黒い同窓会
「ぐっ……わかっちゃいたが、まるで敵わねぇ……」
赤海會、我目羅會、神月會の退魔師達が満身創痍で地面に倒れている。
それぞれの會長達も立ち上がることすらできずに、学園長の前で座り込んでいた。
「宗司から聞いた話では、君達は閻那さんが提示した条件に従ったはずだ。これは阿豪さんの命令かな?」
「そうだ。あの人がここの場所を教えてくれたんだよ。神の子と鬼人族が無事に出てきたら、生け捕りにしろってな」
「生け捕り? 玄武會は神の子をどうしようとしたのかね?」
「だからそこまでは知らねぇよ。オレ達は言われたことをやっただけなんだからよ」
学園長が厳しくニシキを観察するも、諦めたように目を閉じる。
オレもこいつらがウソをついているようには思えない。
言うことを聞けば悪いようにはしないという、ニシキの発言とも矛盾しないからな。
「玄武會に子どもを拉致する趣味があったとはね。これは由々しい事案だよ」
「なんだかわからねぇがオレ達は負けた。後は好きにしやがれ」
「言われるまでもなく好きにさせてもらうよ。今回の玄武會の行動は明らかに異常だ。朱雀會、青龍會、白虎會に審議を問おうと思っている」
学園長が三人から目を離してオレ達のところへやってきた。
さっきの熱の余波がまだあるせいで、少し熱い。
まさかこの人があんな身も蓋もない退魔術を使うなんてね。
父さんの退魔術は見たことないけど、この人とどっちが強いんだろうな?
「君達も怖い思いをしたね。だけど無事に呪霊を討伐できたようで、よくやった」
「学園長、どうしてここに?」
「宗司から電話があってね。今回の件があまりにキナ臭いということで、私に頼んだのだ」
「キナ臭い?」
学園長が再び三人に視線を移した。
「今回の呪霊討伐の件、すでに第六怪位を討伐している陽夜君に課す条件としてはやや弱い。それもそのはず、玄武會が手を本当に焼いている呪霊なんていないのだからね。そこで宗司はこれは何かあると考えた」
「父さんがそこまで考えていたのか……」
「おそらく今回の襲撃が本命なのだろう。あの阿豪は玄武會の會長の命令なら、トイレだって舐める。このくらいのことはやってくると踏んだ」
「父さん、ありがとう……」
オレのことを真剣に考えてくれているからこそ辿りついた行動なんだと思っている。
そして信頼できる学園長に頼んだんだ。
父さんには本当に頭が上がらない。
「でも……こいつらはオレを生け捕りにするつもりでしたよね。神の子を始末するんじゃなくて、なんで生け捕り?」
「それはわからない。玄武會は昔から出る杭を打ってきたような連中だから、もし捕まったらいいことはないだろうね」
「老害派だなんて言われるわけだなぁ」
「玄武會を取り仕切るのは老人会と呼ばれる老人達だ。阿豪さんみたいな若者を表に立たせて、裏から操っている。そこの彼らも含めて末端に過ぎないとだけは覚えておきたまえ」
阿豪は會長に育てられたんだっけか。
そしてそこの奴らも阿豪に拾われて恩を感じている。
なんか闇深いものを感じてしまうのはオレだけだろうか?
「なんていうか……オレが進む道は思ったより茨だなぁ」
「陽夜君、そのために私達、大人がいる」
「学園長……」
学園長がにっこりとほほ笑んでいる。
だけど、その背後にいるニシキ達が喉を押さえて地面でもがいていた。
「が、学園長! あいつら、どうしたんですか!?」
「む!」
学園長が振り向くと、ニシキ達が本格的にのたうち回った。
そいつらの額に浮かび上がる何かしらの紋章が怪しく光る。
「ぐ、がああっぁあぁ! ご、ごぼぉッ!」
「君達! どうし……」
ニシキに近寄った学園長がある一点に視線が固定された。
その先にあるのは額の紋章だ。
竜の頭が自らの体を飲み込むかのような紋章、あれは――。
「このシンボルは、ま、まさか、まさか……」
「ぐっ……ぎ、ご、ぼッ……」
「しっかりしたまえ!」
学園長が血を吐いて動かなくなったニシキを揺する。
だけどニシキを含めて、全員が静かになった。
「え、え? よ、よーや、どうしたのかなぁ?」
さすがの鬼姫も、この光景には現実感が湧かないみたいだ。
オレにくっついて身を寄せてくる。
その時、突然オレはとてつもない圧迫感に襲われた。
「なっ……な、なんだ、よッ……!」
全身が押しつぶされんばかりの圧、それも上下左右から容赦ない。
息が詰まって呼吸が苦しくなる。
これは、この圧は。
オレはかろうじて、それが発せられているであろう方向に向いた。
木陰で蠢く人影、それがサッといなくなる。
あいつ、あいつが今の霊力を。いや、霊力じゃない。
「……待てッ!」
学園長がそいつを追いかけ始めた。
オレも咳き込みながらも走ると、そいつの背中が見える。
暗くて全体像はわからないが、大人だ。
「まさかお前なのか! 真黒!」
真黒? 学園長の知り合いか?
だけどそんなことを質問している場合じゃない。
そいつが木の枝に立って、オレ達を見下ろした。
暗くて顔は見えないけど、長めの黒髪に堀の深い顔立ちをしているように見える。
そいつはさっき明らかにオレに向けて霊力をぶつけてきた。
つまり何がしたいか、あいつが何なのかは一目瞭然だ。
「……威蔵、久しぶりだなぁ。相変わらずお前と宗司は早すぎる。そうでなきゃな」
「真黒! 今までどこにいた!」
「おいおい、久しぶりの再会だってのに不躾な質問だなぁ。こういう時は『久しぶりだな。今、なにしてんの?』だろ?」
「さっきのウロボロスを見た時にお前だとすぐにわかった! 答えろ! 今更現れて何が目的だ!」
真黒と呼ばれた男はヘラヘラと笑うだけだ。
あの学園長が取り乱すほどの相手か。
確かにオレが一瞬でも恐怖を感じたほどの霊力、いや。呪力だ。
「せっかくの同窓会だけどよ。オレが会いに来たのはお前じゃないんだわ。そこの神の子、陽夜君だよ」
「陽夜だと?」
「そろそろ顔くらい見ておきたくてね。なんともまぁかわいらしいボウヤだ。でもそのボウヤに久里間の奴、負けたんだよな……マジ受けるよなぁ!」
「久里間が……」
久里間、二年前の会合で呪いのDVDを流したあいつか。
あいつから呪力を感じた理由がよくわかった。
あいつは久里間と同類なわけだ。
「確か退魔師の才能がなさすぎて内勤に回ったんだよな! なぁ、ボウヤ! 引くほど弱かっただろ、あいつ! ああいう奴に退魔師やられんのってマジ迷惑だよなぁ!」
「オレが目的なのはわかったよ。で、オレをどうしたいんだ?」
「んー……どうせ言っても理解されないだろうからなぁ。そこの威蔵もお前の親父もそうだった。どいつもこいつも自覚の足りねぇ奴ばっかりで嫌になるぜ……」
真黒が頭をボリボリとかいた。
「ま、今はそこのおっかねぇ威蔵が睨んでるからな。また今度、挨拶するわ」
「……真黒ッ!」
学園長が跳躍して真黒に挑むも、そこにはすでに誰もいなかった。
呪力感知をすると、あいつは地面に溶け込むようにして高速でここから離れていく。
さっきのといい、どういう退魔術だ?
「……逃がしたか」
「学園長、あいつは一体?」
「すまないな。君達、両親や堅鬼さんが待っている。今日は帰ろう」
学園長は何も教えてくれないまま、オレ達を車に乗せる。
それからどこかに電話をして長いやり取りの後、発進させて廃墟を後にした。
学園長と父さん、真黒。一体どういう関係だったんだ?
そもそも真黒は何者なんだ?
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