真の黒い退魔師 4
「か、体の震えが……う、うぉ……」
真黒が呪いでやられて、もう立つことすら困難みたいだ。
それでも霊力を練り上げて抵抗を試みる。
「真黒、終わりだ」
オレがそう告げると真黒の体から黒い何かが漏れ出た。
これはまさか呪力か?
「ふ、ふはは……クソッ、負けて、負けてたまるか……オレは特別なんだ……神だろうと……なんだろうと……」
真黒がドス黒い呪力に包まれて、ゆらりと立ち上がった。
体を大きく痙攣させたその姿はいつか見た久里間と瓜二つだ。
高まった呪力は身の程を超えた力を引き出す。
「伍神……陽夜……」
真黒の腕が更に増えて、足の数も四つ。
肥大化した全身は数倍以上で口元は竜のように突出して、唯一原形をとどめているのは頭髪のみだ。
巨大な竜人間のような風貌と化した真黒は大きく咆哮を上げる。
「神は……お前じゃねぇ……この世で特別なのはただ一人……オレだ……! グゲゲゲゲゲッ!」
こいつ、呪いすら取り込んで極限まで自分を呪いやがった。
こうなったらもう呪霊と変わらない。
普段、人は霊力のみを保有しているけど何らかのきっかけで呪力が生まれることがある。
それが高ぶると久里間や真黒のようにあちら側に行ってしまう。
そう、こいつらはもう属性的には死者だ。
呪いを取り込んで克服したということは、それはもう呪いと同質だから。
「伍神陽夜! どうだ! オレは妖力……神の力をも超えた! グゲッ! 死ねぇぇぇーーーー!」
真黒は巨大化した拳を放ってきた。
大地をぶち抜くほどの威力だけど、間もなく停止する。
真黒の口から黒い血がツツツーッと垂れた。
「ごぶっ……!」
真黒がよろめいて大きな音を立てて片膝をつく。
そしてブシュブシュと体中から呪力が霧のように吹き出た。
「な、なんで、だぁ……」
「お前ごときが神に抗うなんておこがましいってことだ。いくら取り繕ったって妖力には勝てない」
「ク、クソ、クソォ……。オレは……気づきを得たってのに……凡人、ども、がァ……」
真黒から噴き出した呪力はオレがしっかりと吸い取ってやった。
父さんの解呪に成功した時と同じ要領だ。
やがて人の姿になったまま倒れている真黒だけが取り残された。
「あ、あっ、あげっ……」
痙攣する真黒をオレは見下ろした。
もうこいつの体には何も残っていない。
霊力も呪力も何もなくなったこいつは、ただの一般人と変わらない。
なんでこんなことになったのか、今のオレには詳しい解説はできない。
ただ一つ、立てられる予想としては神の力と言われている妖力には誰も勝てないってことかな。
真黒のこれは、神に逆らった罰なのかもしれない。
「陽夜!」
「陽夜君! やっと見つけたぞ!」
走ってきたのは父さんと学園長だ。
父さんは真っ先にオレを抱きしめて、学園長は周囲をうかがいつつ真黒を視界に入れた。
「陽夜、心配したんだぞ。とてつもない何かを感じたから来てみれば……」
「宗司、これは真黒だ」
学園長が真黒と呼んだそれは、もうほとんど人の形を成していなかった。
黒ずんだスライムのように溶けて、その名の通り真っ黒い暗黒物質のようだ。
「真黒……お前、何を……」
「神だ……神は、いたんだ……」
「なんだと?」
「宗司ィ……オレァ、気づいた……神ってのは、いたんだ……。オレァ、やった気づけた……」
父さんと学園長は旧友の変貌ぶりに言葉が出ないみたいだ。
真黒は溶けかかった指で点を指す。
「お前らぁもぉ……知っとけよぉ……宗司ィ、お前の子は……神の……生まれ変わり、だ……。妖力……それは……人が古来から恐れた……」
「真黒、何がお前を変えた。何がそうさせた」
「オレァ……学生時代……人のためにぃ……戦った……けどなぁ、バカどもは……ありがとうとか……抜かすだけ……。そしてまた……助けを求める……その繰り返しだぁ……」
つまり幼い頃から天才とか言われた故に、真黒は自分という存在に疑問を持った。
自分はこのままでいいのかと。
「自分じゃ何もできねぇ……ザコどもがよぉ……何の、努力もしねぇで……そこで、気づいた……実はオレは神か何かで……こいつらを見下ろす存在だって、よぉ……。だったら……神様の思い通り……オレが……人間を好きにしていい……」
「……お前の変化に気づけず、暴走を止められなかったことを今ほど悔やんだことはない。お前がそこまで愚かだったとはな」
「そう、だ……オレも……お前も、な……。そこの……神の子の前じゃ……オレもお前も……威蔵も……しょせんは、人でしかねぇ……クハ、クハハハ……」
「真黒、こんなことしかしてやれなくてすまない」
父さんが片手に刀を出現させて、そして振り下ろした。
真黒が真っ二つになって、散り散りになっていく。
「チ、クショ、容赦、ねェ……ナァ……」
真黒が捨てセリフを残して完全に消滅した。
「呪霊の話に耳を傾けるな。お前も知っていたはずだ」
父さんが刀を消してから背中を向けた。
オレはあえてその顔を見ようとしない。
なぜなら父さんの肩が震えていたから。
「陽夜君、二人を解放したよ」
学園長の横にはヒリカと華恋がいた。
よかった、二人はちゃんと無事だったか。
「二人とも、怪我は……」
「陽夜、お前はなんともないのか?」
「どういうこと?」
「いや……なんでもない。救ってもらって感謝する」
ヒリカが訝しんで、華恋がオレの手を握った。
「陽夜さん、すぐに病院に行きましょう」
「え、だからどういう……」
華恋の言葉を境にオレは急に立っていられなくなった。
ふらりと倒れる寸前、支えてくれたのは父さんだ。
「陽夜! 陽夜!」
そうか、たぶん妖力を使いすぎたってやつだな。
それだけあの真黒が恐ろしい相手だったってことか。
そしてオレ自身も未熟であり、あいつはオレの生き写しだ。
(オレも下手すれば真黒みたいになってしまう)
オレだって身に余るほどの強大な力と素質を持った人間だ。
人は神じゃない。特別でも何でもない。
だから思い上がるし、道を間違う。
「陽夜!」
「……さん! ……!」
オレを呼ぶ二人のクラスメイト、そしてリーエル、鬼姫。空呂。
その他、たくさんのクラスメイト達。両親。不和利先生、学園長。
皆がいてくれたら、オレはたぶん何も間違わない。
時には叱ってくれて、こうして心配してくれるんだから。
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