二つだったら
「いまだに違和感ありますよねえ」
「そりゃそうだろ。ニュースで散々流れて、身近な人とか患者さんが亡くなってもそのまま生きているってなってようやく実感できたけど……。何かが起きたってきっかけもないし、自分たちの体に変化が起きた様子もないし、見た目は何も変わってないのにさ。本当に世間の人達も良くこれだけの短期間で何となくでも受け入れてるものだと、自分も含めて思うよ」
「完全に命が二つある『ダブル』の前提で社会も皆も動いてますもんね。命の数の測定方法もまだ存在してないのに、雲をつかむような、妄想みたいな話だって言うのに。――知ってます?」
「ん?」
「消防士とかレスキューみたいな命の危険がある職業の志望者が増えてるらしいって」
「ああ、まあそうなるだろうな。もしもの時の保険があるようなもんだからな。でもそういう人達って一回死んだ後はどうするんだ?」
「辞める人は多そうですよね」
「命が一つしかないってなるとしょうがないか。うーん、でもそれって当たり前だったはず。二つになったせいで一つしかない時に過剰に怯えてしまうのか」
「価値観が変化してるってことですかね? そう言えばまた看護師の山本さんがヒートアップしてましたよ」
「なになに。……もしかしてまたアレ?」
「入院患者さんに以前に死んだことありますか? って堂々と聞いてるみたいですよ」