学園長の退魔術
「が、学園長……なんでここに?」
オレがあ然としていると、学園長が何事もないかのように歩み進む。
倒れている退魔師をまたいで、周囲にいる退魔師達が立ち塞がった。
「子ども達の成長だぁ? 五大退魔師も焼きが回ったもんだな。この数を見てモノを言ってんのか?」
ノラクロ、じゃなかった。
ノクロが腕に巻きつけたチェーンをジャラジャラといじっている。
あれがあいつの退魔術に関係しているのか?
「子どもをよってたかって襲う社会不適合者でも退魔師になれてしまうのは、明らかに制度の欠陥だね。だからこそ学園での教育に身が入るというものだ」
「威蔵さんよぉ。教育熱心なのはいいが、現実を見ることも大切だぜ? 学校じゃそういうのは教えてないのかぁ?」
「子ども達が見るのは将来の夢だけで十分だよ」
ノクロが目で合図すると、赤海會らしき退魔師達が学園長に攻撃を開始した。
ありとあらゆる退魔術が入り乱れて、不謹慎だけど見ていてすごくワクワクする。
(すごい! 十人十色といった感じで、誰一人として同じ退魔術がない!)
無数の刺のようなものを放つ退魔術、獣の手足と化した退魔師、髪の毛が伸びて全身を覆う退魔術。
それぞれが個性を発揮して、学園長に逃げ場を与えない。
いくら学園長でもあれは――。
「基礎は十分、しかし応用が利いていない」
学園長が一瞬で敵の中に飛び込んだ。
刺を放った退魔師の顔面に拳を叩き込んで地面に沈めて、獣の手足を持つ退魔師の顎に裏拳を放って昏倒させた。
手刀を髪の毛鎧に差し込まれた退魔師が呻いて倒れる。
「遠距離系の退魔術にしては遅い。そちらの君は手足のみを一点特化したのみでは弱いね。そっちは髪の毛では隙間が多すぎる。それなら普通に体そのものを霊力強化したほうがよほどいい」
一瞬で三人の退魔師を体術のみで倒してしまった。
残る退魔師達も一人は蹴りを入れられて、一人は腕をとられた上に投げられて地面に叩きつけられる。
その勢いでもう一人の退魔師を巻き込んで合計三人。
「……君達、学園を卒業していながらまるでなっていない。もし君達が私の生徒なら、確実に補習だよ」
そう言いながら学園長は残りの退魔師達を手際よく片付けていった。
手も足も出ないとはこのことだ。
少なくとも中の位の退魔師じゃ束になっても学園長には敵わない。
「ふむ、こんなところかね。残るは大将達のみか」
残ったのはノクロ、ヒデオミ、ニシキのみだ。
劣勢の三人は怖気づいたようにして腰が引けている。
「おおぉ! よーや! あいつ、すっごい強いねぇ!」
「あいつ言うな。学園長だぞ」
「マジでー!?」
「君、テストの点数いくつ?」
「七点!」
鬼姫が自信満々に答えた。
意外と高いじゃん。
「これが五大退魔師だってのかよ……。ノクロ、ニシキ……さすがに分が悪いじゃねえか?」
「オレぁやるぜ。強いったってしょせんロートルだ」
ノクロが腕に巻いている鎖をじゃらじゃらと外していく。
腕から霊力が少しずつ溢れてノクロの全身に駆け巡る。
「|俺の止めどない内なる激情、こいつで封印しているうちにオレの霊力は熟成されんだ。来るべき時……クライマックスに向けてな」
「漬け物みたーい!」
鬼姫がまったく空気を読まないんだけど。
今のって絶対かっこよく決めたところでしょ。
ノクロがすごい顔をして睨みつけてきても、ハテナマークを浮かべている。
「つ、漬け物だとォ……!」
「うちの鬼姫がごめん!」
「そこでおとなしくしてなぁ! 漬け物みてぇにパリッパリ音を立てて食ってやるからよぉ!」
謝ったけど、そこまでキレることないだろってくらいキレてる。
その横でヒデオミが四つん這いになると口から牙が生えて、指の爪がググッと伸びた。
そして空に向けて咆哮を上げる。
「灰色の世界を駆ける狼! お前らを狩りつくすぜぇ!」
ヒデオミが凄まじい瞬発力を見せつけて学園長に牙を立てる。
だけどヒデオミの牙が学園長に刺さることはなかった。
「が、あ……!」
「この牙はなかなかの硬度だ。おそらくあらゆる霊力強化を貫くだろう。しかし動きが直線的すぎる」
「は、は、はらへぇ……!」
たぶん離せって言ってるのかな?
学園長に顎をガッチリと掴まれたヒデオミが苦しそうだ。
「が、捕まってしまえばこの程度だ」
「ぐっ……」
ヒデオミが腹に一撃を入れられて倒れたところで、ノクロが全身に霊力をみなぎらせて挑んでくる。
更にあの鎖を同時に放って学園長の腕を縛り上げた。
「はい、かかったぁ! そいつはお前の腕や霊力を封じる! もう右腕は使い物にならねぇぜ!」
「それは大変だな。ところで、こんなことをされたらどうする?」
「うぉっ!?」
学園長が鎖をもう片方の手で掴んでノクロを引き寄せた。
その勢いで待っていたのは学園長の拳だ。
「君も減点、補習だ」
「ぶ、ふ……」
ノクロも学園長の拳の前に沈んでいった。
というか基本的にワンパンとか、化け物すぎるだろ。
あれで減点ならオレなんか留年しそうだ。
「マジかよ。いくら五大退魔師ったってよ、ここには玄武會傘下が揃ってたんだぞ……?」
「ニシキ君、今なら賢明な判断をすれば何もしないよ。人は失敗した時が一番成長できるのだからね」
ニシキは大きく息を吐いてから、指の爪を弾いて炎を浮かせた。
あいつは炎系の退魔術を使うのか?
オレの狐火の更なる強化の参考になるかもしれない。
「冗談よしてくれよぉ、威蔵さん。ここで芋引いたら、倒されたこいつらにどう顔向けすんだよ」
ニシキがまた指を弾いてもう一つの炎、さらにもう一つ。
合計四つの炎がニシキの周辺に浮いている。
「阿豪さんは行き場のねぇクソッタレだったオレ達を拾って学園に入れてくれたんだ。学費だって出してくれた。そんな阿豪さんにも顔向けできねぇわな」
「そうか、それなら何も言うまい」
学園長が改めて構えると、ニシキが拳を突き出す。
炎が弾丸のように放たれて爆発した。
「|熱く乱れぶち抜く無法者ッ!」
ニシキの周囲に浮かぶ炎から火球が立て続けに放たれる。
さながらガトリング砲のような連射力で、オレの狐火とは対照的だ。
事前に感じていた霊力の通り、道を開けない奴はぶっ飛ばすと言わんばかりだった。
「これはシンプルながらになかなか……」
学園長が駆けながら|熱く乱れぶち抜く無法者を回避する。
あの火球はまったく衰えることがなく執拗に学園長を狙い撃っていた。
すごいな。オレに足りないのはあの豪快さかもしれない。
「オレぁ頭わりぃから難しいことはわかんねぇんだわ! だからこんなことしかできなくてよぉ!」
ニシキがかわし続ける学園長に吠えた。
これじゃ近づけないぞ、学園長。どうするんだ?
「……せっかくここに生徒がいることだし、私の退魔術を披露しよう」
学園長の体が紅に染まり、その瞬間に汗がぶわりと噴き出す。
学園長から発せられる熱だ。
そのせいで汗が流れて、みるみるうちに喉がかわいていく。
「が、学園長! それって……」
「陽夜君、鬼姫君。だいぶ離れていたまえ」
火球が学園長に激突すると、ぼしゅんと音を立てて消えた。
まるで煙のように消えたとはこのことだ。
「|万物を照らし焦がす太陽。摂氏数千度にまで達してしまえば、もはや何も残らないだろう。そこまでやらないけどね」
学園長から太陽のプロミネンスのごとく放たれた炎がニシキの炎を飲み込む。
まるでサッと撫でるかのように、あまりに優しく慈悲がない。
「あ、熱い、あ、つい……こんなもん、は、反則……」
それがニシキの最後の言葉だった。
学園長に近づかれたニシキが熱さで気絶したみたいだ。
やがて退魔術を解除してから、オレ達に向き直った。
「反則、そう思わせたら一流の退魔師だよ。今後の参考にするといい」
反則だ。確かにこの人は一流だよ。
熱いし喉がかわいたし、死ぬかと思った。
身も蓋もないほど強すぎる退魔術だ。
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