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討伐を終えてみれば


「今更だけど、怪我はない?」

「ないない! 元気びんびん!」


 鬼姫(きき)が背伸びをしてガッツポーズをした。

 見たところ元気そうだな。

 あのインビシルブマーダー、地味だけど破壊力が高かったからな。


 あんなものをろくに霊力で身体強化ができない一般人が受けたら、一撃で殺されるだろう。

 でもこれで新たに被害が出ることがなくなった。

 それでも、できればこんなところに近づいてほしくないけどな。


「ねーねー! 帰って一緒に肉食べない? 肉!」

「に、肉? 食べたいけど、父さんと母さんが許してくれるなら……。ていうかこんな時間だから早く帰って寝ないと……」

「じゃー、とっとと帰ろっ!」


 鬼姫(きき)がオレの手を取って走り出した。


「おい、こら! さっき戦ったばかりだってのによくそんな体力が……」


 オレは急いで鬼姫(きき)の手を引いて立ち止まらせた。

 急ブレーキをかけるような形になって申し訳ないけど、感じたのは複数の霊力反応。

 呪力じゃない、霊力だ。廃墟を出て夜の林を見渡す。


「そこら辺に誰かいるよね?」


 オレが呼びかけると、林の中からゾロゾロと出てきた。

 身なりからして全員が退魔師だ。

 それも数十人規模の徒党を組んで、どう見ても友好的な感じには見えない。


「なぁにこれぇ?」

「なんか用?」


 聞くまでもないけど、あくまで平静さを保った。

 誰もがかなり高い霊力を有しているとわかる。

 一人ずつ観察していると、それぞれの闘衣(アルマ)に『神月會』『我目羅會』『赤海會』という刺繍が刻まれている。

 こいつら、まさか――。


「おい、ヒデオミ。奇襲しかけるつもりだったのにあっさりバレてんじゃねえか」

「奇襲はお前の発案だろうが、ノクロ」


 ヒデオミとノクロと呼び合ったこいつらがボスか?

 もう一人、威風堂々と立つのは今時パンチパーマでいかにもな容姿の男だ。

 そいつが二人の間を素通りして、ガムか何かを噛みながらオレ達を見下ろす。


「神の子、伍神陽夜。それと鬼ヶ島鬼姫(きき)。お前らに恨みはないが、玄武會の命令なんでな」

「玄武會……。まさか阿豪(あごう)の差し金か?」

「ここにいる神月會、我目羅會、赤海會は玄武會の傘下だ。オレたちゃ全員、阿豪(あごう)さんを慕ってんのよ。お前らにとっちゃ嫌な奴だろうが、恩人ってわけなのよ」

「恩人の命令なら、子どもでも殺すってか? 大人としても人としても終わってるな」

「口が悪いじゃねーの。さすが神の子ってやつは肝が据わってんなぁ」


 パンチパーマの隣にヒデオミとノクロが並び立つ。

 こいつらが飛びぬけて強いな。

 いちいち引き合いに出すけど、霊力からして久里間より数段上だ。


「我目羅會。會長ヒデオミ」

「赤海會の會長ノクロ」


 二人が自己紹介を終えたのを見計らって、パンチパーマが見せつけるように霊力を解放した。

 林が揺れて、枝から葉が飛ぶ。

 ベキベキと音を立てる林は、まるで暴走車に轢かれて荒らされているかのようだ。


 そのくらい暴力的な霊力を感じる。

 オレ様以外はいらねぇ、オレが一番だ。オレの道。

 暴力が顕現したかのような身勝手さ。

 霊力一つでそこまで読み取れたってことはオレも成長しているんだろう。


「そしてオレが神月會の會長、ニシキだ。たぶんこの中で一番強いんでよろしくな」


 ポケットに手を突っ込んだまま、ニシキはニッと笑う。

 ヒデオミやノクロといい、全員が前時代的な雰囲気だな。

 まさに退魔師版ヤンキー集団だ。


「で、神の子よ。いくらお前が強くても、この数はどうしようもねぇわな。そこで、だ。阿豪(あごう)さんも鬼じゃねぇ。条件次第で見逃してやれって言いつけられてんだわ」

「条件? どうせろくなもんじゃないけど、聞いておいてやるよ」

「いいねぇ、生意気大好きだぜ。条件ってのは、今回の呪霊討伐は失敗したってことにしてほしいんだわ。そうなりゃ神の子の評判は著しく落ちるだろうが、玄武會が悪いようにはしねぇ」

「……どういうことだ? なんで玄武會はそうまでしてオレに拘るんだ?」

「さぁな、そこまではオレも知らねぇよ」


 すっとぼけているのか、それとも本当に知らないのか。

 玄武會は神の子いらない派だったはずだ。

 それなのにオレをどうするつもりなんだ?


「そんなもんお断りだよ。別に名誉がほしいわけじゃないけど、お前らの不正に加担するつもりはない」

「この数を前にしてもその胆力……かわいいねぇ」


 ニシキがポケットに手を突っ込んだままクククと笑う。


「だけどこいつらだって数だけじゃないんだぜ? 全員が中の位でオレ達が上、ハッキリ言って選択肢なんざ考えるまでもねぇ」


 数的有利、そして個々の力を見せつけるようにヒデオミとノクロが霊力を解放した。

 ニシキほどじゃないけどこっちも暴力的で身勝手、そんな印象を受ける。

 要するに前時代ヤンキー集団は似たり寄ったりな奴らの集まりってことか。


「ねーねー、よーや。話長いよぉ」

「年齢を重ねると、どうしても話が長くなるんだよ」

「いかしちゃお?」


 鬼姫(きき)はやる気だけどこの数はバカにできない。

 それに敵もバカじゃないから、確実に勝てると踏んだ上でこの戦力を用意したんだろう。

 そう考えるとオレと鬼姫(きき)、式神込みの戦力で太刀打ちできるか怪しい。


「いかしちゃお、だってよ」

「艶めかしいねぇ!」

「ギャハハハハハッ!」


 敵一同が何がおかしいのか、大笑いしている。

 笑いの沸点を含めて、ちょっと仲良くなれそうにはないな。

 こんなのが退魔師協会所属だなんて終わってるだろう。

 はぐれ退魔師と言われても違和感ない。


「ん? まさかやるってのか?」

「やるよ。いい歳こいて子どもでもわかるような不正行為をしようってんだからね」

「あー、いいねぇ。そのほうがオレも退屈しねぇんだわ」


 ニシキが指を鳴らしていよいよやる気だ。

 他の奴らもオレ達を取り囲んできた。


「こんなガキを集団でどうこうしようってのは趣味じゃねえけどな。何せ神の子と鬼人族が相手だ。こちとら油断なんか微塵もしねぇ……お前らぁ! やっちまえ!」


 ニシキが号令をかけると一斉に全員が襲いかかっ――。


「待ちたまえ」


 集団の奥から何人かが飛んだ。

 まるでギャグ漫画のごとく、数人が地面に叩きつけられる。


「……あ?」


 ノクロ、ヒデオミ、ニシキがその方向に注目した。

 砂煙の中から何かがやってくる。


「子ども相手に寄ってたかって集団リンチとはね。玄武會の教育はどうなっているんだか」

「……誰だぁ!」


 砂煙が収まって、その姿が明らかになる。

 その人物はオレ達がよく知っている人だった。


「が、学園長……?」

「やぁ、陽夜君に鬼姫(きき)君。遅ればせながら、ピンチに駆けつけたよ」


 学園長が校門前で挨拶をするかのようなノリでそこにいる。

 周囲には倒れている退魔師達、あの人数を一瞬でやっつけたのか?


「あ、あんたは……五大退魔師の威蔵! なんでここに!」

「君はノラクロだったかな?」

「ノクロだッ!」

「ノクロ君か。子ども達の成長を妨げないでもらえるかな」


 学園長の笑みは生徒達のオレに向けるそれじゃない。

 目が笑っていなくて、口元だけが歪んでいるように見えた。

 なんでここにいるのかまったくわからないけど、とんでもない事態になったのは確かだ。


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