二日目を終えて
先生達には森で遭難しかけたと伝えた。
ヤマガミのことは黙っていたほうが都合がいいと考えたからだ。
ノヅチからダンゴ虫攻撃された時の怪我はうっかり高い位置から落ちたからということにした。
こんな子ども騙しのウソでどうにかなるのかと思う。
「ふーむ、なるほど。それは大変でしたね。不破先生、本人達もこう言ってることですし、多めに見てあげましょう」
「え? えぇ、そうですね。しかし怪我のほうは……」
「見たところ、大したものではありません。退魔師をしていればこの程度の怪我は日常茶飯事です。明日の訓練にも差支えはないでしょう」
「そうですね……陽夜君、華恋さん、ヒリカさん。一応、処置だけしておきましょうね」
あの守先生のおかげでオレ達は難を逃れた。
最悪、この怪我のせいで明日の訓練には参加させられないとか言われそうだったから助かった。
守先生、ありがとう。でもさりげない目配せが気になるんだよな。
もしかしてある程度の察しはついてる?
だとしたらなかなか怖いな、この先生。
「さぁ! 今日の夕食はビーフシチューだ!」
その日の夕食はまたもや豪先生が作った料理だった。
今度はビーフシチュー、これがまた絶品だ。
正直に言って店で出てくるものと比べてもそん色ない。
というか何気に三クラス分の食事を作るってとんでもなくないか?
いくら他の先生が手伝っていたとはいえ、さ。
「森谷先生、このビーフシチューとってもおいしいですわ。意外と家庭的なんですねぇ」
「ふ、不破先生にそう言っていただけるとは! そう、そうなんです! いつ家庭を持ってもいいように備えているんですよ!」
相変わらずあの豪先生はわかりやすいな。
でも本当においしいから、あの豪先生と結婚した女性は幸せだろうな。
例えばピンク髪の人形マニアとかな。
「ヒリカちゃん! ちゃんと生きててくれたんだねぇ! ダメだよぉ? 鬼姫が勝つまで死んだらさぁ!」
「フ……そうだな」
あの鬼姫は負けた当初は駄々をこねてひどかったらしい。
それが豪先生におしりペンペンされたらしくて、すっかり大人しくなったとか。
オレ達も他人事じゃない。
噂によると豪先生のおしりペンペンは霊力強化で身を守っても泣く子が続出するほど痛いらしい。
そう聞くとちょっと試したくなるな。
「ヨーヤ、私一人で四組を倒した」
「そう、そのことを聞きたかったんだよ。リーエル、すごいなぁ……」
「……知ってた?」
「そりゃ噂になってるからね」
この話を聞いた時はオレも耳を疑った。
四組は絶対に防衛線を張っていると思っていたし、特にあのナクモの退魔術で籠城されたら厄介だ。
リーエルの退魔術なら一網打尽にできるのかな。
というか実はリーエルの退魔術ってオレも全容は把握してない。
どうも水を操る退魔術とも違うみたいだし、エーテルハイト家は本当に底が知れないな。
「知ってたんだ……じゃあ、褒めてくれない?」
「え? いやいや! そんなわけないじゃん! リーエルのおかげで勝てたよ! ホントありがとうね!」
「……ホント?」
「ホントだって!」
すごい褒めてるはずなのにリーエルが怪訝な顔をしている。
なんだろう、何かまずいことでもしたかな?
と思ったらリーエルが両手を広げて何かを期待しているように見えた。
「……えっと、なんだっけ?」
「抱いて」
「え?」
「抱いて」
ちょっと聞き間違いかな?
いやいや、小学生だぞ。そのままの意味に違いない。
そうだとしても、こんな大勢の前でそんなことできるわけなかった。
「……ぷぅー!」
「あー! わかったわかった! はい!」
「わっ!」
リスみたいに頬を膨らませたから急いで抱いてあげた。
すると背中に手を回されてものすごい力で押さえつけられる。
これ霊力強化してる。絶対してる。
「リーエル、そ、そろそろいいんじゃ?」
「あーあ! やらしーんだぁ! リーエルと神の子、やーらしー!」
「鬼姫! 何を誤解をまねくことを……」
「鬼姫には頭突きしたくせにー! 神の子はやらしー!」
「おいっ!」
こいつ、実は根に持ってるな?
強引にキスしてきたから黙らせただけなのに、とんでもない印象操作だ。
「ふむ、陽夜はそういうことが好きなのか」
「いや、違うからね。ヒリカ、誤解しないでね」
「わかっている。男子たるもの、そうでなくてはと父も言っていた」
「どういうこと!?」
ヒリカが意味深なことを言ってくれた。
華恋は強引に引き剥がそうとしてくるし、本当に少しは安らがせてくれ。
今日はあのヤマガミと戦って本当に疲れたんだからさ。
こんなてんやわんや状態で夜は更けていく。
* * *
疲れがあまり取れないまま朝を迎える。
豪先生が作ってくれた朝食の目玉焼きハンバーグを食べてから、広場へ集合する。
朝からなかなかヘビーな朝食だった。さすがに張り切りすぎでは。
「はーい! 皆さん、おはようございます! それでは今日は皆さん、私と訓練しましょう!」
二日目の訓練の内容はオレも聞いていない。
不和利先生の前に並ぶ日本人形達の時点で嫌な予感しかしないけどな。
もう大体予想がついたぞ。
「今日はですねー。森でこの子達と戦ってもらいます! 入学試験で馴染みのある人はいると思いますが、あの時とは一味違いますよー! もちろん私も少し本気を出します!」
「そうだ! 皆! 不破先生直々の訓練だからな! 気合いを入れてがんばれよ!」
豪先生、朝食も褒められたからって浮かれすぎでは?
「知ってる人はいるでしょうけど、あの子達の攻撃を受けると気絶しますー! そんな中であの子達に一発ずつ当ててください! あ、陽夜君! 退魔術で燃やしちゃってもいいんですよー!」
不和利先生の笑顔がどこかぎこちないな。
実は根に持ってるんじゃないか?
「先生、今回は各クラスごとにチーム分けはされてないんですか?」
「はい、空呂君。今回は全クラスで協力して立ち向かっていただきますー! 森の中でやられちゃっても先生達が助け出すのでご心配なくー!」
「やれやれ……何が狙いなんだか……」
空呂の心配はもっともだ。
だって入学試験の時とまったく同じことをやってもしょうがない。
不和利先生、何を企んでいる?
なんて思っていると、日本人形達がとことこと森の中へ入っていく。
「アハハハッ! なーに、あのおにんぎょー! よわそー! ねー! 神の子!」
「いや、一撃でも当てられると終わりだからね。防衛ゲームの時とまったく同じ条件だって忘れちゃいけないよ」
「あーー! そっか! まーたいっちゃうとこだったー!」
鬼姫は昨日の防衛ゲームから何も学んでないのか?
それはそれとして、あの人形の一撃必殺はどういう原理なんだ?
不和利先生に聞いても教えてくれないだろうからなぁ。
(あえて受けていてカラクリを解明してやりたくなるな)
などという無謀なチャレンジ精神がオレの中で頭をもたげた。
こんな時でもなければ解明するチャンスなんてないもんな。
負けても命まで取られるわけじゃないし、やってみる価値はある。
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