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退魔師協会本部にて

 退魔師協会本部。

 オレのイメージでは鬱蒼とした森の中にひっそりと存在するイメージだった。

 現実はオフィス街の中に地上50階のビルを建てて、その壮大さを誇示している。

 何に50階も使っているんだろう。


「お、大きいなぁ」

「ここには日本中の退魔師や呪霊に関する情報が集まっている。駐車場も完備しているし地下鉄や鉄道、バスでそれぞれ『退魔師協会本部前』の駅が備わっているのだ」

「退魔師協会って日本の中心にあるみたいだ」

「陽夜……お前はどこまで賢さを見せつけてくれるんだッ!」


 いきなり抱き上げられて昨日に続いて肩車された。

 このままビルに入ったらオレぶつかりそうなんだけど。


「その通り、退魔師協会はまさに日本の中心を担う一大組織だ。政府とも密接な関係を築いている。それに政治家とも……」

「あなた! 陽夜にそんな汚らわしいことを教えないで!」

「そ、そうだったな。退魔師協会はクリーンな組織だぞ! 陽夜!」


 もう色々と手遅れな気がするし、なんとなくそんな予感はしていたよ。

 肩車から降ろされたオレはいよいよビルの中に入った。


「広い……!」


 受付カウンターだけで何列あるのかというほどで、整理券が配られているみたいだ。

 依頼完了報告、金融関係とそれぞれの受付で分けられている。

 オレが感動していると、やがてポツポツと注目が集まり始めた。


「あ、あれってもしかして神の子じゃ?」

「ネットの写真で見たことある! 神の子だ!」

「本物! かわいい!」


 ワッとばかりに一気に人が押し寄せた。

 退魔師や受付の女性達と、何がなにやらでオレ達家族は一瞬で芸能人みたいに囲まれる。


「か、かわいいって……」

「照れてるぅー! 持ち帰りたいぃ!」

「じょ、女性で退魔師ってすごいですね……」

「あー! そういう発言って今はダメなんだよー! おしおきしちゃおうかなー!」

「ちょ! なんだこの人達!?」


 なんか暴走しているのか、オレの体が軽々と抱き上げられそうになった。

 冷静に考えたら不和利先生だって女性退魔師だし、適切な発言じゃない。

 何か言おうと思って焦った。


「いくらうちの陽夜のかわいさが計り知れないからといって、持ち帰りは許しません」


 その時、母さんがひょいっとオレを奪い返す。

 オレの身辺にいる女性はパワフルすぎる。


「あ、あっさり……お母さん? あなたはもしかして元極の退魔師の詠歌さん……?」

「あら、引退してずいぶん経つのにまだ知っている人がいたのね」

「と、当然ですよ! 私、大ファンなんです! 引退されたと聞いた時は涙で枕を濡らしましたもの! 復帰される予定はないんですか?」

「フフ……私もいつまでも若くないからね。今は一児の母よ」


 あれ? なんか懐柔されてない?

 こうなるとうちの専属マネージャーなんてひとたまりもないだろうな。


「シッシッ! ふじゅんいせーこーゆーはご法度なのです!」

「かーーわいいーー! 妹さん?」

「一列に並んで握手するまでなら許すのです!」


 ほらな、いくらグラサンをかけて形から入ってもダメなんだよ。

 それにしても、うちの家族の人気ぶりが改めてよくわかった。

 会合の時は疎ましがられていたのがウソみたいだ。

 父さんだって後輩の退魔師達に囲まれているし、さすが伍神家だよ。


「やけに騒がしい。やかましくて敵わんな」


 が、もちろんオレ達を歓迎している人達ばかりじゃない。

 遠巻きからやってきたのは退魔師の一団、見た瞬間にわかる。

 全員、それなりの霊力を感じるから位は高そうだな。


「玄武會か」

「父さん、玄武會って退魔師協会上層部の派閥の一つだよね?」

「そうだ。玄武會は古くからのしきたりを重んじる思想が強い」


 退魔師協会は昔から四つの派閥がある。

 それぞれが独自の思想を掲げていて、トップはいずれも退魔師協会上層部の人間だ。

 四つが睨み合って拮抗した状態は危なくもあるけど、それぞれに独立した意思決定の権限が与えられている。

 つまり一つのトップしかない組織よりも融通が利くといった状態だ


「伍神宗司さん、今日はどのような要件でこられたのかな?」

「これはこれは玄武會の副會長、阿豪(あごう)さん。なに、息子のために口座を開設しにきたんですよ」


 玄武會の副會長、阿豪(あごう)

 獣のような鋭い目つきでオールバック、茶色のスーツに亀の甲羅のシンボルが刻まれている。

 花一もそうだったけど、この男の霊力はあれより数段威圧的だ。


 それでいてすべてをシャットアウトするかのような堅牢な印象さえある。

 硬い甲羅のような霊力で自分以外を押しつぶすような霊力だ。

 退魔師じゃなかったら絶対に関わりたくない類の人間だな。


「口座? あぁ、その子か。なるほど、なるほど。しかしあまり勝手なことをするのは感心しないな」

「どういうことですか?」

「あなたの息子……いわゆる神の子などと歓迎されている側面もあるようですが、そんな人間ばかりではない。中には疎ましがっている者達も少なくない」

「……あなたのようにですか?」


 父さんと阿豪(あごう)が睨み合っている。

 阿豪(あごう)、オレをあえて神の子と呼ぶことで父さんの逆鱗に触れないようにしているな。

 それでいて挑発的な姿勢は崩さない。

 なかなかいい性格しているよ。


「そうは言ってないがね。ただよく考えたほうがいい。いつの時代も反発はどのような結果を招くかわからない。例えば神の子が呪霊を討伐したとして……果たしてそれを認められるだろうか?」

「結果は結果でしょう。認めなくても認めざるを得ない」

「物事は常に表裏一体、人は昔から理解し難いことはすべて神の仕業としてきた。呪霊が祓われたら神の子のおかげ、では逆も然り。呪霊が発生するのも……」

阿豪(あごう)副會長、それ以上の発言は慎重になることだ」


 父さんがついにキレ始めた。

 相手が上層部の副會長だから抑えていただけだ。

 母さんも髪が揺らめいて霊力が滾っているし、ここはオレが前に出よう。


阿豪(あごう)さん、初めまして。伍神陽夜です」


 オレが阿豪(あごう)の前に立って見上げた。

 阿豪(あごう)は眉に皺を寄せて明らかな不快感を見せる。


「……躾はされているようだな」

「ご心配はありがたいです。だけどオレは誰になんと言われても退魔師になります。誰にも認められなくても、ここにいる両親が認めてくれたらそれでいいんです」

「子どもに大局を見ろと言ったところで無理だろうが、君達さえよければそれでいいという話ではないのだよ」

「じゃあ、どうすればいいんですか?」


 その途端、阿豪(あごう)が霊力を解放した。

 硬い甲羅のような硬質さえ感じる霊力に周囲が弾き飛ばされる。

 阿豪(あごう)以外の退魔師達も同じように霊力での威圧を開始した。


「回りくどい言い方では伝わらなかったようだな。私達はお前の退魔師登録など認めんと言っているのだ」


 阿豪(あごう)がハッキリとそう言い切ってくれた。

 黙り込んだオレを見た阿豪(あごう)が勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

 こんな横暴が許されていいはずがない。


「嫌です」


 オレも妖力を解放した。

 フロア中に暴風が吹き荒れて、あらゆる物が飛び交う。

 人々はまるで天災に遭遇したかのように悲鳴を上げた。


「なんだ、この、この霊力は……!」


 得意気に霊力を解放した阿豪(あごう)達だけど、次第にジリジリと押されていく。

 硬い霊力ごと後退していって、ついに床から足を離しそうになる。


「この私が押されているだと……それにこの霊力……いや、霊力、なのか?」

阿豪(あごう)さん! もう持ちません!」


 ついに阿豪(あごう)の取り巻き達が吹っ飛ばされてしまった。

 オレのこれはヤマガミと同じ力、即ち天災に等しい。

 天災に抗うだけの力がこいつらにあるのか、偉そうなことを言うなら示してほしい。


阿豪(あごう)さん、そこをどけてよ」

「……くっ! 調子に乗るなッ!」


 阿豪(あごう)が反撃に出ようとしたみたいだけど、よろけて壁際まで飛ばされてしまった。

 その瞬間、オレは妖力を抑え込む。

 辺りは物が散乱して、関係ない人までもみくちゃにしてしまった。


「皆さん、ごめんなさい」


 オレはぺこりとお辞儀をした。

 これに答える人は誰もいない。

 両親はどこかホッとしたような顔をして、ワコはセンスを取り出してなんかはしゃいでいる。

 何気にオレの妖力解放に耐えていて、さすがだなと思った。

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