第14話『風と歩む誓い』
1,試練のはじまり
スイが辿り着いたのは、広大な空中庭園のような場所だった。 空には雲ひとつなく、見渡す限りの蒼穹。
無数の浮遊する島々が風に乗って漂い、彼女の 足元には透明な足場が浮いていた。
スイ:「……ここが、私の試練の場?」
すると、澄んだ風が一陣、彼女の頬をなでるように吹き抜けた。
その風が渦を巻き、やがて人の姿を成してゆく
現れたのは、透き通るような銀の髪と翡翠色の瞳を持つ、気品と自由を兼ね備えた女性の 精霊だった。
???:「我が名は、風の精霊・セリファ。風は“変化”と“選択”の象徴。お前に問う。お前の “願い”は、一時の情熱か、それとも覚悟か?」
スイ:「私は……守りたい。誰かに守られるだけじゃなくて、私が“誰かの力”になりたいんだ!」
セリファは瞳を細めて言った。
セリファ:「ならば見せてもらおう。その風に、真の意思があるかを」
突如、庭園の空間が弾け、スイは“風の迷宮”へと閉じ込められる。
2,幻影と向き合う
迷宮の中は、霧と風に包まれた不安定な空間だった。足元が定まらず、視界はくるくると回り続ける。
やがて、スイの前に“過去の幻影”が立ちはだかる。
幼い姿のスイ:「強くなりたいって言うけど、本当は怖いんでしょ? また誰かがいなくなる のが。だから、精霊に頼ろうとしてるだけ.........」
スイ:「そんなこと……!」
だが、内心に突き刺さる言葉だった。
彼女は、兄のような存在だった人物を過去に失っている。
あの時、自分がもっと強ければ―そう思ってきた。
スイ:「私は……確かに、怖いよ。でも、それでも!」
風が一段と強くなる中、彼女は目を見開いて叫ぶ。
スイ:「それでも、私はもう後悔したくない! 逃げるためにじゃない、誰かを守るために ―私は“力”を手に入れたい!!」
その言葉に応えるように、霧が吹き飛び、迷宮が崩れ落ちていく。
3,契約
元の空中庭園に戻ったスイの前に、再びセリファが現れる。
セリファ:「風は、お前の“本音”を見た。お前の弱さも、強さも、確かにそこにあった」 スイ:「……それでも、私を受け入れてくれるの?」
セリファは静かに微笑んだ。
セリファ:「お前の風は、すでに変わりはじめている。ならば私は、“契約者”としてその風と 共にあろう」
彼女が手を差し出すと、風がスイを包み、彼女の胸元に翠の紋章が刻まれていく。
スイ:「ありがとう……セリファ!」
セリファ:「まだ“風の奥義”には至らぬ。だが、お前には“風を導く心”がある。ゆくゆくは嵐さ え従えるだろう」
スイが手をかざすと、軽やかに風が応じ、彼女のまわりを穏やかに舞いはじめる。
スイ:「これが……風と生きるってことなんだ」
その瞳には、確かな光が宿っていた。
4,次なる試練へ
風の試練を乗り越えたその夜。
焚き火の揺らめく光の中、スイは目を閉じて静かに座っていた。風の精霊と契約を結んだ ことで、彼女の魔力の流れは一段と洗練され、感覚も鋭くなっていた。
スイ:「……来る」
その瞬間、大地が水のように波打ち、森の奥から青白い靄が立ち上った。空気が一 気に冷たくなり、幻想的な水音が鳴り響く。
スイが進むと、霧の向こうから現れたのは――
透き通るような身体に、鬣が水流で揺れる、美しき幻獣。
水の精霊獣・ルナリス。
月光を受けて煌めくその姿に、スイは自然と膝をついた。
スイ:「あなたが……水の精霊……?」
ルナリスは静かに頷き、スイを見つめ返す。
その瞳は、まるで“本当の自分”を見透かすような、深い深い湖のようだった。
次回―
スイの第二の試練、“水”の真実が、今始まる。