第13話『再起の鼓動』
1,魂の余韻
静まり返った試練の空間に、霧がゆっくりと流れていた。
中央には、刀を膝に立て、静かに目を閉じて座るシンの姿。
体の痛みはまだ残る。
魔紋の疼きも、完全には消えていない。
けれど、その表情にはどこか、これまでにない落ち着きが宿っていた。
シン:「……“恐れ”も、俺の一部だ。だったら……それごと受け入れて、前に進む」 刀を握る手に、かつてないほど自然な力がこもる。
ふと、記憶がよぎった。
―父の笑顔。
―スイとレイとの旅の始まり。
―ゼルグの鋭くも、温かいまなざし。
シン:「……そうだ。“誰か”のためじゃない。“俺自身”のために、強くなるんだ」
その瞬間、刀の刃に、霊魂と反魔法のエネルギーが淡く揺らめいた。まるで、意志に応えるように。
2,師の贈り物
そのとき、霧の中から再びゼルグの気配が現れる。
ゼルグ:「やっぱり……お前は面白ぇガキだ」
シン:「ゼルグ……!」
ゼルグは、かつてのような威圧感をまとわず、どこか穏やかな佇まいだった。
ゼルグ:「一つだけ、最後に伝えておく。“融合”は、単なる力じゃねぇ。“魂の共鳴”だ」
シン:「魂の……共鳴?」
ゼルグ:「そうだ。技でも術でもなく、お前自身の在り方が、力に形を与えるんだ。……お前 が“信じる意志”こそが、魔法になる」
シン:「……ああ。今なら、それが分かる気がする」
ゼルグはふっと微笑むと、懐から小さな封印石を取り出す。
ゼルグ:「こいつは、俺がかつて人間だった頃に編み出した“核魔法”の設計 図だ。……正直、お前にはまだ早い。だが、いずれお前の力になる」
シンは驚きつつも、静かに受け取った。
シン:「……ありがとう、ゼルグ。あんたの背中、俺……ちゃんと見てたよ」
ゼルグ:「……なら、もう教えることはねぇ。あとはお前が、お前の道を歩け」
そして、ゼルグの姿はゆっくりと霧に溶けていく。
ゼルグ:「―ただし、一つ忠告しておく。霧の向こうで、別の“試練”が動き始めている。仲 間の気配に注意しろ」
3,仲間の鼓動
静寂に包まれた空間。
だが、シンは感じていた。
右手から感じる、優しさと強さを持つ“スイ”の気配。
左手から感じる、静かな激情を秘めた“レイ”の気配。
シン:「……二人とも、戦ってる」
遠くで響いた、雷鳴のような音。
あるいは、木々を裂く魔力のうねり。
それぞれの戦場の音が、霧の向こうから微かに届く。 シンはゆっくりと立ち上がり、刀を背に収めた。
シン:「次に会う時、俺は……“もっと強くなった俺”で、二人の隣に立つ」
彼は歩き出す。試練の扉の前へ。
まだ開かれていないその扉の前に座り、仲間を信じて、ただ待つ。
シン:「信じてるぞ、スイ。レイ。……絶対、また一緒に前へ進もう」
霧の中で、再び風が吹いた
その風は、どこか優しく―そして力強かった。
次回―
スイの試練に変化が!!!