第8話『守りたいもの』
1,試練
—灰の谷、その深部。
谷の奥、岩壁に囲まれた古の神殿。その扉の前に立ったシンは、ただ静かに深呼吸した。 空気は重く、吐く息が白い。仲間と別れ、それぞれの“扉”へと歩んでいく。
シン:「……ここが、俺の試練か」
重く軋む扉がゆっくりと開く。そこに待っていたのは、魂の賢者。
―風格ある老戦士のよ うな男だった。
魂の賢者:「魂と魔を断ち切る者よ。お前の力は“矛盾”に満ちている。“反魔法”―すべて を否定する力。“霊魂魔法”―命の本質と向き合う力。どちらも強大だが、相容れぬ」
シン:「……わかってる。でも、どちらも俺にとって“父”とつながる、大切な力なんだ」
魂の賢者:「ならば証明せよ。己の在り方を。―試練の扉、開門」
賢者が地を叩くと、床が砕け、シンは突如として黒い深淵へと飲み込まれた―。
2,精神世界
気がつくと、シンは荒れ果てた村の中にいた。崩れた家屋、血のにおい、立ち込める黒い 霧―。
シン:「ここは……母さんが言ってた.........父さんが死んだ……あの日の村……?」 だがそこに立っていたのは、血に染まった刀を握り、冷たい目でこちらを見る“もう一人のシ ン”だった。
闇シン:「結局、お前は“力”を持っていながら、誰も救えなかった。お前が弱かったせいで、 父も、村も、終わったんだ」
シン:「違う……俺は、守りたくて……!」
闇シン:「なら見せろよ、その“覚悟”ってやつをさ!!」
―刹那、闇シンが斬りかかる。
彼の斬撃はまさに霊魂魔法。《魂断》
―相手の記憶と心を切り裂く禁呪だ。
シン:「くっ……!」
受けた刃から、父の死、仲間の涙、自身の後悔―すべてが一気に胸に流れ込んでくる。
シン:「……ッ……ダメだ、俺じゃ……!」
地面に膝をつくシン。そのとき、刀の中から、低く、力強い声が響く。
ゼルグ:「……情けねぇ顔だな。契約者」
シン:「ゼルグ……」
ゼルグ:「“力”ってのはな、自分の醜さも、情けなさも全部引きずって、それでも前に進む奴 だけが掴めるもんだ」
ゼルグ:「思い出せ。“父親の刀”は何のためにある? お前が何のために、戦うのかを」 シンは、地を見つめた。
頭に浮かぶのは、父の優しい手。刀を鍛える背中。最後に残した言葉
「シン、お前は“何を守るか”で、その力の意味が決まるんだ」
シン:「……俺は……」
立ち上がる。
刀を構える。その刃が、淡い青光を帯び始める。
シン:「俺は……俺の大切な人を守るために、ここにいる! 父の刀で、ゼルグの力で、未来 を斬る!!」
ゼルグ:「いい目だ、契約者」
シンの刀に“霊魂魔法”と“反魔法”が一瞬だけ、交わる―。
刹那、斬撃。
闇シン:「……これが、お前の“覚悟”か」
斬られた闇の自分は、静かに微笑むと、霧のように消えていった。
3,試練の間
目を開けたシンは、膝をついたまま、大きく息を吐いた。
魂の賢者:「よくぞ乗り越えた、若き戦士よ。“過去の自分”に勝つこと。それこそが第一の試 練。だがこれは始まりにすぎぬ」
賢者が手をかざすと、前方に“第二の扉”が現れる。
魂の賢者:「次は、“魂”の世界を知れ。そして“無”を受け入れる者としての覚悟を、示すがよ い」
シン:「……ああ。絶対に負けない」
シンは、もう一つの扉を開くと、大きな黒い渦に飲み込まれる。
その瞬間、刀が熱を帯び、ゼルグの声が響いた。
ゼルグ:「……よく来たな、契約者」
シン:「ゼルグ……」
ゼルグ:「これからお前が向かうのは、己の心と、そして“過去”と対峙する場所。だがその 前に……少しだけ、話してやる」
霧が濃くなり、周囲の景色が溶けるように消えていく。
次の瞬間―
目の前に広がるのは、かつての“戦場”。
無数の屍が転がり、空には黒い雷が走っている。
中心に立っていたのは、黒い鎧を纏った“かつての人間時代のゼルグ”。
シン:「これ……過去?」
ゼルグ:「……なぜ俺が“反魔法の悪魔”と呼ばれるようになったのか、なぜ悪魔になったの か。教えてやろう」
次回―
ゼルグの過去がついに明かされる。




