たった二つの命

一度

「というか一回死んだぐらいで葬式もしないですよね」

「まあしないだろうな。最近の傾向で家族葬とかシンプルになってきてるぐらいなのに」

「滅茶苦茶盛大で厳粛な葬儀の中、一度だけ死んだ本人がそれに出席してたら笑えますね」

「まあ……、生前葬とかあるらしいから」

「生前葬って、なんの為にやるんです？」

「それは――、何て言うか突然亡くなったらお別れを言う暇もないし、そうやって亡くなられる事が遠い未来でないと実感するのは無駄ではない、と言ったところかな」

「メメントモリとかいう奴ですか。最近覚えましたよ」

「最近か」

「言葉は聞いたことあったんですけど、意味は知らなかったんで。何て言うか考えさせられますね」

「実際そうだろうな。まだ仕事柄会った人が亡くなるのは珍しくないし考える機会は多いけど、いざ自分や家族の事になると中々な」

「あ、そうそう。伝えといた方が良いかなと思ってる事があるんですけど」

「えっ、なんだ？　何か悪い話か？」

「いえ……、その……、どう言えばいいか」

「妙に言い辛そうだな」

「いや、何て言うか……、……実は一回死んでます」