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VS 呪霊

 女の子はオレと同じくらいの歳に見えるな。

 シルバーブルーの髪色で肩に少しかかる程度に短く切り揃えている。

 服装はなんとも奇妙で、一言で言えば魔女だ。

 平たく眠そうな目だけど、目の前の呪霊に対して決して屈していないと感じた。


 退魔師にすらなってないオレの攻撃手段は乏しい。

 討伐なんで出来る身分じゃないけど見捨てるわけにいかない。

 オレは呪霊に対して奇襲を仕掛ける。


 が――呪霊に水砲が勢いよく激突した。


「ウォーター」


 水砲を放ったのは女の子だ。

 呪霊はど真ん中に水をぶち当てられて吹っ飛びかける、が。


「逆らウなんテ悪イ子ネェ! おしおきヨォォ!」


 呪霊が片手を振りかぶって女の子にぶち当てようとした。

 だけどそこで呪霊がガクンと下がる。


「キャッ!?」


 呪霊が見た目に似つかわしくない声を上げた。

 その巨体の足元の岩盤が崩れて後方の坂へとずり落ちていく。

 あいつ、生前は女だったのか?

 それよりなんだってあんなところの地面が?


「ご主人ちゃま! 呪霊やっつけるです!?」

「……まさかワコが?」


 座敷童は住む家に幸運をもたらすというけど、今はあの女の子に味方してくれたってことか?

 いずれにせよチャンスだ。

 あの女の子はすでに体中が傷だらけで血が出ている。


「ナニヨぉ!」


 呪霊が坂を駆けあがってくる。


「ぶっ飛べッ!」


 オレが叫ぶと呪霊が何かに激突されたかのようにオレの真正面から吹っ飛ぶ。

 呪霊の巨体で木々が破壊されていった。


「そこの君、オレが協力する」

「……誰?」


 自己紹介するべきだけどそんな暇はない。

 呪霊が巨体をゆっくりと起こしてよろめきながらもオレを見据えた。

 恐ろしい相手のはずなのにオレは不思議と恐怖を感じない。


 それどころかむしろなんでこいつがオレに向かってくるのか?

 オレの立場で言えたものじゃないが、オレには無謀としか思えなかった。

 なんでそう思えるのか、自分でもわからない。


「アラァ……お友達ナのォ……ダメでショ……こんな子と付き合ッタラぁ!」


 呪霊が相変わらず訳の分からないことを喚き散らして突進してきた。

 オレは冷静に呪霊を視界に収めて、体の一点に目をつける。

 呪霊にそんなものがあるのかはわからないが心臓だ。


「貫けッ!」


 オレの叫びに呼応して紫色の一本槍が電撃のように音を立てて放たれる。

 紫槍が呪霊の心臓部分を貫くと同時にまたも勢いよく後退させた。


「……すごい」


 女の子がポツリと呟いた。

 オレは女の子に背を向けたまま呪霊を待ち構える。

 まさかあの程度で終わりじゃないよな?


 せっかく初めて呪霊と出会えたんだ。

 簡単に終わってくれるなよ。


「オ、お前ハ、私ノ、言う通りニィ……していれバ……イイノヨォ!」

「更に貫けッ! 何度も貫けッ!」


 今度は呪霊の体に紫槍が一瞬で突き刺さった。

 紫槍が瞬間移動したかのような現象だ。

 それがドスッドスッドスッと複数回に渡って呪霊に刺さる。


「ウギャァッ! ゲッ! ガハァッ!」

「貫け」

「グギァッ!」

「貫け」

「ガギガガッ……!」


 刺さるごとに呪霊は体を大きく揺らした。

 天へと片手を伸ばして、その姿はまるで地獄に垂らされた蜘蛛糸を掴もうとする亡者みたいだ。

 だけど呪霊は力なく膝をついてその場から動かなくなる。


「ナン、デ、ワタシ、ガァ……」

「お前に救いなんかない」


 自分でも驚くほど冷酷な発言だった。

 父さんから呪霊は人間の負の感情、即ち人に仇成す感情から生まれたものと聞かされている。

 つまり早い話が悪人の死後ほど強力な呪霊が発生しやすくなるというわけだ。


 もちろん例外もあるけど呪霊に情けなんかいらない。

 元は人間だから、とか無駄な感傷だ。

 そこにいる呪霊は悪だからこそ生まれた討つべき敵でしかない。


「真っ二つに裂けろ」


 オレが口に出すと呪霊の頭から血が飛び出る。

 それはドス黒くてタールのような血だ。


「ギャアァァァッ……ア¨ッ……!」


 頭に入った切れ込みが体の中心にまで届いて呪霊の体を二つに分けた。

 分かれた二つの体が地面に転がった後で黒い煙と共に消滅していく。

 数秒ほど経ったところで呪霊の体はこの世から完全に消滅していた。


 これがオレの退魔術ですらない言霊だ。

 言葉には力が宿っているというが、それは霊力か呪力が乗っているからだ。

 何かを応援する時には霊力が乗ってそれが時として誰かの力になっていい結果を出す。

 逆に誰かを貶す時には呪力が乗って不幸をもたらす。


 人間の体に呪力は宿っていないけど、負の感情から発せられた言葉にはわずかにそれが宿る。

 これには諸説あるけどおそらく霊力が呪力に変換されているせいではないかと言われていた。

 生物の死後に霊力が呪力に変換されるなら十分あり得る話だ。


 オレは言葉に妖力を乗せて攻撃した。

 呪力の性質を持つ妖力は呪力以上に強力で敵にとっては性質が悪い。

 呪力で敵を傷つけて、霊力がオレの力を後押しする。

 オレにバフをかけて敵にデバフをかけつつ攻撃するイメージだ。

 ただしこれは陰陽術の基礎でしかなくてまだまだ研究の余地がある。


「ご主人ちゃま! しゅごいのです! ばんざいなのです!」

「お前がいてくれたおかげだよ。ワコ、ありがとう」

「わ、ワコのおかげなのです!? ワコ、偉いのです?」

「偉い偉い」

「わーーい! ワコ偉いのですー! ご主人ちゃまに褒められたのですー!」


 オレがワコを褒めるとぴょんぴょんと飛んで喜びをアピールする。

 なんだか無邪気でかわいいな。

 といってもオレもまだ五歳なんだけどさ。


「それにしても聞いてはいたけど、呪霊でも血は出るんだなぁ」


 当たり前だけど呪霊は生物じゃない。

 ただしナイフなどの一般的な物理手段じゃ傷一つつけられないのだから性質が悪い。


 そこで退魔師の出番だ。

 そんな状態なものだから退魔師の月収はとんでもないと聞いた。

 父さんの全盛期の月収が気になるところだ。


「あ、そうだ。君、大丈夫?」

「うん」

「立てる?」

「うん」


 女の子が立ち上がったものの少しよろめく。

 オレが慌てて手を取って肩を押さえた。


「危ない危ない」

「……手」

「え? なに?」


 女の子がオレの手を両手で触ってきた。

 指で何度もさすってきて少しくすぐったい。

 それから突然ググッと顔を近づけてくる。


「な、なにするの?」

「んー」


 女の子がオレの胸元や腕、足なんかを触ってくる。

 今時の女の子ってここまでボディタッチをしてくるもの?

 くすぐったくてたまらない。


「結婚してもいい」

「え、え? えっ?」

「許嫁になってもいい」

「なんで!?」


 女の子がとんでもないことを言い始めた。

 初対面の相手に求婚された経験なんてないからこの後どう返していいのかわからない。

 そんなオレと女の子の間にワコがグッと割って入ってきた。


「ご主人ちゃま、結婚するです?」

「しないよ!?」

「祝福するです! ぱーんぱーかぱーん! ぱーんぱーかぱーん!」

「だからしないって!」


 ワコがノリノリで結婚式の時にかかる曲を口ずさんだ。

 なんでそういう知識だけはあるんだ?

 女の子は眠そうな目でずっと見てくるし手は握られたままだし、どうする?


「お嬢様ー!」


 その時、遠くから女性の声が聞こえた。

 走ってやってきたのは紫髪をポニーテールでまとめたいかにも真面目そうな女性だ。

 体に密着するような黒服を着ていて背が高い。

 女性は一息ついてからメガネをくいっと上げる。


「こ、この怪我はどうされたのですか!?」

「ぷーい」

「ぷーいではありません! すぐに手当てをします!」

「ぷーい」

 

 女の子が女性に対して子どもらしい反抗をしていた。

 オレは成り行きを見守っていたけど女性がオレに気づく。


「それとこの子はどこの子ですか?」

「お婿さん」

「は?」


 おい、何をほざいているんだ。

 そりゃ、口も半開きになるよ。

 そんな女性をよそに女の子がオレに抱き着いてきた。

面白そうと思っていただけたら

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