3クラスの妥協点
リーエル達が鬼姫のクラスの連中と争った翌日、三クラスが体育館に集められた。
オレ、ヒリカ、鬼姫のクラスが一堂に会しているから、ギスギスした空気が張り詰めている。
「おうおう! 昨日はよくもやってくれたなってかぁ!」
「えっと、あなた誰でしたっけ?」
華恋に鬼姫のクラスのガローという男子生徒が絡んでいる。
昨日の今日で元気だな。
「昨日、お前の蔓にやられたガローだ! 少し手加減してやったら調子に乗ったってかぁ!」
「朝っぱらからうるさい囀りですこと。気品の欠片もありませんわ」
早くも一触即発だ。
それ以外も各クラス同士でいがみあっている状況だし、手を打っておいて正解だったな。
先生達、早くこないかな。
「朝から話ってなんなのかなー? ねー、神の子?」
「もうすぐ先生がくるから待って」
「この前の頭突き、すっごく痛かったよー? 鬼姫ね、あれでわかっちゃったの。やっぱり鬼姫と結婚するのは神の子しかいないって!」
「それはよかったね」
などと意味不明な供述をしており、オレは真剣に相手をしなかった。
この鬼姫も親の操り人形になっていると思うと同情できるけどな。
その点においてはヒリカもそうなんだろう。
「陽夜、この前は止めてくれて感謝する」
「君の気持ちもわかるよ。今の状況は一刻も早くなんとかしないといけない」
ヒリカが何か質問をしようとしたみたいだけど、先生達がやってきた。
不和利先生が手をパンパンと叩く。
「はいはーい。皆さん、おはようございます。今日は授業を始める前に少しお話があるんです。えっと、倉敷先生からお話します?」
「不破先生で構いませんよ。あ、森谷先生どうですか?」
「え? いやいや、てっきりお二人のどちらかからお話すると思っていましたが……」
開幕から三クラスの担任がグダっているんだが。
一年二組の担任、不破 不和利先生。オレのクラス。
三組の担任、倉敷 守先生。ヒリカのクラス。
四組の担任、森谷 豪先生。鬼姫のクラス。
三クラスそれぞれの担任が集まったんだから、生徒達も穏やかじゃない。
この流れだとお説教があると考えるのが子ども達だ。
「まぁ、何かしら? リーエルさん、あなた何かやったのではなくて?」
「華恋が鞭でペシペシした」
「まぁーー! あなただって水鉄砲で何人か倒したのではなくて!?」
「えっへん」
「褒めてませんことよ!」
そこの女子二人、うるさい。
先生達のほうでようやくまとまって不和利先生が話すことになったみたいだ。
「気を取り直して……。最近、皆さんは仲良くできずにケンカばかりしているようですね」
さすがに先生直々に咎められたとあって騒ぐ生徒はいない。
鬼姫も目を逸らして口笛を吹くようなポーズを取っている。
ベタすぎるだろ。
「それは仕方ありません。日本各地から色々な生徒が集まったのです。時にはぶつかり合うこともあるでしょう。しかしながら、必要以上に傷つけるのは看過できません。これ以上、続くようであれば家庭訪問、もしくは面談を行います」
「面談ー? 不和利せんせー、やめたほうがいいよー。とーちゃん、怒ったらバチクソ怖いんだからぁ」
「親を恐れて教師などできますか」
不和利先生の声が低くなった。
いつも間延びしたような喋り方をしているもんだから、ギャップがすごいな。
さすがの鬼姫もこれには言葉を引っ込めたみたいだ。
「家庭訪問や面談で解決できないのならば、私達が責任を負います。家庭で教育できないなら、私達が全力で……ね?」
日本人形達の迫力も相まって、生徒達がやや血の気が引いた顔をしている。
このままだと教師、特に大人を怒らせたらどうなるかを思い知ることになるだろう。
ましてやこの学園ではPTAや教育委員会が守ってくれない。
その意味を誰もが理解していた。
「……とまぁ、物騒なことを言いましたがそれはあくまで最終手段です。皆さんには別の解決策を提案しましょう。それは三クラスにおける合同訓練の実施です」
ここで皆がざわつく。
昨日、花壇に行く前にオレが先生達と話していたのはこの件だった。
この状況をどうしたものかと考えた結果、全員の妥協点を見極めたつもりだ。
「なー、ごーどー訓練ってなに?」
「鬼姫さん、合同訓練というのは三クラスで一緒に訓練をすることです。場所は学園が所有する山で行います」
「一緒に訓練ー? そんなのつまんないよぉ。それより皆で戦って誰が強いか決めたほうがいいって!」
「もちろんあなた達の欲求解消のことも考えてありますよー。三クラスが揃うんだから、そこで一つ勝負をしていただきますー」
勝負と聞いて鬼姫が顔つきを変えた。
ずっと腕組みをしていたヒリカもピクリと反応する。
「合同訓練は休みを利用して行います。初日にやるのは防衛ゲーム、翌日に行うのは……フフ、これは秘密です」
「防衛ゲームー?」
「……各チームの大将、もしくは陣地を取り合うものだろう」
ヒリカの察しの通りだ。
あくまで健全なゲームで各クラス同士、決着をつけてもらう。
これが第一の妥協点だ。
「ヒリカさんが言った通り、各クラスは一人ずつ大将を決めていただきますー。大将を打ち取られたチームの負け、最後まで生き残ったチームの勝利となりますー」
「先生、退魔術の使用は認めるのですか? だとすれば、怪我などの心配が懸念されます」
「空呂君、安心してください。退魔術の使用はOKですが、怪我の心配はありません。それはこちらの守先生の退魔術で対応します。知ってる人は知ってると思いますけどね」
「あぁ、それなら確かに問題ないか」
さすが空呂、守先生の退魔術まで知っていたか。
オレはこの話を先生達に持ちかけるまで知らなかったんだよな。
そう考えると、やっぱり只者じゃないな。
「へぇー、だったら鬼姫のクラスの圧勝だねー。ねー、皆?」
「当然ですよ。それにただの勝負ではない以上、いくらでも手立てはあります。特に無駄に才能に恵まれた女子二人は気をつけるべきでしょうねぇ」
鬼姫に従順なのはナクモとかいう男子か。
駆け付けた時にちらっと見たけど、あいつの退魔術なら爆発的なアドバンテージを取れるだろうな。
そのナクモが当てつけた女子二人はどこ吹く風といった感じだけど。
「ヨーヤ、ゲーム楽しみだね」
「そうだな。華恋はどうだ?」
「わ、わたくしも楽しみですわ!」
本当か?
お遊びなんてやってられませんわとか言いたそうだけど。
「合同訓練は次の休みの日に行いますー。それまで各クラスで作戦を練ったり訓練でも何でもやってみましょうね」
「先生、二日目に行う内容について教えてもらえないんですか?」
「空呂君、だからそれは秘密なんですよぉ。フフフ……」
これについては今は伏せておくべきだろう。
今からそれを言っても下手をすれば反発を招くからな。
「なー、神の子ー。これで鬼姫が勝ったら結婚しようねぇ」
「あぁ、いいぞ」
「え? ホントにぃ?」
「ホントだ。ただし鬼姫、お前が負けたらもう二度と各クラスにケンカを売るな」
オレが力強くそう告げると、鬼姫は大はしゃぎだ。
一方でリーエルがきょとんとして腕をくいくいと引っ張る。
「……ヨーヤ?」
「心配するな。絶対に勝つ」
「結婚、するの?」
「だから勝つから」
リーエルが頭をふるふると振って不安そうにしている。
気持ちはわかるけど、そもそもお前とも結婚するとは言ってないんだよなぁ。
勝手に婚約者になってるけどさ。
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