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鬼ヶ島 鬼姫

 廊下で対峙しているのは全部で三人、男子二人と女子一人だ。

 男子のほうはいかにも悪そうなやんちゃ坊主といった感じで、背がオレ達より少し高い。

 もしかしたら二年生かな?


「一年生のガキが舐めた口を利きやがって! 誰がザコだぁ! あぁコラッ!」

「女のくせに生意気なんだよ」


 このご時世にその発言はまずいだろうと突っ込みたい。

 その一年生のガキは真紅の赤髪に日焼けしたような肌が目立つ女の子だ。

 あれは確かオレ達と同じ一年生の鬼ヶ島鬼姫(きき)


 鬼の末裔ということで頭からは二本の角がぴょこんと生えていて、口元にはかすかに牙が見える。

 闘衣(アルマ)は鬼柄のビキニみたいなもので、露出的にあれで外を歩いて大丈夫かとさえ思えた。

 そんな鬼姫が牙を見せてニッと笑う。


「だからぁ……何度でも言うよ? よわよわのざっこざこなのに威張り散らして恥ずかしくないのぉ?」

「三年生にケンカを売って無事に済むと思うなよッ!」


 激昂した男子が殴りかかった。

 三年生ともなれば霊力強化の練度は一年生とは比べものにならない。

 少なくともオレのクラスメイトのそれよりも遥かに練り上げられていた。

 ところが――


「いっちゃえっ!」


 鬼姫の蹴りが男子の頬にめり込む。

 その直後、壁に激突してずるずると体が落ちた。


「あっ……あっ……」


 男子がピクピクと痙攣している。

 その様子を見たもう一人の男子が一気に青ざめた。


「な、なんだ、おい……なんだよ……」

「お前もいけっ!」


 鬼姫(きき)が狼狽える男子の顔面に容赦なく拳を入れた。

 殴り飛ばされた男子は数メートルほど吹っ飛んで廊下を何度かバウンドする。

 数回目のバウンドの後、ようやく男子がぐったりと倒れて痙攣を始めた。


「な、なんですの! あの子!」

「……鬼ヶ島 鬼姫(きき)。かつて日本に存在した鬼が人間と交わることによって繁栄した。恐るべきは退魔術を一切使わないこと……だったかな」

「陽夜さん、霊力強化だけで!?」


 華恋(かれん)は霊力強化だけという事実に驚いているが、オレは違う。

 本当に怖いのはその身体のバネだ。


 拳に対してありえない体勢から蹴りを放ってカウンターをするなんて、オレでもできない。

 しかも初速から勢いマックスで、溜めというものがほとんど見られなかった。

 体術に特化、いや。体術の極致ともいえる。


「早すぎるよー。もういっちゃったの? おーい? つんつーん」


 鬼姫(きき)が倒れた男子を指でつっついている。

 その後ろに立つのはあのヒリカ、冷徹な視線を鬼姫(きき)に突き刺していた。


「およ?」

「鬼ヶ島 鬼姫(きき)。どんな諍いがあったのかは知らないが、さすがにやりすぎだろう」

「君、確か……えーと、クロシロ?」

「狩代ヒリカだ」

「そうそう、狩代! もぉー、鬼姫(きき)ってば名前覚えるの苦手なんだよねー!」


 てへっとばかりに鬼姫(きき)が舌を出す。

 天然なのか煽ってるのかわからんな。


「おい、ジン! 先生を呼んでほしい! お前の足が一番早い!」

「おうっ!」


 ヒリカのクラスメイトのジンという男子が走って廊下から消えた。

 本当に早いな。さすがクラスメイトの長所を見抜いている。


「えーなになに? せんせーに言いつけちゃおってわけー?」

「男子の怪我といい、お前の素行を考えれば当然だ」

「でもあいつらが鬼姫(きき)の角とかバカにしてきたんだよー? ヨワヨワのくせにさぁ」

「これだけの人数が集う学び舎だ。お互いの思想も違えば誤解もあるだろう。いきなり暴力で解決など愚策もいいところだ」


 ヒリカは依然として言い放つ。

 鬼姫(きき)はヒリカに対してふーんとばかりに後頭部に腕を回した。


「ヒリカはバカにされたことがないんだー。だからそんなてきとーなことが言えるんだねー」

「なんだと?」

鬼姫(きき)達、鬼人族はねー。ずっとバカにされてきたんだよ? だからほとんど島から出ないままずーっと暮らしてきた。でもねー、それももう終わりっ!」


 鬼姫(きき)がはしゃぐようにしてステップを踏んでいる。

 その仕草が馬鹿にしているとも取れて、ヒリカの表情は険しい。

 そうだよな、実はすごくプライドが高いもんな。


鬼姫(きき)がこの学園をトーイツするの! 鬼人族はずーっといじめられてきたけど、鬼姫(きき)がそんなこと起きないようにすればいいの! 鬼姫(きき)がトーイツしたら、誰も鬼姫(きき)達をバカにできなくなるの! ね! いい考えでしょ!」


 シンプルな暴論を楽しそうに話す鬼姫(きき)

 ヒリカだけでも絶妙に思想が危ういのに、またとんでもないのが出てきたな。

 こっちのほうがわかりやすい分、マシとも言えるが。


「そんなやり方では何も解決しない。暴力は新たな暴力を生む。永遠に終わらない負の連鎖だ」

「ふのれんさー? 終わらなくないよ? 殴って倒せば終わるもん」

「倒した相手の仲間がくる。そうなればあっという間に戦火が広がる。お前のやり方では待っているのは破滅の未来だ」

「ヒリカ、むずかしーこと言うねー。片っ端から倒せばよくない?」


 うん、これは平行線だ。

 それどころか一触即発、争いでは何も生まないと言っているヒリカがすでに臨戦態勢に見える。


「それにすでに鬼姫(きき)のクラスの皆は鬼姫(きき)の言うことを聞くよー? ねー?」

「はいっ!」


 遠巻きに見ていた鬼姫(きき)のクラスメイトがビシッと姿勢を正している。

 あっちもあっちで洗脳が進んでいるな。ここ一応、小学校なんだけど。


「見下げたやり方だな。呆れてものも言えない」

「ヒリカは鬼姫(きき)が気に入らないんでしょー? だったらやろーよ? ね? やっちゃう?」


 鬼姫(きき)の挑発にヒリカが乗りそうな雰囲気だ。

 このまま開戦させてしまうか?

 リーダーを気取るわけじゃないけど、見過ごせないな。


「待ってよ、二人とも。こんなところでケンカをしても何も始まらない」

「ん? あー! 神の子! 神の子だぁー!」

「は? ちょ!」


 鬼姫(きき)が有無を言わさず抱き着いてきた。

 しかもリーエルと違ってとてつもない力で拘束されてしまう。


「神の子! 鬼姫(きき)ねー! とーちゃんに神の子と結婚しろって言われたの!」

「なんでだよ!?」

「鬼人族の血がどーとかむずかしーこと言ってたけどよくわかんない! ね! 結婚いいでしょー!」

「よくない! 離れろ!」


 なんて口で言うけどこいつ、とんでもない力だ。

 オレの単純な妖力強化で振りほどけないとか化け物かよ。

 しかもリーエルの目が据わって杖を取り出したし、華恋(かれん)も霊力を高めている。


「わたくしの前で、ずいぶんと大胆ですのね」

「ヨーヤから離れて」


 リーエルのやつ、自分もしょっちゅう抱き着いてくるくせに。

 友達がどうとか言ってるけど、あいつなりに超えられたくない一線はあるんだな。

 このままだと校内大決戦が始まってしまう。

 先生、まだかよ。なんて期待している場合じゃない。


「じゃー、キスしよ! キスキスキスキスーー!」

「ふっざけんなぁ! ぶっとべぇ!」


 オレは妖力に言霊を込めて渾身の頭突きをかました。

 まるで大岩に頭突きしたかのような衝撃でオレ自身も意識が飛びそうになる。


「んぎゃ……はれ……ぴよ、ぴよ……」


 無事、鬼姫(きき)がふらふらと離れていってパタリと倒れた。

 ピヨピヨとか口で言ってるけど、本当にヒヨコが飛んでいるように見えるな。

 つまり気絶している。


「よ、陽夜さん……」

「ほう、これが神の子の力か」

「ヨーヤ、すごい」


 三人の女子達が感心しているけど、これ本当に痛い。

 油断してくれていたから成功したようなものだけど、頭突き合戦でもしたらどうなるか。

 鬼ヶ島家 鬼姫(きき)。こいつはまたとんでもないのが現れた。

 それにしてもあぁクソ、いてぇ。石頭ってレベルじゃないぞ。

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