表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国ダンジョン ~現代人は信長の足元で、歴史支配の夢を見る~  作者: 斎藤 恋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

第14話:"うつけ"とダンジョン

───急変


「・・ん?季光、誰か見知らぬ男が来るようだが・・・」


音の様子を見ようと外部視点へ切り替えると、見知らぬ男がこちらに向かってきているようだった。



「男・・・?」


全員の空気が凍りつく。

こんな夜更けに、神宮の森の奥深くまで来る者などいないはずだ。


「野盗か?」


「いや、外ならまだしもここは熱田の社領だぞ?」


「なら、誰か呼びにきたか」


「だろうな、流石にもう夜であるしな」


酒によって多少判断力が落ちていたこともあったためか、全員がそう納得しかけたそのとき

その男は入ってきた。


「・・・ほう」

少年の声。

年齢は四郎丸と同じくらい、10歳前後だろうか。


だが、その格好は異様だった。


髪は茶筅髷ちゃせんまげ

着物の袖は片肌を脱ぎ、腰には荒縄を巻きつけ、そこには瓢箪ひょうたんや火打ち袋をジャラジャラとぶら下げている。

腰に差した大小の刀は、鞘が朱色に塗られた派手な拵えだ。



「何奴っ! ここは千秋家の管理する・・・」

家臣の一人が槍を構え、誰何すいかする。


だが、その少年は槍など意に介さず、ズカズカとダンジョンの中へと足を踏み入れた。

そして、俺のダンジョンの壁、光苔が放つ幻想的な光を見上げ、次に足元の平らな石床(自然石だが、不自然なほど水平だ)を踏み鳴らした。


「ほぉ・・・凄いのぉ。この広大な広間に、光る苔、怪しげな置き物まである」

少年は、腰の瓢箪から水を一口飲むと、ニヤリと口角を吊り上げた。


「貴様! 何者だ!」

家臣たちが殺気立つ。

しかし、季光だけは顔色を変え、その場で平伏した。



「ば、馬鹿者!槍を引け!!」

「殿!? 何を・・」


「・・その御方は・・・」

季光の声が震えている。

少年は、そんな大人たちの反応を楽しむように、俺──ダンジョンの奥を睨みつけるように見据えた。



「千秋。・・・貴様、面白いものを隠しておったな?」

その目は、子供のそれではない。

獲物を見つけた猛禽類の如く、鋭く、そして貪欲な光を宿していた。



「(・・・あぁ、なるほど。コイツがそうか)」

俺のマップには表示されていないが、俺の直感が告げていた。

この異様な気配。


常識の枠に収まらない、"うつけ"の仮面を被った怪物


織田信長

幼名、吉法師



歴史の特異点が、俺の腹の中に踏み込んできた瞬間だった。



────────────────────────────



───ダンジョン第一層:入り口付近


空気が、凍りついていた。

物理的な温度の話ではない。



そこに現れた一人の少年が纏う、異様な気配が場の空気を支配していたのだ。


織田吉法師、後の織田信長


「うつけ者」と噂されるその格好は、確かに滑稽なはずだった。

だが、誰も笑っていない。


季光たち家臣団は、蛇に睨まれた蛙のように硬直し、言葉を失っている。



「・・・ほう」


吉法師は、家臣たちの反応など意に介さず、ただ静かにダンジョンの中を見渡していた。

その視線は、天井を這う光苔の幻想的な青、壁際に佇む交換器へと注がれていた。


俺は、ダンジョンの視覚を通じて彼を観察する。


「(・・なんだ、コイツ。はしゃぐでもなく、怯えるでもなく・・・値踏みでもしてやがるのか?)」


現代人の俺から見ても、その目は異質だった。

10歳の子供が初めて見る超常現象だぞ?


「わぁすごい」とか「お化けだー」とか、そういう反応が一切ない。

あるのは、冷徹な観察眼だけだ。


吉法師は、無言のままスタスタと歩き出した。

向かう先は、第一層の中央に置かれた普段供物を置く蛇の像


「わ、若君っ! そちらは・・!」

季光が慌てて声を上げる。


だが


ギロリ


吉法師が一度だけ、肩越しに季光を睨んだ。

たったそれだけの動作で、言葉すらない。


しかし、その瞳に宿る鋭利な刃物のような光に、歴戦の武人であるはずの季光が、思わず口を噤んだ。


(・・おいおい、マジかよ。睨むだけで季光を黙らせたぞ?)


俺が戦慄している間に、吉法師は蛇像の前へと到達する。

そして──俺の予想を裏切る行動に出た。


パンッ、パンッ


乾いた柏手の音が、洞窟内に響き渡る。

吉法師は荒縄を巻いた帯を正し、深く、長く、腰を折った。


その姿は、先ほどまでの不遜な態度が嘘のように、静謐で美しい所作だった。


─── 一分ほどの沈黙


祈りを終えた吉法師は、ゆっくりと顔を上げ振り返る。


「・・案内せよ」


短く、低い声。


「し、しかし……若君。ここは千秋家が管理する……」


「千秋」


吉法師が、季光の言葉を遮る。

その口元には、先ほどまでの神妙さは消え失せ、不遜で傲慢な笑みが張り付いていた。


「貴様、謀反する気か?」


「っ!?」


「ここ数日、貴様の配下の顔つきが変わった。装備も良くなり、何より・・・あの臆病だった四郎丸が、妙に自信をつけておる」


吉法師は、四郎丸の方を顎でしゃくる。


四郎丸はビクリと震え、季光の後ろに隠れるように縮こまった。


「人の変化には理由わけがある。ましてや、この熱田の社領で起こる異変だ。・・・隠し事は好かん。連れて行け」


それは命令であり、決定事項。

断れば、ただでは済まさない。そんな「魔王」の片鱗を、俺はこの少年に見た。



「(・・・こりゃあ、ただでは帰ってくれそうにないね・・)」




俺は四郎丸を通じて、季光に念を送る。


「季光、入れてやるといい。ここで追い返し、信秀に有る事無い事 密告される方が面倒じゃろう」


「・・・はっ」


季光は観念したように肩を落とし、そして覚悟を決めた顔で吉法師に向き直った。


「承知いたしました。・・・なれど若君、ここは神の試練の場。足を踏み入れれば、怪我では済みませぬぞ」



「ふん。神がわしを殺すと言うなら、それまでよ」



吉法師は鼻を鳴らし、草履を踏み鳴らして奥へと進んでいく。

鍛錬階層への階段が、うっすらと淡い光で照らしだされていた。



────────────────────────────


───新規エリア:鍛錬階層


石造り(コンクリートの打ちっぱなし)の回廊に、吉法師の足音が響く。

彼は、規則正しく両横に並ぶ部屋と、そこに掲げられた看板を興味深そうに眺めていた。



『弐の間:まっど・こぼると × 10』



「・・・読めぬ字だが、意味はわかる。絵か?」


看板には文字だけでなく、コボルトの似顔絵も掘ってある。

吉法師はそれを見て、妖魔との修練場だと直ぐに認識したらしい。


「よし。ここを開けろ」



彼が指差したのは、マッドコボルトの部屋。

俺が作った中では、初級から中級への入り口にあたる難易度だ。


マッドスライムよりは遥かに強く、凶暴性もある。

10歳の子供がいきなり戦うには辛い場所だろう、しかし・・・


「若君、ここは・・・」


「開けろと言っている」



聞く耳を持たない。

季光は俺の方(虚空)をチラリと視線を向ける


俺は「やらせてみよ。ただし季光、お主も入れ。死なせるな」と伝える。

諦めたように季光が扉を開くと、部屋の中央で泥が盛り上がり始めた。



ボコッ、ボコボコッ!

不快な音と共に、コボルトの泥人形たちが姿を現す


犬の頭部を持ち、石でできた棍棒を持った"マッドコボルト"


その数、10体。


「(さぁて、お手並み拝見といこうか。未来の天下人様よ)」


10歳の子供に10体の魔物

普通の子供なら、恐怖で足がすくんでもおかしくない。


だが


「・・・ふん」


吉法師は、無造作に朱色の鞘から刀を抜き放つ。

ただ無造作に刀を下に向け、コボルトと相対する。


千秋らのような実戦的な構えでもない。

ましてや、かつての現代であったような洗練された構えでもなかった。


両腕を下におろし、体勢は低く、目だけは敵を外さない。


その構えは、言うなれば"獣"だった。



「グルァッ!!」


先頭のコボルトが飛びかかる。

吉法師は声も上げずコボルトの顔面に向かい掴んだ"何か"を投げつけた。


ドチャッ!

「ギッ!?」


それは、床に落ちていた泥の塊だ。


視界を奪われ怯んだコボルトの喉元に、吉法師の刀が突き刺さる



躊躇いのない一刀、殺し慣れたような最適解。

季光のように戦慣れしたものとは異なる、短期決戦的な戦い方だった。




「(・・・やり方が上手い。だが、そのやり方は悪手だな、体力が持つまい)」


残りの9体が、一斉に襲いかかる。

季光が、焦って助太刀に入ろうとするが、吉法師は泥の中を転がるようにして敵の只中へ突っ込んでいった。




そのまま一体、二体と倒してゆくが


「くっ・・・!」


流石に10歳児の体格だ、三体目を倒す前にコボルトの棍棒を食らってしまう。

吉法師は腕で受け止めるが止めきれず、無様に倒れてしまう。



そこへ、背後から別のコボルトが棍棒を振り下ろす・・・



ズルッ



吉法師は、起き上がろうとして再び足を滑らせる。その不格好な動作によって、彼の頭の位置が大きく前へと進んだのだ。


ヒュンッ!


棍棒は、吉法師の頭があった空間を虚しく切り裂いた。


「(おぉ!?ラッキーだったな。)」


俺の驚きを他所に、吉法師は再度立ちあがろうと動き出す。


だが、頭を切り替えたのか、膝立ちのまま全力で周囲に刀を振るった。

すると、吉法師を囲んで叩きのめそうとしていたコボルトたちは、その刀によって腹を切られてしまった。


残りは3体。


吉法師が刀を振り回した際、体勢を崩したために、コボルトたちはまたも棍棒を外す。


そのまま前転で距離をとった吉法師は、再度、3体のコボルトに相対し、端から順に狩っていってしまった。



「(なかなかやるな。だが、運がいいとしか言えんな、これは。)」



最後のコボルトを倒し、それを見た季光が駆け寄ろうとする。

だが、吉法師はそれを手で制す


彼は、自分の足元で泥へと崩れていくコボルトの残骸を一瞥し、鼻を鳴らした


「・・・ふん、土塊が」


勝利の言葉もあっけないものだった。

ただ、当たり前の仕事を終えた職人のように、刀についた泥を指で拭っただけで終わった。



────────────────────────────


───戦闘終了後


四郎丸が、恐る恐る吉法師に近づいた。


「わ、若君・・。お怪我は・・・」


「ない」


「そ、そうですか・・・。あの、これを・・」


四郎丸が差し出したのは、コボルトたちが残した赤い魔石。

泥の中に落ちていたそれを、四郎丸が拾い集めていたのだ。



「これは?」


「えっと、その・・・。

こ、これを飲むと、力が湧くんです。御霊蛇様・・・神様からの、贈り物で・・・」


「石を、食う?」「え、えぇそうで・・・って、え!」


吉法師は、四郎丸の手から魔石をひったくった。

普通なら、正気を疑うし、誰かに毒見させるということもあるだろう。


だが吉法師は、その赤い石を光苔の明かりに透かし、真剣な眼差しで見つめた。


「妖魔どもを倒しその欠片を取り込むわけか。・・・なるほど、調伏ちょうふくとでもいうのか?」



彼は勝手に納得すると、その石を口の中に放り込んだ。

ガリリ、と音を立てて噛み砕き、一息で飲み込む。


「(うわ、噛み砕きやがったよ・・・。ワイルドだぜぇ?じゃねぇ、野生児かよ)」


俺が呆れていると、吉法師の前にも いつものアレが現れた。


「・・・む?」


吉法師は、虚空に浮かぶ文字を見て、目を細める。

俺もまた、彼のステータスを確認し──そして、絶句した。


====================

◻︎基本構成と状態

・名称:織田 吉法師

・種族:人間(子供)

・年齢:10歳

・ランク:G

・状態:魔力中毒(小)・覚醒


◻︎ステータス

・HP(耐久力):28/28

・MP(魔力):7/7

・STR(攻撃力):13

・DEF(防御力):10

・RES(魔法耐性):5

・SPD(速さ):18

・LUC(運):50


◻︎保有スキル

・スキル:豪運(Lv.3)

・スキル:威圧(Lv.1)

・スキル:迅速(Lv.1)

・スキル:魔力感知(Lv.0)

====================



「(な、なんだこれ!?)」


STRやHPは、四郎丸より高いとはいえ、まだ子供の範疇だ、鍛え上げた季光には遠く及ばない。

だが、LUC(運)が50?


四郎丸の初期値が10、一般の家臣が5前後だったはずだ。

50という数値は、異常を通り越してバグに近い。


それに、このスキル構成。


『豪運』『威圧』『迅速』


どれもが、彼の武将としての資質を如実に表している。


特に『豪運』

さっきの戦闘のアレは、このスキルの効果だったのだろうか・・・?



「(いや、あれは素か・・。LUC:50ならそういったこともありえるかもしれない。)」


これが、日本史の特異点、織田信長という人間か・・・。


吉法師は、自分の手のひらで何度も画面を触れた後、

それがなんなのか確認しようとしていたらしい、目の前のステータス画面を真剣に見つめていた。



驚きはあるようだが、それをすぐに"事実"として飲み込んだようだ。

彼は、虚空──つまり、俺がいるであろう方向を見据え、小さく頷いた。



「・・・感謝する」



誰にともなく、彼は呟く

まるで、神からの授かり物だとでも解釈したかのように・・・


「みやこの『泥まみれ魔物図鑑』公開だよ!

魔物の弱点から、神さまの設計ミスまで全部書いちゃった。

"X"の固定ポストから見に来てね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ