人形マニアからの挑戦 後編
「あんなデカブツ、鬼姫がいかしちゃうよ!」
やはりというか、懲りずに鬼姫が跳躍して飛び蹴りをくらわせた。
ものすごい衝撃音が威力を物語っていて、巨松がぐらりと揺れる。
「へっへっへぇ! まーだまだいっくよぉ! あーーーたたたたたたぁーーー!」
単純な連続パンチだけど巨松が揺れて確実に効いている。
ただ黙ってやられるわけがない巨松、巨大ビンタが鬼姫を襲う。
「チッ! 危ないっ!」
ヒリカが巨松の手に矢を当てて弾き飛ばした。
前から思っていたけど、あの退魔術は矢の威力も半端ない。
ノヅチ相手に放っていたら亀裂くらいは入れられたように思える。
難を逃れた鬼姫は地面に膝をつきながら、ヒリカのほうを見た。
「ヒ、ヒリカ……鬼姫を助けてくれた?」
「お前の火力は戦力の要だ。当てにしている」
鬼姫の中でヒリカがどんな存在だったのかはわからない。
ヒリカの言葉がよほど信じられなかったようだ。
顔をぷいっと背けてから立ち上がる。
「ふ、フンだ! 今更、鬼姫の凄さに気づいたっておっそいんだからね!」
「私は別に最初からお前を軽んじていない。ただし、お前が自分のクラスメイトをけしかけて私のクラスメイトを攻撃したのは許せない」
「だって、鬼姫は一番にならないといけないんだもん! 鬼姫は」
なんてやり取りをしているから巨松が大きな足を上げた。
おい、まさかあれで踏みつける気か?
「雷切ッ!」
オレは高速で巨松に接近して雷の一撃を叩き込む。
足は弾かれてたものの、おっとっとみたいに少しだけよろめいただけだ。
あのトイレのハナコさんさえも追い詰めたってのに。
「ヤッテクレタナ、クソガキ」
巨松がオレをギロリと睨んだ。
もうこれ完全に呪いの人形だろ。
「クタバレ」
巨松が拳を握って地面を滅多打ちにした。
オレは慌ててその場から逃れるも、揺れた地面のせいでバランスを崩してしまう。
「陽夜さん!」
華恋の美しい雪月花の蔓がオレをすくい上げた。
抱えられたまま、巨松の一撃から難を逃れる。
「華恋、助かったよ」
「まぁどうせあなたなら逃げ切れましたわ。それよりあれはどうしますの?」
「いくらオレでもあの質量を一人でどうにかするとなると、かなり骨が折れるなぁ。あ、リーエル?」
リーエルの周囲に水の気泡のようなものが浮かんでいる。
水も滴るいい魔女による空間浸食が巨松を包んでいるみたいだ。
巨松が浮いて地面から足を離す。
「ウォッシュ」
巨松が洗濯機に放り込まれたかのようにグイグイと回転を始める。
ところがその質量を弄ぶほどの霊力となると、さすがのリーエルでも捻出は難しい。
「う、うぅ……」
「リーエル、無理をするな」
「でも、ヨーヤに……褒めて……」
「今の君は十分偉いよ」
短く褒めるとオレは木の印を結ぶ。
「木の印……雷衝波ッ!」
雷による衝撃波が巨松に連続で叩きこまれた。
バチバチと大きな音を立てて、尚且つリーエルによって拘束される巨松。
「皆! ぼーっとしてないで全員で総攻撃だ!」
全員がオレの一声で表情を変えた。
「そ、そうだ!」
「あの化け物を倒せ!」
「神の子に続けぇーーーー!」
まだ大半がリーエル達のような退魔術を使えないけど、各自できる範囲で総攻撃を開始する。
華恋が蔓で巨松を縛り上げて、ヒリカが矢で的確に関節部分を狙う。
「鬼姫が止めを刺すんだからぁ! ほら、ナクモとガローと皆もやれやれやっちゃえぇ!」
「え、えぇ……長く執念深い蜘蛛!」
「白く見えざる爪ぅぅーーー!」
オレ、ヒリカ、そして鬼姫のクラスメイト達も総攻撃に加わった。
いくら不和利先生とはいえ、動きを封じられた上にこれだけの攻撃を浴びればひとたまりもないはずだ。
「皆さん、強いですねぇ! ですが巨松ちゃんも負けてませんよぉーー!」
なんであの不和利先生はあんなに楽しそうなんだか。
巨松ちゃんが堪えるようにしてリーエルの拘束に抗う。
華恋の美しい雪月花の蔓がブチブチと切れ始めた。
「わたくしの美しい雪月花が! と、とんでもありませんわ!」
「大丈夫だ! 私がどこを集中的に狙ったと思っている!」
ヒリカの言う通り、巨松は動き出したもののビシィッと大きな音を立てる。
肩が外れかかって、膝がボロリと取れた。
ヒリカが集中的に狙ったのは比較的もろい関節部分、最初からこれを狙っていたのか。
それを的確に狙い続ける集中力と精密性には恐れ入る。
大きい足が手前に倒れてきたかと思ったら鬼姫がそれを蹴り飛ばす。
「いっちゃえぇーーーー!」
飛ばされた巨松の足が巨松に直撃する。
ふらふらと倒れかかる巨松、こちら側に体を傾けた時にオレは渾身の妖力を込めて飛びかかった。
「彼方までぶッ飛べぇぇーーーー!」
拳を巨松にぶち当てると、大きい体が直線的に吹っ飛んだ。
巨体が木々をなぎ倒して、それでも止まらずに二度ほどバウンドをした際に地響きが起こる。
「うおっと……!」
「よ、陽夜……あれを殴り飛ばしたのか……」
巨松が仰向けになったまま動かない。
やがて巨松の体から霊力が発散されるようにして光る。
「クソ」
「ヤラレチマッタ」
「アノガキ、トンデモナイ」
分裂した日本人形達が一目散に逃げていった。
これはつまりオレ達の勝ちってことでいいのかな?
「ヨーヤ、すごい」
「まったく……それでこそわたくしのフィアンセに相応しいですわ」
「む?」
「ん?」
リーエルと華恋が顔を見合わせてバチバチやり始めた。
そういうのは後にしてくれ。
「皆さん、よくできました! 無事に悪しきお人形さんは退治されましたとさ! ぱちぱちぱちー!」
不和利先生が日本人形達と一緒にやってきて、パチパチと拍手をした。
他の先生達も一緒だ。
「少々驚かせてしまったようですね。不和利先生を悪く思わないでください。これは私の発案なのです」
「守先生の?」
「はい、今の戦いを通じて皆さんの中に何か変化があったと思います。お互いを見てください」
生徒達が渋々といった感じで周囲を見渡した。
確かに合宿前のようなピリついた呪力は誰からも発せられていない。
憎しみだとか、負の感情が高まると生きている人間からも呪力が放たれるのは実証済みだ。
それがないということは、お互いのわだかまりが解けたということ。
守先生はこれが狙いだったのか。
「どうです? お互い、そう悪いものではないでしょう? 陽夜君もそう思っているはずです。今回の合同訓練はあなたの発案なのですからね」
「まぁ、そりゃ……守先生にフォローしてもらったおかげでもあるかな」
オレは気恥ずかしさでいっぱいだったけど、やがて拍手が起こった。
そこまでのことはしていないと思うけど、狙い通りにうまくいってよかったよ。
「まぁわたくしの陽夜さんならやると思いましたわ。皆さん、今頃お気づきになられたのね」
「神の子ーーー!」
リーエルの脇からするっと鬼姫が出てきた。
抱擁の気配を感じたからオレは咄嗟に身を引くと案の定、強烈なハグだったようだ。
「んもーーー! こういう時は若い二人が抱き合うんだよー!」
「何の影響だよ。そういうのはちゃんと深い関係になってからだ」
「じゃー、深いかんけーになるっ!」
などと抱擁タックルをかわすと、見事にすっ転んだ。
「恥ずかしがらなくてもいーじゃん! まずはキスー!」
「鬼姫! そういうことは軽々しく行うものではないぞ!」
「ゲッ! 豪せんせー!」
「もう一度おしりペンペンをしないとわからないかな?」
豪先生が脅しかけると鬼姫がお尻を押えてなぜかヒリカの陰に隠れた。
やっぱりよっぽど痛いらしいな。
ちょっとオレも試させて、なんて思ったけど前に学園長のゲンコツをくらったことを思い出す。
あれと同じくらい痛いならやめておこう。
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