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流れゆく日常

「陽夜さん、玄武會が解体されるという話を聞きました?」


 真黒(まくろ)との戦いから一ヶ月後、オレはなんとか平穏な日々に戻ることができた。

 あの戦いの後、オレは半月も眠り続けていたというのだから怖い。

 オレの周りにはお見舞いの果物とか花が大量に置かれていて、出棺でもするのかといった雰囲気だった。

 特に父さんと母さんはずっと付きっきりで手を握ってくれていたらしい。


華恋(かれん)、それ本当?」

「えぇ、クラスでも大騒ぎですわ。玄武會の上層部が何者かによって殺害されていたのだから、恐ろしいことですわ」

「何者かに?」


 少しだけ考えたが、オレは真黒(まくろ)だと思う。

 あいつは玄武會の傘下の奴らを殺した。

 それはきっとあいつの中で傘下の奴らが特別じゃなかったからだろう。


 それから華恋(かれん)の話では玄武會が解体された後、後処理が大変だったそうだ。

 残った退魔師はそれぞれ朱雀會、白虎會、青龍會が引き取ったとのこと。

 あの阿豪(あごう)は青龍會の閻那(えんな)さんが面倒を見るというのだから、どうなることやら。


「思ったより大きな事件に発展したんだなぁ」

「ヨーヤ」

「わっ!」


 リーエルが後ろから抱き着いてきた。

 今は登校中、このままホールドされてどう歩けと?


「リーエル、おはよう」

「ヨーヤ、溜まってる」

「何が?」

「これ」

「いぎゃあぁっ!?」


 リーエルのハグがこの上なく痛い。

 何が溜まってるんだよ。パワーか?


「痛い痛い痛い! 一応、病み上がりなんだからさ!」

「そうですわ! リーエルさん! 本当にあなたはデリカシーの欠片もありませんのね!」


 リーエルが華恋(かれん)によって引き剥がされた。

 あのリーエルのホールドを解除するとは、華恋(かれん)も成長したな。


「ぷー!」

「ぷーじゃありませんことよ! 抜け駆けは絶対に許しませんわ!」

「じゃあ華恋(かれん)も一緒にやる?」

「やるわけありませんことのよ!」


 動揺しすぎて日本語がよくわからんことになってる。

 朝っぱらから騒がしいなと思ったら、更に騒がしくなりそうなのが見えた。

 あれは鬼姫(きき)とヒリカだ。


「よーやぁぁーーーー!」

「二度もくらうかっ!」


 オレは鬼姫(きき)のタックルを全力回避した。

 ところが鬼姫(きき)はトップスピードを維持したままターンしてくる。


「おはぁーーよーーっ!」

「危ないっ!」

「きゃんっ!」


 オレは鬼姫(きき)に足払いをかけてなんとか転ばせた。

 歩道に顔面から落ちたけど大丈夫か?

 とか思っていたら、ガバッと起き上がった。


「うむー! よーやは恥ずかしがりだねぇ!」

「なんでオレの周りにいる女子は抱き着き率高いんだよ……」


 その点、ヒリカは冷静だ。

 冷静に肩を抱き寄せてくる。おい。


「まったくだな。こうガツガツと肉食魚のように食いつく輩ばかりでは陽夜も困るだろう」

「リーエルや鬼姫(きき)が動だとしたら、君は静だよ。つまり同類だ」

「君は将来の婿なのだから、今からこのくらいのスキンシップをとるのは当たり前だろう?」

「まったくもって決定事項じゃないからね」


 結局、まともなのは華恋(かれん)だけというのもどうなのか。

 こっちは手を繋ぐだけで満足しているというのに。


「本当に朝から騒がしい登校ですこと。ね、陽夜さん。わたくし達は清く健全なお付き合いをしましょ」

「そ、そうだね」


 このお付き合いというのも、なんか意味深だけどな。

 あくまで友達としてって意味だよな。


「来たか!」


 ようやく学園が見えてきたというところで、誰かが立ちはだかっていた。

 獣の被り物をした人と腰簔一枚でどこかの部族のような姿をした人。

 これで退魔師じゃなかったらただの不審者だから、たぶん退魔師だと思う。


「どちら様?」

「オレ様は白虎會の傘下、弁火流(ベンガル)會の會長! ジアガ!」

「我、ドギ。炎龍會、會長。青龍會の傘下」


 どうしよう。たかが登校するだけで、とんでもない人達に絡まれつつある。

 玄武會の件もあってどうも警戒してしまう。


「な、なんですの。この方々……」

「陽夜! 我らが白虎會の會長はお前をいたく気に入っている! つまり我らの勢力に加わるのだ! な! 簡単だろ?」

「陽夜さん! い、いきましょ! 付き合いきれませんわ!」


 華恋(かれん)と同意見だ。

 なんで朝っぱらから意味不明な勧誘を受けないといけないんだ。

 というか小学生の登校ルートを把握して待ち伏せするって、普通に事案だろ。

 この辺りに子どもを狙う不審者が出るって不和利先生に言いつけてやろう。


「白虎會は知らないけど、青龍會の傘下がいるってことは閻那(えんな)さんがオレを欲しがってるってこと?」

「否、我、独断。青龍會、光必要」

「カタコトでよくわからないけど、勝手に動いてるってことね。はぁ……アホらし」


 オレは一瞬で二人の背後に回って、歩き進めた。

 少し遅れて二人が振り向く。


「速いな!」

「想定外」

「オレ、一応未成年だからさ。そういう話がしたいなら、父さんと母さんに言ってよ」


 オレはあくびをしながら学校へ向かう。

 二人が身構えるような気配をしたけど、すぐにいくつかの高い霊力を感じた。

 これはリーエル達だな。


「おぉん! こりゃとんでもねぇな!」

「想定外、否。行動、遂行」


 振り向くとリーエル達が霊力を解放していた。

 いや、そこまでやる必要はなくない?


「邪魔」

「遊びのお誘いにしては品のないことですわ」

「下らん連中だ。陽夜を誘いたいのならば、まずは順序というものがある」

鬼姫(きき)達をいかせてみろー!」


 こうして四人が本気を出すとなかなか壮観だな。

 あの會長達がタジタジだ。

 さては子どもだと思って甘く見ていたな?


「こりゃお誘いするのも簡単じゃねえな!」

「肯定。行動、遂行」

「あら、何が簡単じゃないのかしら?」


 などと言っている二人の後ろからなんかやばい二人が現れた。

 父さんと母さんが地獄の最下層から這い出てきた鬼みたいな顔をして向かってくる。

 病み上がりで心配だったからついてきたんだよね、たぶん。


「げげぇ! そ、宗司! 五大退魔師の!」

「想定外」


 二人がズリズリと後退しているのに対して、両親がどんどん距離を詰めてくる。

 オレも少し怖くなってきた。


「私のかわいすぎて考えるだけで気絶しそうな陽夜に用があるなら、話を聞こうか」

「まさか勧誘なんてことはしてないでしょうけど……話だけでも聞くわ」


 無理だ。この二人に気圧されたまま話を続けるのはリスクしかない。


「そういうのは後日な!」

「退散」


 顔を見合わせた二人の會長は一目散に逃げだした。

 これでうるさいのがいなくなって安心、だと思ったんだけど。


「待て! 話を聞こうかと言ってるのだぞ!」

「そうよ! 陽夜に何をしようとしたのぉぉーーー!」


 めっちゃ全力疾走して追いかけ始めたんだけど!?

 もう二人の會長が地獄から逃げ出してきた亡者にしか見えない。

 両親はそれを追いかける鬼そのものだ。


「……なんというか陽夜の両親はたくましいな。少し羨ましくなった」

「ヒリカの父さんがあんなのじゃないなら、それはそれで幸せだと思うよ」


 オレは呆れつつ、今度こそ学園に向かった。

 それから更に聞いた話だと朱雀會、青龍會、白虎會がそれぞれ神の子争奪戦を始めているらしい。

 つまり玄武會のメンバーを取り込んだのも、少しでも勢力強化する狙いがあったわけだ。


(はぁ……頼むから学園生活を送らせてくれよ)


 オレは心からそう願った。

 だけどこれも特異な力を持って生まれた人間の宿命だと思う。

 あの真黒(まくろ)だってオレほどじゃないにしろ、似たような悩みを持っていたんじゃないか?

 だからこそ、オレはあんな風にはならないと誓う。


 だってオレの周りには素晴らしい友達と大人がいるんだから。

 オレが何か間違えばきっと正してくれる。

 それだけで幸せだ。


「はい! おはようございます! 今日も楽しくお勉強しましょうねぇ!」

「はーい!」


 朝のホームルームにて、オレ達は元気に返事をした。

 さぁ、今日も楽しい学園生活がやってくる。

ご愛読ありがとうございました!

これにて完結となります!


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