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防衛ゲーム 1

「空気がおいしいなぁ!」


 週末、三クラスは学園が所有する山の中にある宿泊施設に来ていた。

 山の中腹にあるこの場所の周囲には当然民家も店もない。

 高学年で実施する林間学校のための施設らしいけど、今回は特別に使用許可が出たみたいだ。


「裏山とは違った空気だよね、リーエル」

「くんくん……おいしい?」

「ホントに?」


 リーエルにはこの新鮮さが理解できないか。

 その点、華恋(かれん)は大きく息を吸って堪能しているというのに。


「陽夜さん、このおいしさは格別ですわ! まるで高級ディナーに劣らないほどの味わいですの!」

「それはそれでなんか違う気がするけどな」


 わざとらしさが拭えないけど、わかってもらえたならいいか。

 そんなことよりオレ達はここに遊びに来たわけじゃない。


「皆さん! お疲れ様です! 午前中は山登りで疲れたと思うので予定通り昼食後に防衛ゲームを始めますね!」


 不和利先生が言う通り、オレ達はこの山で防衛ゲームをする。

 ルールはそれぞれのクラスが分かれて拠点を持ち、そこに大将が待機することになっていた。

 原則として大将は拠点の範囲から動くことができない。


 大将はそれぞれのクラスで各自決めること。

 大将は拠点から動けないけど自衛はOKとする。

 敗北条件は大将が倒されるか、全滅するかのどちらかだ。

 同盟を組むなどの結託は禁止。


 大将だけを狙うか、籠城して防衛に徹するか。

 それともひたすら攻めるか。

 制限時間内に最後まで生き残ったチームの勝ちだ。


「おし! 皆! 今日は俺がメシを作ってやるから腹いっぱい食べてからゲームに挑むんだぞ!」


 筋骨隆々で特に上腕二頭筋がすごいあの先生は鬼姫(きき)のクラスの担任である森谷 豪先生だ。

 ジャージを着て木刀を持って校内をうろついてそうな体育教師って感じだけど、案外優しいらしい。


 ただしエプロンが死ぬほど似合ってない。

 大丈夫かとおそらく誰もが思ったが、カレーライスは絶品だった。


「まぁ、森谷先生。とても料理がお上手ですね」

「ふ、不破先生!? は、はいっ! それはもう! 今の時代、男も料理ができなければいけませんからな! ハハハッ!」


 うん、あれはわかりやすいな。

 なるほどねぇ。

 などとカレーライスを食べながらオレは邪推をしてしまったのだった。

 そして午後、いよいよ防衛ゲームの始まりだ。

 全員、宿舎前に集まってまずは大将を宣言する流れだな。


「神の子、約束忘れてないよねー? 結婚! 結婚!」

「わかってるって。君が勝ったら、な。それより敵はオレだけじゃないよ」

「敵ねー……あんまめぼしーのいないよ。結局、鬼姫(きき)が一番強いんだからねぇ」

「どうかな」


 鬼姫(きき)は浮かれているけどこの防衛ゲーム、実はまだ説明していないことがある。

 その種明かしをするために倉敷先生がコホンと咳ばらいをして説明を始めた。


「この防衛ゲームのために一つ、私から皆さんに退魔術を施しましょう。遵守すべき百人百色(オーバールック)


 守先生から放たれた霊力を浴びた直後、オレの体がうっすらと紫色に輝く。

 隣にいるリーエルは水色、華恋(かれん)は桃色だ。

 空呂は青色、ヒリカは白色で鬼姫(きき)は赤色と、まさに色とりどり。

 一人として同じ色で光っている生徒がいない。


「なんだ、これは……。倉敷先生、何をした」

「ヒリカさん、心配する必要はありません。これは皆さんを守るための退魔術です。私は各色がついた人物の居場所をすべて把握できます。同時に、一度だけ霊力や呪力による攻撃を防ぎます」

「な、なんだと……とてつもない退魔術ではないか……」

「ただし一度攻撃を防いだ後は色は消え去って、対象の人物は12時間ほど霊力の行使や退魔術が使用できなくなります」


 オレも最初に聞いた時は冗談かと思ったくらいだ。

 倉敷 守先生。中の位の退魔師というけど実際はもっと上の実力があるように思える。

 周囲の先生達もなんで学園で教師をやっているのかわからないと囁くほどだ。


「攻撃を受けて色が消えた生徒は失格、ゲームから退場していただきます」


 守先生が笑顔のまま説明した。

 一度でも攻撃を受けたら終わりというのがシビアだな。


「ハッハッハッ! 倉敷先生の退魔術はいつ見ても圧巻ですな! この森谷 豪、安心して生徒達の安全を守れるというものです!」

「森谷先生には脱落した生徒の救出をお願いしております」


 守先生がほがらかな笑顔をオレ達に向けた。

 この退魔術、これでもまだ底を見せていないように思える。

 それにあの先生自体が、どこか捉えどころがないんだよな。


「私は皆さんがずるいことをしていないか、ちゃーんと見守ってますよー! この子達と一緒に! この防衛ゲームでは霊力以外の使用を禁止します! 例えば罠とか張っちゃダメですからねー!」

「オマエラ、ズットミテイルカラナ」

「クソミタイナコトシタラ、シバクゾ」


 相変わらず呪いの人形みたいなのが物騒なことを口走っている。

 ちなみに式神の使用も禁止されているから、オレもあまり大きな動きはできないだろう。


「罠の禁止、か。ゲームとはいえ、あまり気持ちのいいものではないな」

「あれぇ? ヒリカ、もしかして罠でも張ってずるいことしようとしてたぁ?」

「罠がずるいとは心外だな。厳しい北の大地で生きるには罠は必須だったと父から聞かされている」

「ふーん、鬼姫(きき)達はそんなことしなくてもじゅーぶん強かったからねぇ」


 ヒリカと鬼姫(きき)の間ですごい火花が散っている。

 あの二人は激突確実か?

 オレ達のほうはこの一週間、ずっと作戦を練ってきたつもりだ。

 後は本番で出し切るのみ。


「では各クラスの大将はどなたですかー?」

「オレです」

「私です」

「ぼ、ボクです……」


 これは意外だ。

 大将に名乗り出たのはオレ、他二人はヒリカでも鬼姫(きき)でもない。

 気弱そうな男子と平凡そうな女子だ。


「二組の大将は陽夜君、三組はアイリさん、四組はホロさんですね。わかりました。皆さん、確認しましたね?」


 大将については最後まで揉めた。

 クラスで一番実力があると言われているオレが自由に動いたほうがいいとは思う。

 だけどそこで待ったをかけたのが空呂だ。


 敵の出方や大将がわからない以上、こちらの大将を盤石な人物としておくのが得策だそうだ。

 案の定、あっちの大将はヒリカでも鬼姫(きき)でもない。

 つまりこの二人は自由に動けて、尚且つオレを積極的に狙ってくる可能性がある。


 だとしたら二人の猛攻をしのげる人間がいるとしたらオレしかいない。

 そんな思惑を抱えつつ、オレは拠点へと移動した。

 ゲーム開始まであと一分、オレの近くにいるのは空呂だ。


「空呂、ここにいていいの?」

「僕ががむしゃらに動いたところで敵の餌食だ。それなら敵が狙ってくるとわかっている場所にいたほうが都合がいい。僕の退魔術的な意味でもね」

「空呂の退魔術は強いよなぁ。このゲームと相性がいいんじゃないか?」

「そうだと思いたいね」


 空呂はメガネを指で動かした。

 その仕草、メガネをかけてる人って皆やるよね。

 やっぱり位置がずれるものなのか?

 なんて考えていると、いよいよゲームが開始した。

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