第12話『魂の檻』
1,対決開始
第三の試練に着くと、
暗闇に浮かぶ、もう一人の“シン”。
その存在は、シンの中に巣食う「恐れ」と「弱さ」の象徴だった。
影のシン:「さぁ来いよ、本当の“お前自身”と向き合え!」
―キィィン!!
漆黒の刀が唸り、シンに斬りかかる。
シンは咄嗟にかわし、自らも刀を構えた。
シン:「……こんな形で、自分と戦うことになるとはな」
影のシン:「そうだ。お前はこれまで、全部“力”で押し切ってきた。感情も、痛みも、恐怖 も!」
激しい剣戟が交差する。
シンは押されながらも、ひとつひとつの斬撃を受け止めていた。
2,心の葛藤
影のシン:「強がってんじゃねぇよ。お前はただ、父の死から目を背けたかっただけだろ?」
シン:「……そうかもしれない。でも、それでも!」
影のシン:「“スイやレイを守る”だと?……お前がそばにいたって、あいつらを失う日が来る かもしれねぇんだぞ?」
シン:「……!」
影のシン:「そんな現実に、どうやって立ち向かう?お前は、それでも進めるのか!?」
―ズガァァン!!
再び刀が激突し、空間に亀裂が走る。
シン:「怖いよ……正直な。でも、それでも……!」
シンは震える手で刀を握り直す。
シン:「それでも俺は、前を向くって決めたんだ!!」
シンの身体から、淡い光が立ち昇る。
ゼルグ:《そうだ...... "恐怖”は、消すもんじゃねぇ。受け入れて、それでも進む。それが“意 志”だ》
3,決意と勝利
影のシン:「なら――見せてみろよ、“本物の意志”ってやつを……!!」
最後の一撃を交わす二人。
だがその瞬間、シンの目に迷いはなかった。
シン:「霊魂+反魔法..........心斬.........!」
光と闇が交錯し、刃がぶつかる。
シンの刀が、影のシンの胸を貫いた―
影のシン:「……フッ。やっと、顔を上げたな」
その声はどこか安らかで、微笑みすら浮かべていた。
影のシン:「じゃあな、“俺”。……お前が進む未来に……少しでも光があるように」 ―影のシンが光に包まれ、ゆっくりと消えていく。
シンの胸の中に、確かに残った感覚があった。
恐れ、怒り、後悔、悲しみ。
それらすべてを自分の一部として、受け入れられたという感覚。
ゼルグ:「……よくやった、シン。お前は自分の“魂の檻”を壊し、次の段階へ進んだ」
シン:「……ああ。だけど、これで終わりじゃない。これは、まだ“始まり”だ」
ゼルグ:「……言えるようになったな」
ゼルグの姿が現れ、そっと歩み寄ってくる。
ゼルグ:「俺は、人として生きてきた頃、“恐れ”を誤魔化して生きてた。それが結局、自分自 身を見失う原因だった。お前は……俺より、ずっと強ぇよ」
シン:「ゼルグ……」
ゼルグ:「力に溺れず、過去に負けず、自分の弱さと向き合って、立ち上がった。お前はもう “ただの少年”じゃねぇ」
ゼルグの掌が、静かにシンの胸に触れる。
ゼルグ:「お前の中に眠る“霊魂魔法”と“反魔法”は、今や一つの意思を持った。それは、お前自身の“意志”だ」
その瞬間、シンの刀がうっすらと光を帯び、魔紋は以前よりも穏やかに輝いていた。 ゼルグは、ふっと目を細めた。
その視線の先―シンの足元には、斬撃の余波によって刻まれた“痕跡”があった。
焦げた地面に浮かぶ、刀の軌道―いや、それは“言葉”のような文字列だった。
ゼルグ:「やっぱり、やりやがったな……! “刻意”の片鱗だ」
シン:「刻意……?」
ゼルグ:「“刻意”。強い意志や感情が、空間や物質に直接刻まれ、現実 をねじ曲げる魔の一種だ。感情の奔流を、そのまま力にする……原始的で、暴走しやすいが、 強烈な魔だ」
シン:「そんなの……俺、知らなかった」
ゼルグ:「普通は知らねぇ。教える奴も、使える奴もいねぇ魔法だ。だけどお前は……“守り たい”って気持ちだけで、現実をねじ伏せた。これはもう、お前だけの魔法だよ」
シンは自分の手を見つめる。
まだ震えていたが、どこか確かな感覚が残っている
―“想い”が、確かに刀を通じて届い た感覚。
シン:「……俺の、魔……?」
ゼルグ:「そうだ。“心で刻め”。それが、お前の新しい力だ」
ゼルグは最後に言う
ゼルグ:「だが、完全に使えるようになったとは言えない。まだ魔印が刻まれてないだろ?」
シンの魔印には、まだ霊魂魔法と反魔法しかない。
シン:「ほんとだ..........」
ゼルグ:「まだまだ、期間はある。それまでに使いこなせるようにしろ」
シン:「わかった……ありがとう、ゼルグ。あんたのおかげで、ここまでこれた」 ゼルグ:「礼はいい。お前が選び、進んだだけのことだ」
ゼルグがゆっくりと背を向ける。
ゼルグ:「試練はここで一区切りだ。ただし―扉を出るのは、三人が揃ってからだ」
シン:「ああ、分かってる。俺だけじゃない。スイも、レイも……みんな、自分の戦いをしてる んだもんな」
ゼルグ:「その通りだ。―次に会う時が楽しみだな」
ゼルグの姿が再び霧の中に溶ける。
シンは、一人その場に静かに座り、深く息を吐いた。
静寂の中、霧の向こうにうっすらと浮かぶ二つの気配。
まだ見ぬ、スイとレイの試練の気配だった。
シン:「……待ってるぞ、二人とも」
次回―
シンは、新たに刻意を取得した。
新たな冒険が幕を開けようとしていた 。