二人だけの旅
「閻那さん、特例ということで協会は認めるんですか?」
陽夜と鬼姫が討伐に向かった後、私達は退魔師協会本部のレストランでくつろいでいた。
ここは一般人も利用できるが、退魔師の免許を持っていれば一食あたり200円で食べられる。
陽夜達はさっさと食べて向かったようだ。
私はというと、とんかつ定食を頼んだものの手をつけられずにいる。
「何かあれば青龍會が責任を取る。ところで宗司、お前は私と同じものを頼んだみたいだが、被せてきたのかい?」
「いや、カツ丼ととんかつ定食は被ってないと思いますが……」
「退魔師協会は一枚岩じゃないのは確かだけどね。朱雀會と白虎會の奴らが何を言ってこようと、結果を出せば文句も出ないだろうさ」
「閻那さんがそう言うのならいいいのですが……」
私の心配はそんなところになかった。
まず陽夜と鬼姫が呪霊討伐に向かうというだけでも、胸が張り裂けそうだというのに。
「……心配だ」
「あなた、陽夜を信じましょう。あの子は花一さんを倒しているのよ?」
「あいつは討伐の仕事を長らくやってなかった。それに加えて油断もあっただろう。もしあの男が最初から全力だったら、どうなっていたことか」
珍しく妻の詠歌と意見が合わない。
まず陽夜達が無事に目的地まで辿り着けるかどうか。
GPSつきのスマホを持たせたほうがよかったか、それともまだスマホは早いか。
途中で泣いてないだろうか。
ありとあらゆる想像が頭の中を巡って、とんかつ定食が届いた後も手をつけられずにいた。
「宗司、お前の心配もわかるよ。なんといっても相手が相手だからね」
「相手?」
「なにをすっとぼけているんだ。玄武會が提示した呪霊だよ。あいつらが手を焼いている呪霊、あれはかなり厄介さ」
「あぁ……あれは厄介だな」
私はキャベツをひたすら口に放り込んだ。
呪霊によって陽夜が殺されてしまうかもしれない、私がそれを心配していると思ったんだろう。
確かにあの呪霊のことも気がかりだが、私はなぜか妙に落ち着かなかった。
閻那さんは呑気にカツ丼を頬張りながら、水を一気に飲む。
「インビシブルマーダー。リゾートホテルの廃墟に出没するその呪霊は、これまで討伐に向かった退魔師が誰一人としてその姿を見ていないという」
――カンッ!
閻那さんが箸で丼を叩いた。
「ただ一つ、認識できたのは音のみ。廃墟内を徘徊するそいつは、常に金属を叩くような音を響かせている」
「確かそいつは第四怪位に指定されているだろう。阿豪さんならば造作もないだろうが……。いや、あの人の退魔術では分が悪いか」
「あいつはどちらかというと結界師が本業だからね。それに玄武會の上の位の退魔師が殺されている以上、慎重に動かねば再び被害が出かねない」
「……そうだな」
陽夜は第六怪位のハナコさんを祓っている。
そう考えれば問題はないと考えがちだが、怪位がすべてではない。
相性の問題は当然ながら、インビシルマーダーは存在が確認されてから半年と経たずに第二から第四怪位に引き上げられている。
つまりインビシブルマーダーに対して本来認定すべき怪位はまだ誰にもわからないのだ。
もし討伐されなければ、もっと上がる可能性だってあるのだからな。
が、それはともかくとして私は箸をおいて席を立った。
「トイレへいってきます」
「あぁ、大きいほうか小さいほうかは聞かないよ」
相変わらずデリカシーの欠片もない人だ。
席を離れてトイレに着いた私はポケットからスマホを取り出した。
* * *
「神の子ー! きょーそーしよっ!」
「こらぁ! まず切符を買え!!」
鬼姫が犯罪をやらかしそうになったところで、オレは襟首をつかんだ。
強引に引き戻して一息、駅でオレは早くも疲れていた。
まさか電車に乗ったことがないなんてな。
「まずは切符を買うんだよ!」
「めんどくさぁ、しぶしぶ……」
「しぶしぶとか口に出しながら渋々買うな。金は貰ってるんだからね」
「ポテチ買っていい?」
「話を聞く気ある?」
鬼姫が駅構内にある売店を指した。
なんでここまで文明を理解していないんだ。
鬼人族は離島に住んでいると聞いているけど、ここに来るまで一切交通機関を使ってないのか?
「鬼姫、あの堅鬼って人は電車について教えてくれなかったの?」
「んー、ずっと車に乗ってたからわかんない」
「あの人、免許持ってたのか……」
あの容姿と体格で車を運転している姿を想像すると、少し笑えるものがある。
ただそれを考えたら父さんも仁侠映画に出てきそうな顔しているから大概だ。
そんなこんなで無事、電車に乗ってようやく一安心だ。
鬼姫は移り行く窓の風景に釘付けだった。
合宿に行くときもずっと学園専属の運転手つきのバスに乗ってたもんな。
「ねーねー、神の子ー。あれなに?」
「ん? あれって……」
ピンク色の看板にハートマーク、あれは間違いない。
子どもにはまったく関係のないやつだ。
「ただのホテルだよ」
「へー。あ、大人二人が入っていった。くっついてたから結婚するのかな?」
「そ、そうじゃないかな」
「じゃー、神の子もくっつこー」
「いや、待って」
鬼姫がリーエルみたいにくっついてきた。
大人しくしているうちはいいんだけど、一つだけ気になっていることがある。
「鬼姫、オレのことはちゃんと陽夜って呼んでよ」
「なんでー? 神の子なのにー?」
「鬼姫だって鬼の子って言われたら嫌だろ? オレにだって名前がある」
「そっかぁ! 神の子、じゃなかった! よーや頭いいねー!」
素直で助かった。
何せオレときたらだいぶ顔が知れているのか、ジロジロと見られている。
なんでもネット上にオレの画像が出回っていて、一部でカルト化しているなんて話もあるくらいだ。
神の子掲示板だの救済の里だのショタ萌えだの、ディープな世界ですごいことが起こっている。
ということを空呂から聞いた。
あいつは親からスマホを持たされているから羨ましい。
「なぁ、あれって神の子だよな?」
「まさか……一人で外出しないだろ。常に専属ボディガードに守られているって聞いてるぞ」
「もう一人の子はなんだ? 神の子の下僕か?」
「角が生えてるように見えるが……」
まさか本物がここにいないだろうなんて思ってるけど、すでにオレは闘衣をまとっている。
かなり目立つんだけど、まさかなんていう人間の思い込みのおかげで助かっていた。
そんなわけで神の子呼びをやめさせたい理由はちゃんとある。
「よーや、鬼姫のことで怒ってくれてありがとね。鬼姫達ね、あんな風にずっとバカにされてたの」
「つらいよな。でもオレだって最初は忌子なんて呼ばれて嫌われていたよ。だから鬼姫の気持ちは少しわかるよ」
「ほんとー? よーやと鬼姫、仲間だねっ!」
「そうだな。呪霊討伐、がんばろう」
オレは決意を新たにした。
鬼姫がオレの手を握ってくる。
「うん。よーや……鬼姫と一緒に気持ちよくなろーね……」
鬼姫がとろけるような声を出した。
戦いを気持ちいいと思ったことはないけど、呪霊討伐をすれば犠牲者が減る。
それはそれで気持ちのいいことだ。
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