第88話『立ち上がる理由』
アリアが消えた虚領の石の広間―
シンたちは、膝をつき、立ち尽くしていた。
沈黙。
何も、言葉が出てこない。
スイ:「そんなの……嘘……でしょ……?」
ユイナ:「アリアさんが……どうして……」
ロッシュ:「……こんなの……ありかよ……」
シンは、アリアの消えた場所に膝をついたまま動かない。
握りしめた拳から、血が滴る。
ニャルス:「……悲しみに沈むのは、今じゃないぞ」
だが、その声も届かない。
シンの中には、怒りでも憎しみでもない―
ぽっかりと開いた“空白”だけがあった。
【…レイちゃんを、救ってあげて…私の...自慢の…息子.....】
その言葉が、静かに胸に灯る。
……違う。
こんなとこで終われるわけがない。
ここで止まったら、母さんの死が―、レイの苦しみが―、全部無駄になる。
シン:「……まだ........終わってねぇよ……」
その言葉と同時に、石の床にヒビが入る。
魔力が、彼の全身からあふれ出していく。
ユイナ:「……この魔力、まさか……」
スイ:「シン......! あなた、まさか……“真魔法”を……!」
ロッシュ:「お前……“真魔法”をこれ以上強化したら....人間に戻れなくなるぞ……!!」
シンはゆっくり立ち上がる。
シン:「構わない。俺はもう、“普通”には戻れない。だったら―前に進むしかねぇだろ。」
―雷でも、影でも、時間でも空間でもない。
それは、名前すら持たない純粋な原初の魔力。
存在そのものを編みなおす、“根源”の魔法。
周囲の空気が震える。
空間が歪み、色が褪せ、重力が乱れる。
その中で―シンの背に、黒と白の双翼のような魔力が広がる。
スイ:「―その力は、誰かのものじゃない。あなたが“生きる”ために選んだ力だよ、シン」
シン:「……ああ、俺は、生きる。守るために、戦う。……“レイ”を、救うために!!!」
その叫びに、虚領の空間が震える。
魔法陣が砕け散り、新たな魔の構造が形成される。
「……まだ立ち上がるか。なら、今度は“運命”そのものを砕いてみせろ」
シン:「望むところだ」
虚領にひびが入る。
仲間たちは、シンの背中を見ていた。
そこにはもう、迷いはなかった。
“真の魔”を抱きながら、それでも彼は“人間”で在ろうとしていた。
―立ち上がった。
母を失い、大切なものを失ってなお。
それでも、シンは前へ進む。
それが、彼の“生きる理由”だから。
次回―
咆哮せよ!




