第144話『因子の記憶』
1,因子研究施設・最深層
《因子研究施設》の封印区画──
そこは、既に稼働を停止して久しい“因子生成核”が眠る場 所だった。
イツキたちは深い地響きの中、ひとつの記録室に足を踏み入れる。
中は埃と沈黙に包まれていたが、クロの操作によって封印された記録装置が起動する。
クロ:「これは……音声と映像の複合記録装置。旧世代のものだな。データは……まだ生き てる」
その瞬間、部屋に映し出されたホログラム映像が起動した。
そこに映るのは、まだ若い頃のシンと──名も知らぬ女性だった。
2,約束の記録
《録音記録・第97号》
シン:「今日、“人間因子”が初めて安定生成に成功した。“第18因子”。これは、彼の息子に 継がせようと思う」
映像に寄り添うように立つ、ひとりの女性。
彼女は笑っていた。
──ミヅキ。
ミヅキ:「ねぇ、シン。あなたは、どうして因子を作るの?」
シン:「……人間が、神に対抗できるように。 力を奪われ、決定権を奪われ、“選ばれる”側でいる限り……本当の自由は来ない」
ミヅキ:「でも……その未来、イツキに託せる?」
シン:「あぁ。あいつなら、“正しく”人間でいてくれる」
ミヅキは少し寂しげに笑ってから、こう言った。
ミヅキ:「いつか“人間”が、“神”を超えてほしい。 ねぇ、シン。約束してくれる?そのときまで、絶対にあなたは“神”にはならないって」
沈黙。
だが、やがて映像のシンが小さく頷く。
シン:「約束する──“誰の上”にも立たない。俺は、世界を見届けるだけの存在でいる」
3,失われた約束、歪められた真実
記録はそこまでだった。
静寂のなかで、イツキは声を絞り出す。
イツキ:「……そんな親父が、どうして因子を……作り続けたんだよ……」
セナ:「約束を破ったの……?」
クロ:「いや──違う。外的要因がある」
クロが別の記録ファイルを読み取る。
そこには“襲撃報告”の文字が。
報告ログ:
『神官庁第一部隊、作戦開始。対象:因子開発者の排除と因子コアの強制奪取』
『抵抗有り。民間人1名死亡。確認:女性、ミヅキ。』
セナ:「……まさか……」
ミリ:「ミヅキは……死んだの……神官庁の襲撃で……」
イツキの拳が震える。
イツキ:「……親父は、“守れなかった”んだ。……たった一つの、“約束”を」
クロ:「だから、シンは壊れた。“選択肢”を残すために因子をばら撒いた。誰かが、神を壊す日まで」
4,静かなる決意
ミリ:「ねぇ、イツキ……それでも、会うんでしょ。親父さんに」
イツキ:「……ああ。 けど、俺は──“倒しに”行くんじゃない。“連れ戻し”に行くんだ」
セナ:「……イツキ……」
イツキ:「絶対に、言ってやる。“戻ってこい、親父。約束を、守ってくれ”って」
ミリは雷の紋章を光らせながら微笑んだ。
ミリ:「……いいじゃん。そういう“正しさ”は、嫌いじゃないよ」
施設が崩れ始める。警報音が響く。
クロ:「やばい。因子核の反応が不安定になってる。全員、退避するぞ!!
イツキ:「行くぞ、みんな!!」
イツキたちは崩壊する地下から飛び出す。
だが、誰もが理解していた。
次回──
次に待つのは、■■■■。
それは、戦いであり、懇願であり、そして祈りだった。




