混乱の中
命の増殖が起きて以来様々なニュースが飛び交い、それに伴って無責任なコメントや根拠のないうわさ話も大量に流れてくる。半年以上この話題で持ちきりであっても、ほとんどの人にとって自分達に直接降りかかる事はないという状況が加速させているのかもしれない。
『推しが死んだことないか、残機を確かめたい人』、『今の政治家ども、一回みんな死んでみたら?』、『リアルにみんな二個命あるの? 私だけ違ったらどうしよー。相談しても死んだら分かるんじゃ、とか言われた』、『ムカついたら一回ぐらい殺してもいいんじゃない?』。
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二か月後、夜、居酒屋。
「俺は生中」
「どうしましょうかね。なんかクラフトビールの品ぞろえも増えたみたいですし」
「珍しいの飲みたがるよな」
「人生は短いんですよ。狭い世界に閉じこもるのは退化するだけです」
「酒の注文で人生について説教されないといけないのか」
「図星だからそうやって感情的になるんですよねー。季節限定のフルーツ系かー。日本酒も新しいの入荷したみたいですね」
「おい店員さん来ちゃったぞ。……ええと、生中で。それと――」
「生中二つで。お願いしまーす」
「いや、迷ってたのは何だったんだ」
「生は定番じゃないですか」
「狭い世界がどうとか」
「鉄板を頼んで何が悪いんです? あれですよ、スティーブジョブズみたいに余計な選択にリソースを使わないのが賢いんです」
「どうせその続きは、時代は変化し続けるから臨機応変に対応しないと、とか何とか言い訳が続くんだろ」
「バレましたか」
「お前に怒ってもリソースの無駄だな」
「パクらないで下さいよ」
「お前もジョブズをパクっただろ」
「それはそれで」