『ダブル』後の社会
「下手したらそうなるね。たまに服薬指導とかで病棟に行くぐらいの俺達が知ってるレベルなんだから、上の人達の耳に入るのも時間の問題だからさ」
「そうですよね。三嶋先輩と僕達みたいな末端にまで噂が回るんですから」
「末端」
「底辺と言った方がよかったですか?」
「……そこまでじゃないだろう……」
「え? じゃあなんですか? 他に底辺が――、俺たち以下の人がいるって言いたいんですか? 先輩ひどいっすねー」
「……はー、もういいわ」
会話をしながらなのでテレビの特集内容は半分も頭に入らなかった。意外にも最後の方は金井も熱心に見ていた。
『ダブル』の発覚経緯。事故・殺人事件現場はもとより、救急車や病院、教会や極まれに葬式会場での混乱。
『ダブル』の原因究明。未だ何も解明の手がかりはないようだが、「異常なレベルの自己修復」と「心臓や脳波の再起動」が起こるという事だけは判明している。
『ダブル』が受け入れらていく過程。噂やデマとしか思えない話がSNS中心に蔓延。その後テレビ局や公的な記録映像でも確認され、芸能人やスポーツ選手など有名人の痛ましい事故で一回目の死と復活が広く認められ、急速に一般的な現象として捉えられていった。
『ダブル』後の社会。法整備も、『ダブル』を前提とした社会構造の変化もほとんど現実に追いつけていない。一回目の死での死亡診断書も下りない。命の数など、誰も調べる事が出来ないので、自己申告や第三者の証言頼みの不確かな社会のまま。法的には死んでおらず大怪我や大病があっただけだと解釈されるなど、グレーゾーンのまま進んでいる。
そもそも何故一度だけ生き返るのか。