防衛ゲーム 3
「空呂、油断するなよ」
拠点に残っているのはオレと空呂だけだ。
周囲は林でどこから何が襲ってくるかわからないこの状況、オレ達は常に気を張っていた。
そして今――
「左ッ!」
オレが叫ぶと空呂がそちらに得物を向けた。
「極めて普通の銃」
空呂の極めて普通の銃から放たれた霊力の弾が林をぶち抜いた。
「ぎゃっ!」
誰かが叫んで、がさりと林から一人の男子が出てきた。
あいつはヒリカのクラスメイトだったか。
当たった箇所を撫でながら悔しそうにオレ達を睨む。
「くっそー、銃なんて反則だろぉ」
「極めて普通の銃は霊力で練り上げたものだよ。非力な僕でもこれなら君達と対等に戦える」
「神の子、やっぱり強すぎだろ……。ヒリカちゃん、ごめん……」
男子がとぼとぼと退場していく。
オレは改めて空呂君を観察した。
あの退魔術、極めて普通の銃はシンプルなんて言ってるけどなかなか凶悪だ。
普通の銃と違って障害物は貫通するんだからな。
威力は普通の拳銃と同等らしいから、守先生の退魔術がなかったらあの男子は致命傷だ。
小学生がいつでも取り出せる銃を持っていると考えると怖いものがある。
名前がシンプルってのも嫌らしいな。
障害物を貫通できる銃のどこがシンプルだよと突っ込みたくなる。
「その退魔術は名前の通り、シンプルながらに強いなぁ」
「でも君が敵の位置を教えてくれなかったら、たぶん早い段階で脱落していたよ。さすがの霊力感知だね」
「オレが霊力を感知して空呂君が敵を狙撃する。これで拠点の守りは固いよ」
これがオレ達の作戦だ。
あえて拠点の守りは薄くしてある。
油断を誘うためというのもあるけど、残りのメンバーには各自隠れることを優先してもらっていた。
オレ達は最初から敵の大将を狙っていない。
この一週間で皆には霊力感知の基礎をある程度教えているから、簡単には見つからないはずだ。
終了時間までにより多く生き残っていれば勝ちだからな。
「鬼姫の奴、こないな。もしかしたらヒリカと激突しているのかも?」
「まぁ最初に脱落するとしたら、彼女だろうね」
「だよなぁ。あいつの性格を考えたらチームプレイなんて無理だし、絶対に単独行動をする。ゴリ押しが効きにくいこのゲームでそれは悪手だよ」
「だから陽夜はこのゲームを先生達に提案したんだろ? 策士だね」
空呂にそう評価してもらえると嬉しい。
このゲームの一つの目的は鬼姫達の慢心を打ち砕くことだ。
状況次第で力関係なんて簡単に逆転すると教えたい。
その思惑通り、鬼姫が脱落してくれていたら万々歳なんだけどな。
オレの霊力感知の範囲で鬼姫の反応はないから、どうなったんだか。
「左!」
オレが指した方向に空呂君がまた狙撃して一人仕留めた。
これ、全部ヒリカのクラスメイトだ。
おそらく隠れながら拠点を包囲するつもりだったんだろうけど、オレの霊力感知の精度は誤算だっただろう。
攻めあぐねているのが手に取るようにわかる。
「ヒリカの奴、そうまでしてオレがほしいのか」
「モテモテじゃん。男子冥利に尽きるよね」
「それ本気で言ってる?」
「全然」
この皮肉っぽいところが空呂らしいけどさ。
ヒリカも思考の根本は鬼姫とそこまで変わらない。
オレに力を見せて屈服させて、自然と従うように仕向けてくるはずだ。
その証拠にさっきから必死に攻め立ててくる。
ヒリカはどこに――
「……ッ! 空呂! 避けろッ!」
オレが叫んだ時には遅かった。
矢が後方から飛んできて空呂の肩に命中する。
「くっ……! まさかそっちから来るとはね……」
「ヒリカの奴、オレの感知外から狙撃してきやがったな」
最初に空呂が倒したクラスメイトは囮の可能性がある。
わざと見つかるように近づいておいて、本命は別の場所から狙い撃つ。
というかクラスメイトを使ってオレ達がどこまで感知できるか、探っていたな。
「これはちょっとまずいな」
オレは少しずつ移動して霊力感知の範囲をずらした。
すると後方にヒリカのものと思われる霊力反応がある。
なるほど、マジでギリッギリのところにいやがるな。
「金剛盾」
後方をガードしつつ、オレが警戒していると草むらから二人ほど飛び出してきた。
「神の子! いただきぃ!」
「そりゃーーー!」
男子と女子二人が真正面から挑んでくる。
オレは息を吐いてから冷静に二人に拳と蹴りを当てた。
「ぎゃっ!」
「ウソッ! 何されたの!?」
オレはすかさずしゃがんだ。
その直後にヒリカの矢が飛んできたからだ。
あいつ、オレが攻撃したタイミングを狙ってきやがったな。
まだこの辺りにヒリカのクラスメイトが潜んでいる。
こいつらを使ってなんとしてでもオレに当てにきていた。
(狩人に狙われる獲物ってこんな気分なのかな)
オレは間違いなく狩られる側だ。
ヒリカはまたオレの感知外に逃げて位置を変えた。
あの弓の退魔術、シンプルながらに恐ろしい。
普通の弓と違って矢の補填もないから、放った直後にまた矢が出現する。
つまり連射が可能なわけで、空呂の退魔術のほぼ上位互換だ。
何より射程が段違いに長い。
「ハッ!」
なんて叫んでオレはヒリカの矢を回避した。
先読みで動かないとあの速度の矢はまず回避できない。
タイミングを合わせて出てきたのか、ヒリカのクラスメイトが同時にオレの蹴りで退場していく。
「くそーっ……やっぱり神の子は強すぎる……」
それから少しの間、大人しくなった。
どうも外したのが想定外だったのかもしれない。
クラスメイトだって無限にいるわけじゃないし、それで油断を誘えなくなったら終わりだからな。
「面倒だな……木の印、雷衝撃」
オレは片手を振るって隠れているヒリカのクラスメイトに静電気程度の衝撃を放った。
「いてっ!」
「いたぁ!」
「あ、あれ? 何が当たった!?」
これでもこのゲームだと失格になる。
全員の位置を今頃になって把握できたのも、空呂が粘ってくれたおかげだけどな。
さて、残るは獰猛なハンターのみだ。
オレはあえてヒリカがいる方向を向いた。
お前の居場所はわかってるんだぞという意思表示だ。
さぁ、こい。
なんて思っていたらヒリカが遠くから近づいてきた。
それも堂々と弓を構えながら。
「さすがだな。こちらの作戦がことごとく失敗に終わった」
「だけどこんなに近づいてきて大丈夫なのか?」
ヒリカは問題ないといったように笑った。
「この距離なら絶対に外さない。つまり君は詰んでいる」
「なるほど、位置がばれているなら少しでも命中精度を上げようってことだな」
「陽夜、君が負けたら私と共に歩むと誓ってほしい」
オレはわざとらしく頬をかいた。
これがやりたかったとわかっていたけど、いざ目の前で言われると少し面白い。
そこでオレはあえて両手を広げた。
「あぁ、どのみちこの至近距離じゃかわせない」
「賢明な判断、感謝する」
ヒリカが矢を放つ直前、それは起こった。
ヒリカの足元から蔓が伸びて彼女の手首に巻き付いて引き寄せる。
その拍子に弓の照準がずれてしまった。
「なっ!?」
その瞬間を見逃さず、オレはすかさず接近。
「至近距離でかわせないのは、お前だよ」
オレが拳をヒリカに叩き込むと、白い光がパッと消える。
ヒリカは何が起こったのかわからないといった感じで尻餅をついてきょとんとしていた。
「わたくしをお忘れかしら?」
「か、華恋……!」
華恋が木陰から姿を現した。
その辺りに潜んでいるのがわかっていたから信じてよかったよ。
「その様子だと、やっぱりわたくしを軽んじていたみたいね。反省なさい」
「こんな……こんなこと、こんなバカな……」
ヒリカが観念したように地面に手をついて落ち込んだ。
あの気丈なヒリカのこんな姿が見られるなんてな。
これで少しは懲りてくれると嬉しいんだが。
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