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結界を突破せよ

「ならば死んでも構わんということだなッ!」


 阿豪(あごう)が結界を全開にすると、壁がかすかに破壊された。

 あいつの結界はいかなる障害物も寄せ付けない。

 あれで殴られたら全身がぺしゃんこになるかもしれないな。


閻那(えんな)殿、あれでは陽夜様が死んでしまいます!」

堅鬼(けんき)、見てな。陽夜はまったく諦めてないよ」


 閻那(えんな)さんの言う通りだ。

 オレは霊力感知を極限まで高めて、阿豪(あごう)を丸裸にする勢いだ。

 霊力の流れや範囲、すべてを見極めることで全部わかった。


「アンチ……ブレイクッ!」


 阿豪(あごう)が結界の反発力を利用して瞬発した。


「ほいっと」

「……ッ!」


 オレがあっさり回避して見せると、阿豪(あごう)が片足をついて止まった。

 更に人差し指をクイクイと動かして挑発すると阿豪(あごう)の表情が怒りに染まる。


「まぐれがッ!」


 阿豪(あごう)が天井や床を跳ねてオレを翻弄してきた。

 退魔術を極めるとあんなこともできるんだな。

 霊力による身体強化に加えて、|相反する双力が生み出した奇跡バリアインパクトによる反発で爆発的な速度を実現している。


 結界術はとても繊細で、退魔術とは別の知識や技術がいると聞く。

 オレには及ばない境地かもしれないけど、一つだけ弱点を見つけてしまった。


「はぁぁぁぁッ! アンチブレイクッ!」


 オレはまたも阿豪(あごう)との距離を絶妙に保って回避した。

 結界ギリギリの距離で、わずかにでも触れたらたちまち弾き飛ばされるだろう。


「木の印……鎌鼬」


 オレが片手を振ると阿豪(あごう)の脇腹から鮮血が飛び散った。


「ヅァッ……!」


 阿豪(あごう)の動きが止まって脇腹を押えた。

 何が起こったのかわからずにその場で停止して、脂汗をかきながらオレを睨む。


「なぜ、なぜだ……何が起きた……!」

「まず一つ、あんたの動きはもうわかったよ。それなりに体術を鍛えているけど、父さんと比べたらワンパターンすぎるんだよね」

「父さんだと……」


 阿豪(あごう)が観戦している父さんに視線を移す。

 修羅みたいな顔をしているだろ?

 ちゃんと怒ってるんだぜ?


「そしてもう一つ、結界の内側は無防備なんだよね。あんたがどこまで結界を張っているのか、ちゃんと見極めさせてもらったよ。だから結界の内側で風を発生させて斬らせてもらった」

「内側、だと……! あり得ん! 私の結界はいかなる霊力の干渉も寄せつけない!」

「だからそれは結界単体の話だろ? 例えばいくら壁が固くても、内側までは守れないだろ」


 オレがそう説明すると、阿豪(あごう)が愕然とした。

 阿豪(あごう)の結界の内側で鎌鼬を起こすには、あいつの結界の範囲を知っておく必要があった。

 あいつがどこまで結界を張っているのか、厚さはどの程度か。

 さっきまでは霊力感知でそれを探っていたというわけだ。


「おやおや……。簡単に言ってくれるけど、そんなものが簡単にできたら結界師の商売が上がったりじゃないか。宗司、お前の息子は本当に神の子かもしれないね」

「これは私も驚きました……。確かに同じ芸当ができるなら、陽夜の前では結界など何の意味も持たない」


 閻那(えんな)さんと父さんに褒めてもらえたようで嬉しい。

 オレだって密かに訓練しているんだからな。

 オレが花一クラスの阿豪(あごう)と戦うことを心配していたけど、ちゃんとあの時より強くなっている。


「よーやぁー! いかしちゃえ! いっちゃえ! いっちゃえ!」

「いや、逝かせはしないけどね」


 鬼姫(きき)が全力で応援してくれている。

 女の子の前で、なんて恰好つける気はないけど少しくらいかっこよく決めたいところだ。


「ふ、ふざけるな……私が、私がどれほどの歳月をかけて……|相反する双力が生み出した奇跡バリアインパクトを生み出したと……」

「まだこれからがあるじゃないか。破られたなら、精進すればいいよ」

「私は……私は玄武會の副會長! 阿豪(あごう)だ! 破られるということは會長の教えを否定することになる! 會長は……おじい様はいつだって正しいのだッ!」


 阿豪(あごう)が結界を更に広げた。

 まるで結界ごとオレを押しつぶさんばかりだ。


阿豪(あごう)! それ以上やるなら戦いを止めるよ!」

「黙れぇ! 閻那(えんな)ァ! 私は止まらんぞ! 私は……玄武會は不滅だッ!」


 阿豪(あごう)の全力結界がオレを襲う。


「火の印、狐火」


 阿豪(あごう)の体がボッと燃え上がった。

 その瞬間、結界がパッと消える。


「うあぎゃああぁぁぁーーーーーー! あ、熱い! うああぁーーーー!」

「オレがあんたの退魔術のカラクリを見抜いた時点で勝負は決まってたんだよ」


 阿豪(あごう)が床に転がって火を消そうとするけど、勢いはまったく衰えない。

 あれは対象を燃やし尽くすまで決して消えない、いわば地獄の業火だ。


阿豪(あごう)さん、降参しろ」

「だ、誰が……!」


 強情すぎるだろ。このままだと、本当に死ぬぞ?


「陽夜! お前の勝ちだッ!」


 閻那(えんな)さんが叫んだところで、オレは阿豪(あごう)を覆っている炎を消した。

 綺麗だったスーツが焼け焦げて、髪の毛もチリチリになっている。

 身体から煙を上げた阿豪(あごう)は苦しそうに床を指でかいて藻掻いていた。


「……勝った」


 オレは勝利をかみしめて、床に腰を落とした。

 目の前には唇を震わせる阿豪(あごう)が這いつくばっている。


「か、神の、子……」

阿豪(あごう)さん、ぶん殴るのはやめたよ。もう十分だからね」

「神、神の子……」


 うわ言みたいに同じことばかり呟いているな。

 これだけやればひとまずは十分だろう。

 別にこの人を殺したいわけじゃない。


「陽夜、お疲れ様。お前は見事、やり遂げたね。あの玄武會の副會長をその歳で下すなんて、本当に神の子なんじゃないかと思えてくるよ」

閻那(えんな)さん。今度は『阿豪(あごう)が最初から本気なら』とか、大金星にケチがつかないよね?」

「あぁ、お前は全力の阿豪(あごう)を叩きのめした。しかし……」


 閻那(えんな)さんが阿豪(あごう)に触れて霊力を注ぎ込んだ。

 阿豪(あごう)の火傷がかすかに消えていく。

 すごすぎない?


「これでお前は玄武會から本格的に目をつけられるだろう。それだけは認識しておくんだね」

「だよね……」


 オレがため息をつくと、両親達がドドドと走ってきた。


「陽夜! 陽夜ッ! さすが陽夜だ! 陽夜ッ!」

「と、父さん、苦しい……」

「陽夜! 今夜はバーベキューよ! シャトーブリアンとか用意しちゃうわ!」

「すごっ!」


 さすが伍神家、金に糸目を付けなければどこまでも行く。

 ん? 足になんか絡みついてる?


「よーやっ! 強すぎ! 好き! 好きすぎていっちゃいそう!」

鬼姫(きき)、離れてくれないと動けない」

鬼姫(きき)もバーベキューでたくさんお肉を焼いてあげるねぇ!」

「え? うちにくるの? 既定路線なの?」


 両親を見ても、否定しそうにない。

 教育係である堅鬼(けんき)さんすらうんうんとか頷いている。

 なにこれ、家族ぐるみの付き合いになっちゃう?

 すでに花条家でお腹いっぱいなんだけど。

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