第65話『記憶の兄妹―クリナの決断』
1,崩れる“信じていたもの”
虚無の心臓の入口に続く“白の回廊”は、なおもその姿を変えながら、訪れた者たちの過去を試していた。
記憶の断片の中から戻ったシンたちは、深い沈黙の中で立ち止まっていた。
淡く揺らめく魔法灯の下、誰もが何かを見つめ、何かを失っていた。
クリナは、言葉に詰まったまま両手をぎゅっと握りしめる。
スイ:「……クリナ、大丈夫?」
クリナ:「……兄ちゃんが間違っていたのはわかった…けど……けど..やっぱり兄ちゃんを信じたい……」
レイ:「“記憶の中の彼”は―苦しそうだった。自分で、自分を壊してるように見えた」
ユイナ:「あなたの目には、そう映ったのね」
クリナはうつむいていた顔をゆっくりと上げ、赤く潤んだ目でシンを見つめる。
クリナ:「……シン。あのとき、私……兄ちゃんを斬ったんだ。自分の手で。でも、私、間違ってたんだよね……?」
シン:「……間違いだったかは、今じゃない。これから、どう生きるかで答えは変わる。だから、一緒に進もう。クリナ」
スイ:「……もう、独りじゃないよ」
ユイナ:「あの時止まった時間を、取り戻そう」
クリナはぽろぽろと涙を流しながらも、はっきりと頷いた。
クリナ:「……ありがとう。私、今度こそ、あの兄ちゃんを“助ける”」
2,蠢く記憶の残滓
そのとき、空気が粘つくように重くなった。
回廊の奥、白い壁が裂け、黒い触手のような霧が這い出てくる。
ゼルグ:「……来たな。“記憶の守護獣”」
現れたのは、巨大な黒獣。
黒獣:「グアァァァァ!!!」
その姿は、人間の恐怖と絶望の集合体―
おそらくクロノが最初に“アイン=ゼロ”と接触したときに見た、心象風景の具現だった。
レイ:「あれ……まさか、クロノの“最初の侵食”……!」
ベルゼブブ:「触れるな。精神を食われるぞ」
シンは、一歩前に出る。
肩に、8体の精霊・悪魔たちが浮かび上がる。
カイラ:「シン、霊魂界域を使いなさい。これは、心の戦いよ」
3,魔領域、再展開
シンの身体が、淡い蒼白の魔力に包まれた。
魔領域―霊魂界域が再び発動する。
背中に浮かび上がるのは、羽根のような霊体の紋章。
シン:「―これは、兄の悲しみへの答えだ!」
彼の放った霊魂魔法が黒獣の胸を貫き、内部の“記憶”を切り裂く。
一瞬、黒獣の内部に幼いクロノが座り込んで泣いている姿が見えた。
その姿に、クリナが叫ぶ。
クリナ:「兄ちゃんっ!!」
黒獣:「グゥゥ!!!!」
その声に反応するように、黒獣はもがき、苦しみ、やがて静かに霧と共に消えていった。
4,真実の“兄”と、偽りの言葉
黒獣の残滓の中、幻のように小さな“記憶の光球”が浮かび上がる。 それに手を伸ばしたクリナが、断片的な記憶を見る―
それは、クロノが他の兄妹たちに語った言葉だった。
クロノ:【母さんと父さんは、世界を壊そうとしてる。 だから―俺たちの手で止めるんだ。 殺すしかないんだよ】
クリナ:「……違う。母さんも父さんも、そんなこと考えてなかった……」
レイ:「……クロノは、あの時もう完全に乗っ取られていたのかも。けど、それでも私たちは ……信じる」
静寂の中で、クリナの言葉がこだまする。
5,扉の先へ
白の回廊の終端。
そこにあるのは、巨大な黒鉄の扉。
扉には刻まれていた―“神の意志を継ぐ者のみ、通過を許す”。
ルチフェロ:「これを開ければ、“最深層”だ」
ユイナ:「……いよいよだね」
スイ:「ねえ、シン……怖くない?」
シン:「怖いさ。でも……それでも進まなきゃ。ここまで来た意味がない」
レイ:「……あんた、本当に、バカみたいに真っすぐね」
シン:「……レイ?」
レイはすぐに目を逸らしながら、冷たく言う。
レイ:「別に。あたしは……まだ信用してない。けど……あんたが前に進むなら、それに文句は言わないってだけ」
そして、扉が開く。
かつて“神”が眠り、クロノが変わったすべての起点となった場所。
そこには、シンたちの“答え”が待っている。
次回―
再会?




