真の黒い退魔師 2
「覇霊剣」
真黒が二刀の剣を持って腰を深く落とす。
それに合わせてオレは金剛盾を生成、間もなく真黒の剣が激しく激突した。
「およ? なんだこりゃ? なんで斬れねえんだよ?」
「金剛突貫ッ!」
金剛盾が前進して真黒が体を打ちつけた。
態勢を崩しそうになりながらも、剣を地面に突き立てて堪える。
「いってぇな……意外と器用だな。ていうか、なんで切れねぇ? これは霊力を無効化する剣のはずなんだがな」
「知らねぇよ。火の印、狐火」
真黒の周りに浮かんだ複数の火の玉が一斉に集中砲火した。
対象を燃やし尽くすまで消えない業火が火柱を立てる。
が、何か様子がおかしい。
「陽夜! 後ろだ!」
ヒリカが叫んだと同時に背後から剣が突き出た。
肩をかすってしまったものの、おかげで回避成功だ。
剣が地面から伸びていて、それが少しずつ地上にズブズブと姿を現していく。
「おっしぃなぁ。あのガキさえいなけりゃ決まってたのによ……。ま、いいハンデか」
「お前の退魔術はいくつあるんだよ」
「さぁ? 数えたことねーからわかんね。あ、もしかして気になるか? 教えてやろうか?」
「いや、どうせ負ける奴の退魔術とかどうでもいい」
実は気になるけど、こいつを持ち上げてやる必要はない。
それにしても真黒の言う通り、ヒリカが教えてくれなかったら危なかったな。
霊力感知は怠らなかったはずだが、こいつはあっさりとすり抜けた。
そして地面から姿を現したのも退魔術、本当にこいつは何なんだ?
敵の手の内がわからないのが、こんなにも面倒だとは。
「なぁ、陽夜君。少し話をしないか? たぶんオレ達には誤解があるんだよ」
「二人を人質に取って何の誤解があるんだよ」
「こんな手を取るにも理由があるんだよ。お前はこっち側、つまり特別なんだよ。お前がその気になれば、その辺の奴なんか瞬殺できる。考えてもみろ、ここまでくると生物としてのスペックが違いすぎるだろ?」
「だからなんだよ」
オレは妖力を研ぎ澄ませた。
もっと冷静に、もっと深く妖力の底力を引き出す必要がある。
少なくともオレが知る範囲で戦っているうちは、こいつには勝てない。
「例えるなら猛獣が人間社会で暮らしているようなもんだ。圧倒的に強い猛獣は人間社会じゃ特別だ。世間って奴はそんな猛獣を排除しようとするが、オレからすれば逆だ。人間が猛獣に平伏するんだよ。バカらしいだろ? なんで特別な奴が何も持たない奴らに合わせて生活しなきゃいけない? なんで守らなきゃいけない?」
「なんだ、ただの優生思想の拗らせかよ」
「どいつもこいつも特別というものに対して軽視しすぎているんだよ、お前も他の奴らもな。オレは学生時代でそれに気づけたからよかった。だからお前もまだ間に合う」
「何がだよ」
真黒が手を差し伸べてきた。
こいつ、なにしているんだ?
「本当は段取りを整えてから、これを言うつもりだったんだがな。オレと共にこい。退魔師協会もこの世界の凡人も置き去りにして、幸せに暮らそうぜ」
オレは耳の穴に指を入れてほじくった。
この歳で耳が悪くなったとは思いたくないけど、どうも聞こえがよくない。
あいつが何の話をしてるのか、まるで理解できないんだからな。
「お前の父親と威蔵……あぁ、学園長な。こいつらは大好きだった。オレに勝るとも劣らない特別な奴らだからな。だが奴らはオレと道を違えた。せっかくクソの役にも立ってない退魔師どもを皆殺しにしてやったのによ……なぁ、ひどいと思わないか?」
「オレの父さんと学園長が特別……?」
「お前の父親はそりゃ強かったぜ。少なくともあいつに近接戦で勝てる奴はなかなかいねぇだろうな。威蔵も理屈抜きのチート退魔術だしよ」
「確かに特別かもしれないな」
「お?」
真黒が少し上機嫌な素振りを見せる。
何か勘違いしているけど、オレは続けることにした。
「父さんと母さんはオレをちゃんと育ててくれた。着る服や食事も与えてくれた。退魔師になる夢を応援してくれた。学園長は厳しいけど、ちゃんと叱ってくれた。これって当たり前のようで当たり前じゃないんだ」
オレは更に妖力の深淵に潜り込む。
あの真黒を倒すには、殺すなんて生易しい方法じゃダメだ。
妖力の可能性を最大限に引き出した上で、ある意味で殺す。
「そう、当たり前じゃないんだよ。だって親が必ずしも優しいとは限らないからな。そういう意味では父さんと母さんは特別だよ。でもな、真黒……それでも二人は普通の人間だ。お前が思ってるような特別さはない」
「優しいパパとママだから普通だってか? おいおい、オレの話を理解してんのか? テストで何点とれてる?」
「ほとんど100点満点だよ。お前と違ってな」
こいつの下らない話のおかげで、この短時間でオレは妖力の深淵を探ることができた。
おかげで体の芯まで妖力で満ちて、目の前の真黒を見ても何も感じない。
まるでオレ自身が別の何かに変わったかのように思える。
「オレも100点以外はとったことないんだがなぁ。しゃあねぇな、予定通りお前を痛めつけてからそこのガキを殺すか。そのほうが手っ取り早いだろ」
「聞いてほしくてしょうがなさそうだから聞いてやるけど、何がだ?」
「玄武會のアホどもをそそのかして、お前を徹底して追い詰めたかったのよ。そして仕上げにお前の目の前でガキ二人を殺す。お前は絶望して心が折れる。そうすりゃ闇落ちしてお前は世界の敵になる。な? 完璧だろ?」
「……お前の命もなくなるけど?」
あふれ出た妖力を握りしめると、手から煙のようにぼわりと漏れた。
「それはねぇよ。お前はオレには勝てねぇし、ちゃんと面倒を見てやる。なーに、不自由はさせねぇからよ。欲しいもんはちゃんと買ってやるし、女だって与えてやる。いや、女はまだ早いか?」
なんで玄武會が傘下の奴らを使ってオレを生け捕りみたいなことしたかったのか、ようやくわかった。
玄武會と真黒は繋がっている。
玄武會は神の子を排除できればいいわけだし、真黒はオレを追い詰めて絶望させればそれでいい。
玄武會の傘下の奴らがオレを生け捕りにする主旨の発言をしていたのもそうだ。
きっと真黒が玄武會に指示を出したんだろう。
オレを排除したい玄武會がその指示を聞いてるということは、力関係は真黒のほうが上だ。
「……情けない大人が多いよ。玄武會もお前もな」
オレは妖力を解放した。
途端に空が光に照らされて、まるで昼のようだ。
廃神社の敷地内に生えている枯れかけた木々が青々とした葉をつける。
「はぁ? なんだ、どうなってんだ?」
「真黒、妖力って知ってるか?」
「妖力?」
「まぁ知らないよな。お前も父さんも、だーれも知らない。これがなんでなのか、ずっとわからなかったんだ」
続いて地面からふっさりと草が生えて、辺り一面が草原のような景観になる。
廃神社とは思えない敷地内の変化に、真黒は右往左往していた。
「なんだ? こりゃどういう退魔術だ? おい、なんだこれ。答えろよ。なぁ」
「初めて慌ててんじゃん。心配しなくても、これから思い知らせるから覚悟しておけ」
オレは真黒に対して不敵に笑った。
負ける気がしないというのはこういうことなんだろうな。
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