鬼才の片鱗
退魔師の基礎は霊力の意識、理解、操作の三つだ。
それは本で読んだ知識として持っていて独学で学んだこともある。
父さんも同じことを教えてくれたんだけど、本以上に勉強になることが多い。
修行は家の中庭で行っている。
さすが名家と呼ばれていただけあって、そこそこの広さがあるのが便利だ。
「陽夜、まずは霊力の意識だ。己の内側に保有されている霊力を隅々まで理解するんだ」
これは瞑想によって養われる。
心を無にしてひたすら己の内側に問いかけることによって霊力が見えてくるそうだ。
【瞑想、今すぐやめてください!】【まだ瞑想やってるの?】とか、どこぞの動画サイトのタイトルにあるそうな本は信用ならない。
瞑想こそが基本にしてすべてだと父さんは言う。
それでオレは毎日瞑想を欠かさずやっている。
暗闇の中にある一点、ようやく何かが見えてきた。
今までなんとなくやっていたことが形になるのは嬉し――
――ゴオオォォォォォッ!
「わあぁーーー!」
「陽夜! どうした! 怖い夢でも見たか! 父さんが添い寝するぞ!」
目の前にとてつもない巨大な何かが迫ってきた。
それもまるで太陽のような計り知れない大きさだ。
「れ、れーりょくが、こわかった……」
「自分の霊力は自分そのもの……本来はそれを恐れるなどあり得ないのだが……どれほど大きなものだったというのだ」
ここでオレは一つの仮説を立てた。
といってもそんな大層なものじゃなくて、単にオレが自分の霊力の底を把握してなかっただけだと思う。
忌子と呼ばれるほど呪力が多いなら霊力もそれに相当する。
「陽夜はやはり天才だな! おそらくどの退魔師にも負けないほどの霊力を持っている!」
「ホントに?」
「あぁ! そうだろう! 母さん!」
――パシャ! パシャ!
「えぇ! 歴史的瞬間に立ち会えたわ!」
「わぁ!?」
庭の林の中から母さんが飛び出してきた。
もしかして今まで潜んでいたのか?
「今夜はフィレステーキね!」
「100年もののワインを開ける時が来たようだな……」
このノリだと毎日がご馳走祭りになりそう。
それはともかくオレの中にはとんでもない霊力が眠っているわけだ。
妖力化した時はなんとなくやっていたけど、深く知れば知るほど底が見えない。
父さんの言いつけ通り、瞑想は毎日やっている。
半年ほど経過した頃、父さんが次のステップに進ませてくれた。
「今日行うのは霊力の理解の訓練だ。これは意識と違って他人のものを感じ取る。これが出来るかどうかで生存率の桁が変わるほどだ」
父さんによればこれが出来れば呪霊の存在や攻撃をいち早く感知できるそうだ。
といっても呪霊の場合、呪力感知という別のスキルが必要になるらしいけど。
それはさておき仲間の退魔師の霊力を感じ取ることができれば互いの連携がうまくいく。
霊力は人によって性質が異なっているみたいで、感じてみると父さんのはひりつくようなものらしい。
母さんのは優しく包み込んでくれる心地よさがある。
こんな感じで様々な霊力に触れる退魔師ほど高みにいけると説明してくれた。
「よし! まずは私が陽夜の霊力を感じ取ってやろう! どれ……」
父さんが目を閉じて感知を始めた。
「……ッ!? ウオオォォォッ!」
当然、父さんが獣の咆哮みたいな声を出した。
ガード態勢で後退しつつも全身から霊力を解放する。
「あ、あなた!?」
中庭の木がベキベキと折れて葉は散る。
更に縁側の引き戸の窓ガラスが一斉に割れた。
それだけにとどまらず、開けっぱなしにしていたせいで居間のテーブルから何まですべてひっくり返る。
これが父さんの霊力!?
「はぁ……はぁ……え、詠歌……」
「どうしたの! ここであなたが霊力を開放したら家がめちゃくちゃになるわ!」
「すまない。いや、なんだ。その……陽夜の霊力がそれほどまでに……」
父さんが二の腕をさすった。
オレの霊力を深く感じ取った父さんが警戒態勢を示したわけか。
つまりオレの中には一流の退魔師すら畏れさせるほどの霊力がある。
「よ、陽夜。すまなかった。父さんが未熟なばかりに怖がらせてしまったな」
「んーん、大丈夫だよ」
「許してくれるのか! 陽夜! お詫びに好きな玩具を買ってやるからな!」
「んーん」
もうすでに部屋が玩具だらけなんだが。
オレが何かやるたびに増えていくんだ。
父さんの反応からしてなんで忌子が恐れられているのか、なんとなくわかったよ。
瞑想、意識の二点セットを更に半年ほど繰り返してオレは四歳になった。
二つの基礎を積み上げたオレは操作に進むことになる。
いよいよ退魔師としての明確な攻撃手段の柱となる部分だ。
「操作については陽夜が私を救ってくれた時に行っていたから、細かい説明はいらないな。まずはあの時のように……そうだな。この岩を動かしてみろ」
父さんが示した岩はオレの背丈よりも大きい庭の岩だ。
オレはさっそく霊力を操作して岩にぶつけたのだけど――
「うごかない……」
「お、落ち込むことはないぞ! 誰だって最初はそんなものだ!」
別にそこまで落ち込んでないけどフォローがすごい。
でもやってみると案外難しいことがわかった。
赤ん坊の頃からやっている身体強化とは違って、霊力を放出するというのは別の技術を必要とする。
オレはめげずに岩に霊力をぶつけたが揺らすことすらできない。
「よ、陽夜。父さんはな、何もお前に才能がないなんて思ってない。父さんはお前が世界一の退魔師になれると本気で思っているんだ」
「母さんも子どもの頃は10なべしてようやく霊力を放出できたもの。陽夜は天才よ」
両親からのとてつもないフォローの嵐の中、オレは考えた。
オレの中で何かが欠けている。
身体強化は自分に向けたものだけど、霊力を操作して岩を動かすとなると対象は自分じゃない。
オレの体と違って対象の何かを動かすとなれば相応の力が必要になる。
それは対象に対する意識だ。
「動け……動け……動け!」
オレの霊力が放たれるも岩にぶつかって消えた。
これでもダメか?
「動け! 動け!」
また霊力をぶつけるもまったく動じない。
そこに鎮座する岩がその程度かと言わんばかりにせせら笑っている気がした。
その瞬間、オレの頭が沸騰する。
「もういっそ壊れろォーーーー――!」
オレは全力で霊力、ではなく妖力を放った。
「なっ!?」
――ドオォォォン!
父さんが驚愕した直後、オレの妖力が激突した岩が真っ二つになる。
幸い破片が両親のところまで飛ぶことはなかったみたいだ。
岩の破片が転がって父さんの靴にコツンと当たった。
「な、なんということだ……」
「あの岩を壊すなんて、あなたが陽夜と同じ歳の頃でも無理なんじゃ……」
「……私は動かすだけで一年かかった」
オレは自分の両手をまじまじと見た。
確かにオレから妖力が放たれてあの岩が破壊されたけど、何か違和感がある。
単に妖力の量の問題だけじゃない気がした。
柄にもなく熱くなってオレは腹の底から叫んだんだ。
壊れろって。その瞬間、あの心地よい感覚を感じた。
オレの仮説が正しければ、オレはまた一つ陰陽術の深淵に触れてしまったのかもしれない。
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