退魔師の闘衣(アルマ)
「よし! 陽夜! 退魔師の修行をするぞ!」
ある日、朝食を終えた後に父さんが何か言い出した。
父さんはオレが昨日の二人の会話を聞いていたことを知らないはずだ。
物事には順序というものがあるんだ。
これまで反対していたんだから、まずはそこからだろう。
「あなた、そうじゃないでしょ」
「む、そうだった。すまない」
母さん、その通りだ。
父さんは少し興奮してるみたいだな。
「まずは修行より退魔師の歴史を知るべきよ」
「確かに!」
確かにじゃなくて!
まず退魔師を認めてくれたことを言うべきだから!
二人とも、一体どうしちゃったんだ?
「退魔師になっていいの?」
「そう、そうだ。陽夜、父さん達はお前の目標を全面的に応援することにした」
「お父さん、ありがとう!」
「だ、抱き着いていいんだぞ!?」
普通そういうのは催促しないと思うけどご要望に応えた。
父さんがガシッとオレを抱きしめている横で母さんが物欲しそうな目で見てくる。
なんとなく理解したオレは母さんに抱き着いた。
「まぁーーー! 陽夜ったらぁ!」
「か、母さんには自分から抱き着きにいっただと……?」
なんかめんどくさいな!
もうとりあえず先に勧めてほしい。
これこそ催促するためにオレはテーブルに座ってそれとなく学ぶ構えを示した。
二人もすごすごと席に着く。
「コホン! では陽夜、改めて退魔師について話そう」
父さんは退魔師について説明してくれた。
本で読んだ内容のことも多いけど、退魔師の術がオレの想像よりも多岐に渡ることが判明する。
退魔術は霊力を消費して行使する性質上、使い手の性質にも影響されるらしい。
つまり退魔術がどんなものになるのかはその人間の人格や経験が関わっていた。
「父さんの退魔術は刀神錬武、ありとあらゆる武器を顕現させて刃による近接戦闘空間を形成する。といってもイメージは難しいだろう」
「ふーむ!」
「ちゃんと話を聞いて偉いぞ!」
「今日のおやつはパンケーキにしましょう!」
いちいち話の腰が折れるのは勘弁してほしい。
パンケーキは嬉しいけどさ。
「母さんの退魔術は母なる知神、他人に霊力を譲渡してありとあらゆる負傷を癒す。これだけ聞いても同じ退魔術一つとってもまるで違うのはわかるだろう?」
「うん!」
「偉いぞぉッ!」
「今夜はお寿司にしましょう!」
もうええって! 寿司は嬉しいけど!
オレは涎が出そうになるのを堪えながら気持ちを切り替えた。
寿司か、今夜が楽しみだな。
「このように退魔術は多岐に渡る。が、陽夜。お前はそうじゃないだろう?」
父さんが突然マジモードになった。
いや、ずっとマジモードだとは思うけどさっきまでの親バカ的な雰囲気はない。
オレも息を飲んで父さんと目を合わせた。
「お前が私を呪いから救ってくれたこと、また私の認知が及ばない何かを掴んでいることは知っている。きっとお前は私達とはまるで異なる力を使うのだろう。だがその上で私はお前に退魔師としての修行をつける」
オレは何も言えなかった。
父さんなりに理解が及ばなくてもオレのことを考えてくれているのはわかる。
母さんは何も言わずに父さんの横に座っていつの間にか箱を用意していた。
あれはまさか――
「陽夜、あなたはきっと普通の退魔師には留まらない。あなたにピッタリの闘衣を用意したわ」
「あるま……?」
「そう、退魔師は必ずそれぞれの信念や戦闘スタイルなんかに応じて専用の闘衣を着るの。あなたに関してはこれ以外にないわ」
「これって……」
母さんが箱から取り出した衣装はまさに陰陽師の服だった。
神主を彷彿とさせる振袖つきの狩衣、下は短めの短パン。
これを母さんがオレのために?
「着たい! 着てみたい!」
「もちろんよ」
オレは居ても立っても居られなくてこの場で着替えることにした。
母さんが作ってくれた闘衣を手に取った途端に心臓が脈打つ。
オレはなんでこんなにも高揚しているんだろう?
それは母さんがオレのために何なべかしてくれて作ったからだ。
これまで人から何かをもらうなんて経験なんてなかった。
オレは焦る気持ちを押さえながら慎重に履いて、そして袖に腕を通す。
「に、似合う?」
「ふぉおおぉーーーーーー!」
「まぁーーーーーー!」
突然奇声を上げた二人にオレは思いっきり引いてしまう。
更にどこから取り出したのか、二人がカメラを構えて激写してきた。
「わっ! わっ!」
「いいぞ! 陽夜! もっとかわいく笑って!」
「後ろを向いたままさりげなく振り向いて!」
モデルかよ! そんな要求は聞いてない!
でもせっかく母さんが作ってくれた闘衣だ。
記念に何枚か取っておくのもいいかな。
「こ、こう?」
「偉すぎるッ!」
「キッズモデルの兼業とか余裕よ!」
キッズモデルとかする気ないけどね!?
興味ないし、そこまで自分の容姿に自信はない。
二人からしたらオレはどう見えているんだろう?
パシャパシャと激写されながらもオレは段々と恥ずかしくなってきた。
「そのはにかみぃぃーーーー! いいわぁ!」
「ありとあらゆる角度から撮るぞッ!」
これがいつまで続くのか、結局10分くらい続いた。
その間に何十枚の写真を撮ったのかわからない。
ようやく終わった後、二人は肩で息をするほど疲れていた。
「ふぅ……これだけあればいいか?」
「そう言われるとまだ足りない気がしてきたわ……」
「も、もういいから!」
オレは慌てて撮影続行を中止した。
放っておいたらいつまでも撮り続ける未来が見える。
オレは椅子に座って話の続きを無言で促した。
「……それで陽夜、お前には明日から修行に入ってもらう。最初に言っておくが私はお前が使う得体のしれない力については指導できない。だから私が行うのはあくまで霊力に関する修行のみだ」
さっきとのテンションのギャップがえぐい。
少し笑いそうになるけどせっかくのマジモードに水を差すのはよくないな。
父さんの言うことは正しい。
妖力といっても元は霊力と呪力だ。
この二つの調和が取れて妖力となるなら、霊力の取り扱いがうまくなればさらに精度が上がるとオレは睨んでいる。
もちろん呪力に関しても同じだ。
呪霊の力だからといって封印するつもりはない。
母さんの言う通り、どんな力でも使い方次第だ。
オレは霊力と呪力、妖力をもって退魔師を目指す。
「修行は当然楽ではない。実の息子とはいえ、素質がないと見なせば容赦なく修行を打ち切る。いいな?」
「はいっ!」
「は、はいって返事した……。返事は『うん』じゃなくて『はい』だ! なんて言わなきゃダメかなって思ってたのに……偉すぎる……」
「……」
父さんがすごいプルプルしてるよ。抱き着いてきそう。
実の父親であろうと師匠に当たるわけだから、そこはしっかりしたんだけどな。
確かに三歳にしては出来すぎではあると自覚している。
この親バカ父さんにまともな修行をつけられるのか、だいぶ不安だ。
何はともあれオレは今日から退魔師見習いとして生きる。
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