第13話:孤児と混凝土《コンクリート》札と鍛錬場
───翌朝:ダンジョン第一層
「・・・連れて参りました。御霊蛇様」
季光の声と共に、ぞろぞろと小さな影たちが石鳥居をくぐり、ダンジョンの第一層へと入ってくる。
総勢15名。
下は5、6歳から、上は8、9歳といったところか。
身につけているのは継ぎ接ぎだらけの着物で、足元も裸足か、擦り切れた草鞋だ。
だが、その目は死んでいない。
熱田神宮の庇護下にあるとはいえ、親を失い、乱世を生き抜いてきた子供たちだ。どこか飢えたような、鋭い光を宿している。
「(ふむ、悪くない面構えだ。それに栄養状態も、戦国時代の孤児にしてはマシな方か)」
俺は彼らを観察しつつ、一つの点に注目した。
15名のうち、5名ほどが女子だったからだ。
「季光。女子もおるようだが?」
俺は四郎丸を通じて問いかける。
戦国の世だ。戦働きといえば男の仕事というのが相場だろう。季光も少し申し訳なさそうに口を開く。
「はっ。人数を揃えよとの仰せでしたので、動ける者は男女問わず連れて参りました。
・・・やはり、女子では不満でございましょうか? 戦力として数えるには心許なく、すぐに返させますが・・」
「いや、構わん。むしろ好都合じゃ」
「好都合、でございますか?」
「うむ。・・・我の力に肉体の性差はさほど重要ではない。むしろ、女子の方が強くなるかもしれん。」
これは半分建前で、半分は本音だ。
魔力に性差はない。
恐らくこれに間違いはないのだ。
となると、あとは経験による差だけである。
それに、俺がいずれ肉体を得る際のことを考えると、今のうちから知識は手に入れていた方がいい。
そう思っている。
「それに、将来的には、蓄えられた魔力を使い"術"を使う者も出るやもしれん。そのまま残すといい。」
「はっ! 深いお考えがあってのこと、恐れ入ります」
季光は納得し、子供たちに向き直った。
「よいか! 御霊蛇様は、お前たちにも機会を与えてくださるそうだ。
女子だからと甘えるな! ここでは力なき者は何も得られんぞ!」
「「「はいっ!!」」」
子供たちの返事は良い。
彼らにとっては、ここが生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
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───新規エリア:鍛錬階層
俺は彼らを、昨日突貫工事で作った『鍛錬階層』へと案内させた。
第一層の入り口付近に追加した、木製の階段を降りた先にあるエリアだ。
そこは、無機質なコンクリート製の回廊だった。
一本道の廊下が奥へと続き、その左右にはいくつもの「部屋」が並んでいる。
どこか、オカルト話で出てきそうな構造だ。
それぞれの部屋の前には、木製の看板が掲げられている。
『壱の間:まっど・すらいむ × 20』
『弐の間:まっど・こぼると × 10』
わかりやすさ重視のデザインだ。
「ここが・・新しい鍛錬場・・・」
四郎丸が珍しそうにキョロキョロしている。
俺は彼に、この階層のルール(システム)を説明した。
「四郎丸、皆に伝えよ。
『この部屋の中には魔物がおる。部屋に入れば現れ、何度倒しても次が湧く故、幾度なりとも挑戦せよ』とな」
「次が・・・?」
「『そうだ。ここは"鍛錬"のための場だ。宝も、美味い飯もない。あるのは闘争と、己の血肉となる魔石のみ』」
俺はそう冷徹に告げる。
ダンジョンとは、リスクを冒して潜る場所だが、そのための準備がお遊戯であってはならないのだ。
「『だが、ここで生き残り魔石を食らい続ければ、お前たちは昨日の自分とは違う"強者"になれる。
・・・強くなりたくば、泥を啜ってでも食らいつけ』」
四郎丸はその言葉を噛み締め、緊張した面持ちで孤児たちに向き直りその言葉を孤児たちに告げた。
「御霊蛇様のお言葉だ。ここにいる魔物を倒し、落ちる魔石を飲み込めば僕たちは強くなれるんだ!」
「強く・・」
「けっ!飯が食えんならやるさ」
子供たちの顔から、浮ついた期待が消え、悲壮な決意が宿る。
彼らにとって「強くなる」ことは、乱世で生き残るための唯一の切符だと、本能で理解しているのだ。
「よし、行くぞ!6人一組だ! 背中を守り合え!」
四郎丸の号令と共に、彼らは武器を構え、最初の部屋『壱の間』へと突撃した。
ボコッ、ボコボコッ
部屋に入った瞬間、地面が波打ち、20体のマッドスライムが姿を現す。
泥でできた不定形の怪物。
動きは遅いが、子供の目線で見れば、20体のスライムは十分に恐ろしい質量を持っている。
「うわぁぁっ! 来たぞ!」
「叩け! 叩き潰せ!」
戦闘が始まった。
訓練された家臣団とは違う、無様な乱戦だ。
恐怖で足を止める者、無闇に武器を振り回す者、転んで泥まみれになる者。
「ぎゃっ!足が!」
「のけ!俺がやる!」
「えぇぇぇぇん!もうやだー!」
マッドスライムの体当たりを受け、子供が吹き飛ばされる。
だが、彼らは泣かなかった。(泣いてる子もいるが)
泣いている暇などないのだ。(やはり泣いている子もいるが)
「サヨコ!右!」
その乱戦の中で、一際冷静な声が響いた。
連れてこられた女の子の一人、名前は"ミヤコ"といったか
彼女は自分より大きな石槍を短く持ち、スライムを瞬く間に潰していった。
槍の使い方が上手いわけじゃない。
単に、身体能力が高いのだろう。
槍で突き、足で踏み潰し、腕で殴りつける。
彼女は、全身を使ってマッドスライムを倒していった。
「(ほう・・。なかなかいい動きだな。思いの外、身体能力が高いのか?)」
俺は興味深く観察する。
彼女の動きに触発され、他の子達も残ったマッドスライムを倒していく。
彼女によって分断され、離れた配置へと変えられたマッドスライムを集団で圧殺する形が出来上がる。
「(計算してやったか・・・?子供にしては上手いな)」
そして数分後。
ドシャっ!最後のマッドスライムが弾け飛び、泥へと還った。
床には、赤い色の魔石だけが転がっている。
「はぁ・・・やったか?」
「終わったー・・・」「思ったより疲れた・・・」
「さぁ、石を拾え! それを飲むんだ!」
彼らが、倒し終わったのを見て、四郎丸が叫ぶ。
子供たちは泥の中から魔石を拾い上げ、躊躇いながらも口へと放り込んだ。
「うぐっ・・・」
「変な味・・・」
顔をしかめる彼らだが、すぐ変化に気づく。
ピロン!と"ステータス画面"が彼らの目の前に現れたのだった。
・・・特に音が鳴ったわけではないが
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◻︎基本構成と状態
・名称:みやこ
・種族:人間(子供)
・年齢:9歳
・ランク:G
・状態:魔力中毒(極小)・覚醒
◻︎ステータス
・HP(耐久力):7/13
・MP(魔力):4/4
・STR(攻撃力):3
・DEF(防御力):2
・RES(魔法耐性):3
・SPD(速さ):6
・LUC(運):21
◻︎保有スキル
・スキル:魔力感知(Lv.0 NEW!)
・スキル:身体性能強化(Lv.0 NEW!)
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孤児グループのリーダー格だった女の子のステータスだ。
「(身体性能強化?身体能力じゃなくてか?)」
どうにも、変わったスキルを発現したらしい。
だが、今の所、こういったスキルにどういう効果があるのか、まだイマイチ分かってはいないところなのだ。
「(他の者は、なんというか今までの延長線上のスキルしか発現しとらんしな。この娘ならサンプルには丁度良いかもしれない)」
彼らはステータスの出現後、四郎丸からその読み方を教わった。
中でも"ミヤコ"は、熱心に四郎丸にステータスについて聞き込んで、彼が少し狼狽えていたのが面白かった。
ミヤコはここで鍛えれば、現状から抜け出せるという確信を抱いているようにも思える。
「(INTがあれば賢さとかがわかるんだが・・・。まぁ現実にんなもんないわな)」
攻撃力や防御力なんていう項目があって今更かもしれないが、"賢さ"なんていうのは一概に表現できるような者じゃない。
だが、魔力があるのに、魔法の威力に関連する項目がないのは不思議だ。
まぁ、もしかすると魔法技能を持つ者がいないからかもしれないが。
ステータス発現後の休憩の後。
彼らは再度、マッドスライム部屋に入り直し、その後マッドゴブリンとの戦いを延々繰り返してその日の鍛錬を終えた。
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───夕刻
日が落ちる頃に四郎丸を通じて子供達に声をかけると、鍛錬層から子供たちが引き返してきた。
「つ、疲れた・・・・」「腕が・・・・」「も、もうだめ・・・」
子供たちは、疲れからか全員が第一層で倒れ込んだ。
だが、その表情は死んでおらず、"やり遂げた"という表情が彼らの思いを物語っている。
「集まれ!!」
そこへ、第二層の探索を終えた季光と家臣団が帰還した。
彼らもまた、泥や汗で汚れ切っていたが、彼らの持つ巾着には彼らの戦利品がジャラジャラと音を響かせていた。
「四郎丸どうであった?」
「はい、マッドコボルトと連戦しましたし、よく戦えたと思います。」
「そうか。お主らもよく頑張ったな。では、これも見ていくか?」
そう言って季光が袋を逆さにすると、カランカランと音を立てて数枚の"混凝土札"がこぼれ落ちた。
【弐の札】・【参の札】と文字が記されている。
「これは・・・?」
子供たちが身を乗り出す。
「これはな、あちら側の階段より降りた先、第二層以降でしか手に入らない札だ。
これを持ち帰れば、こちらで御霊蛇様が相応の宝物と交換してくださるのだ。」
手本を見せようとばかりに、季光は家臣の一人に命じ、第一層に設置された交換器へと札を入れさせた。
・・・今の所、これは札のサイズと魔力でしか判断できない欠陥品だ。
だから、札のサイズごとに交換器が置かれている。
弐の札の交換器に札が入ると、コトンっという小さな音が鳴り、中から白い紙の束が出てきた。
「おぉ!これは紙か?!」「このように白い紙は見たことがないな・・?」
「おい!触りも違うぞ?」「外に流せば幾らになる?」
「さてな・・、想像もつかん。美濃紙よりは高級品だろうが・・・」
「騒ぐのはいいが・・、早く次も入れろ。このままだと日が暮れるわ」
季光に注意され、騒いでいた家臣たちも札を交換器に入れ始める。
全部で5枚の札があったが、交換できたし品はこれだ。
・上級紙:10枚セット
・酒:アルコール95%(消毒用)
・肥料:高級肥料
・コップ型の陶磁器
・ガラスペン
「す、すげぇ・・・!」
「きれい・・・」「おい、酒だぞこれ!」「うわ!すごい匂いだな・・」
子供達だけでなく、大人たちも騒いでいた。
この時代に95%の酒なんて存在しないだろうから驚くのもわかる。
「その酒は適当な飲み物と混ぜて飲むといい。」とだけ告げてやり、彼らは喜んでそれを持ち帰った。
それ以外にも陶磁器にガラスペン、上級紙など、彼らが見たこともないような品に皆が皆喜びを隠せなかったようだ。
子供たちもそんな品を見て、「いつか俺たちも」という思いに駆られたのだろう、疲れ切っていた表情が一変して明るいものになっていた。
「(ふふふ、驚いてるようだな。これは、お前たちが持ってきたゴミから作られたんだぞ?)」
俺は内心ニマニマと愉悦に浸りつつ、彼らを眺める。
鉄製の刀は作れなくとも、砂や灰、土なら山ほど持ってきてくれていた。
木屑やたまに海水も捨てられたので、紙や塩も作り放題だったのだ。
「よいか。お前たちの今日の働きは、あくまで"鍛錬"だ。だが、そこで力をつけ認められれば、いずれ我らと共に下の階層へ潜ることを許す」
季光が、陶器の盃を掲げて子供たちに告げる。
「強くなれ。そうすれば、この宝も富も、お前たちの手で掴み取れる。千秋は、強き者を決して粗末には扱わぬ!」
「はいっ!!」
「俺、やります! もっと強くなります!!」
子供たちの瞳に、明確な野心が灯った。
ガラスと白磁。
その様々な宝物の光は、今や彼らの夢そのものだった。
その後、千秋家が用意した夕餉が振る舞われた。
雑穀混じりの飯と、猪肉の入った味噌汁だ。
余程楽しかったのか、早速、酒を飲んでいる者も出て、第一層は大人たちの宴会場へと変わっていった。
しばらくすると、子供たちの寝息と数人の大人たちが談笑をするだけの静かな夜が訪れていた。
だが、その平穏は唐突に破られることとなる。
「みやこの『泥まみれ魔物図鑑』公開だよ!
魔物の弱点から、神さまの設計ミスまで全部書いちゃった。
"X"の固定ポストから見に来てね!」




