


「では如何なる事でしょう?」



「勉強させるのは誠でなければいかん。だが、それ以外にも彼方が納得できる理由があっても良いだろうということだ。

疑いが余計に逸れる。それに、平手らの面子も守られるだろう。」



「・・・・何かは分かりませぬが、どうすればよい、と?」



「吉法師(信長)に懸想している女子がいる、と伝えれば良いのよ。」


「あぁ!なるほど。懸想している者に会いたいがためにここに逗留している、という事ですな?」


「その通り!」



吉法師(信長)には悪いが、そんな話があれば信秀は興味深げに聞いてくるだろうし、他のことへの注意も逸れるだろう。


「・・・いやだぞ」


「いや、いい案ではございませんか!吉法師(信長)様は何をなさる必要もありません。私めが全て取り仕切ります故」


嫌がる吉法師(信長)を前に、季光はノリノリでどの娘がいいだろうか?なんて言い出している。




「(とりあえず、これでまとまるかな。

あとは、こちらに付く商人が見つかるかどうかか・・・。船もいる。やることはまだ尽きんか・・・)」




季光がゲラゲラ笑い、吉法師(信長)がむすっとした表情を浮かべる中、俺は未来へ思いを馳せるのだった。

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