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真の黒い退魔師 3

「なるほど、神の子とくりゃ得体も知れんわなぁ」


 真黒(まくろ)が覇霊剣を振るうと地面から何かが走った。

 衝撃波のようなものがオレに直撃する寸前だったけど、土をまき散らして消えてしまう。


「……はぁ? ふざけんなよ、意味わかんねーよ。ん? また草が……」


 衝撃波でえぐられた地面から緑が広がった。

 まるで何年も経った後の苔むした地面のように、真黒(まくろ)の攻撃すら遠い過去のものとしているかのようだ。


「……お前、まさか本当に神の子じゃねえよな?」

「神の子だよ」

「は?」

「お前達で言うところの神だ」


 あえて濁すことで真黒(まくろ)の動揺を誘った。

 普段ならこんなことは絶対に言わないけど、あいつを極限まで揺さぶる必要がある。

 今、真黒(まくろ)が抱いているのは大昔の人間が感じていたものに近いだろうから。


「おぼっちゃん、いきなり調子こいてどうした? 話を聞こうか?」


 得体の知れない存在を前にした人はそれを神だとか災いなんて呼ぶ。

 強がっている真黒(まくろ)も内心ではそれに近いものを感じているだろう。

 なぜかそれが手に取るようにわかる。


「お前、オレが特別だとか言ったよな。そうだよ、オレは特別なんだよ」

「そっかぁ。特別かぁ。そりゃ嬉しい。じゃあ改めてオレと共に行こうか」


 真黒(まくろ)が懲りずに手を差し伸べてきた。


「その妖力とかいうのも、めちゃくちゃ興味深い。霊力でも呪力でもない妖力……あぁ~~、そそるぜぇ~~~」


 真黒(まくろ)が酒にでも酔っているかのようにのぼせ上っている。

 どういう教育を受けたらこんな人間が育つんだろうな。

 親の顔が見たいもんだ。


「この世で愚かなのは自分を特別だと認識できない奴だ。だけどもっとも救いようがないのは特別ですらない奴だ。陽夜、オレ達が立つステージはここじゃない」


 真黒(まくろ)が霊力を発散した。

 妖力によって変化したこの場を搔き乱すかのような霊力、こいつは決してオレを認めたわけじゃない。

 あくまで自分が上というスタンスは変わっていないのがよくわかる。


「お前はどこにも立てないよ、真黒(まくろ)


 オレが印を結ぶと、今度は天に雷雲が形成される。

 真黒(まくろ)の周囲に耳をつんざくような音を立てて雷が落ちた。


「ほぉ! 天候まで操れるのか! 神様ってのもまんざらでもねぇわな!」


 なんてベラベラと喋っていた真黒(まくろ)に雷が落ちた。

 ところがさっきのゴムシールドがひどい匂いを放っているだけで、真黒(まくろ)は無傷だ。


「だけどなぁ、陽夜。神様がいくら特別でも、一番怖いのはオレ達人間だと思うんだよ。だってそうだろ? 大昔から何一つ進歩してない神と比べて、オレ達は進化する。こんな風にな」


 真黒(まくろ)の体が変質して、背中から腕が数本。

 その手にはそれぞれありとあらゆる武器が握られている。

 その武器に雷が落ちて、バチバチと帯電し始めた。


「これ、お前の父親の退魔術な。クソだせぇけど、マジで強いんだわ。あれ? もしかして初めて見た?」

「……お前、他人の退魔術を模倣できるのか?」

「人聞きの悪いことを言わないでくれよ。模倣じゃなくて進化だ。試してみるか?」


 真黒(まくろ)の周囲が何かに守られた。

 いや、それは守られたというより真黒(まくろ)が自ら武器を高速で振るって守っている。

 超高速の斬撃シールドによって攻防一体を実現したのか。


「お前の父親の退魔術よりも進化してんだ。更にこんなこともできる」


 真黒(まくろ)の体が炎に変質して、それは学園長の退魔術に酷似していた。

 熱気を全身で受けて、呼吸をするたびに鼻や喉の奥が熱い。

 更に斬撃シールドが炎をまとって、真黒(まくろ)は炎の竜巻でも身にまとっているかのようだ。


「なぁ、陽夜。お前は少なくとも父親と威蔵の二人を相手にしなくちゃいけない。いや……あいつら以上に強い」


 見えないけど、真黒(まくろ)のドヤ顔は容易に想像できる。

 これは思ってたよりやばい退魔術かもしれないな。


「オレの退魔術、リサーチ・リメイク(自動生成退魔術)は日本中の退魔術の情報を元にカスタマイズできる。これぞ時代の最先端ってやつだな。なぁ神様、いつまでも古臭い力に拘ってて大丈夫か?」


 真黒(まくろ)は更に人形を召喚してずらりと並べた。

 あれはたぶん不和利先生の退魔術だな。

 オレが言えたことじゃないけど、もうなんでもありか。


「陽夜! 一人で戦うな! 私が知る限り、そいつの退魔術は最強だ!」

「そうですわ! おそらく五大退魔師以上ですのよ!」


 二人の助言に対してオレは手をあげて応えた。

 ありがたいけど、ここまでされてもオレはこいつを怖いと思えない。


「かわいらしいお友達もああ言ってんだ。このままオレが前進するだけでお前は死ぬ。さぁ、さぁ、さぁ、さぁさぁさぁどうする?」


 真黒(まくろ)がズンズンとこちらに向かってくるが、進むごとに体から熱が抜けていっている。

 急速冷凍されるがごとく、周囲の温度と共に下がっていった。


「あ? なんで?」


 真黒(まくろ)が訝しんだところで、今度は武器が錆だらけになっていく。

 ボロリと刃先が落ちて、みるみるうちに使い物にならなくなっていった。


「おいおい、おいおいおいおい! バカかよ!」

真黒(まくろ)、お前はもう逃げられない」


 まるで霊力を剥ぎ取られたかのように、真黒(まくろ)は丸腰に近い状態になっている。

 人形達も動きを止めて、その場にぱたりと倒れて動かなくなった。


「どうなってやがんだかなぁ……! あ? なんだ、急に、頭が……いてぇ……寒気が……」

「人は古来からわからないものに対して、こう呼んだ。呪い、災いだってな」

「まさか、お前……」

「妖力は霊力の他に呪力の性質も併せ持つ。真黒(まくろ)、お前は呪われた」


 真黒(まくろ)が脂汗を流しながら顔を赤くして立ち眩みを起こしている。

 原因不明の病に対して、人はひたすら祈った。

 ある時代のある場所では生贄を差し出した。


 それは人の認知を超えた力であり、抗うことができない絶対不変の神の力。

 またの名を妖力という。


「こんな、こんな意味不明で理不尽な力が、あって、あってたまるかよぉ……! リサーチ・リメイク(自動生成退魔術)! 伍神陽夜の倒し方に関するデータを引き出せッ!」


【伍神陽夜を倒す方法は二つあります。まずは彼と近しい人物を人質に取ります。

伍神陽夜は幼いながらも卓越した力を持ちますが、精神面はその限りではありません。

両親が望ましいですが、拘束は極めて困難でしょう。

伍神陽夜が親しくしているリーエル・エーテルハイト、狩代ヒリカ、鬼ヶ島鬼姫(きき)辺りが理想です】


 なんだ、これ? 誰の声だ?

 退魔術ってこんなこともできるのか?

 だとしたら真黒(まくろ)は本当に天才なんだな。

 ところでその方法はすでに取っているよな。


「もう一つだ!」


【伍神陽夜の保護者と親しくなれば隙も生まれるでしょう。時間をかけて信頼関係を築いた後は油断を誘って不意打ちすることで更に成功率は上がります】


「伍神陽夜の退魔術の攻略法だっつってんだろ!」


【伍神陽夜は退魔術を使用しません】


「あぁ!? あー! そうか! 伍神陽夜の妖術の攻略法だ!」


 真黒(まくろ)が唾を飛ばしながら叫んだ。

 妖術の攻略法か。オレも気になるところだ。


【妖術に関する情報がありません】


「なんだ、と……?」


 真黒(まくろ)が愕然としている姿は見ていて清々しいな。

 散々余裕ぶっこいておちょくってくれたわけだからな。

 こいつはもう逃がさない。オレのすべてをかけて潰す。

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