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討伐実習と怪位

「皆さん、今日は楽しい楽しい呪霊討伐実習を行いますー!」


 不和利先生が元気ハツラツといった感じで笑顔だ。

 呪霊討伐実習、それはもちろん将来に向けた訓練に他ならない。

 これに心躍ったのは当然クラスメイト全員だ。


「討伐! 待ってました!」

「オレ、霊力強化なら負けないぜ!」

「私なんか、もう少しでちゃんとした退魔術を使えるようになるよ!」


 女子のちゃんとした退魔術というのは、リーエルや華恋が使っている水も滴るいい魔女(マイ・テティス)美しい雪月花(ディアアプロディ)のことだ。

 これらは本来、霊力の応用の最上位に当たる。

 あらゆる基礎を積み重ねた上で自己を正しく理解して、霊力を明確な形にするのが学園生活での最終目的だ。


 といってもリーエルや華恋なんかは血筋の影響もある。

 先祖代々受け継がれてきた退魔術は子どもにも受け継がれて、すでに体内で形になっているケースが多い。

 二人の場合はまさにそれだ。


「はぁ……今更、討伐ですの? わたくしと陽夜さんにとってはあくびが出る実習ですわ」

「ヨーヤはあくびしない」

「まぁリーエルさん、そんなことありませんわ。陽夜さんなんてすでにトイレのハナコさんを討伐してますのよ?」

「でもあくびはしない」


 うん、あくびはしないな。

 確かにオレはトイレのハナコさんとかいう呪霊を討伐している。

 だけど基礎を疎かにするつもりはない。


 なぜなら呪霊は確かに怪位ごとに危険度が区分けされているが、それが必ずしも絶対じゃないからだ。

 例えばオレが最初に祓ったペアレントなんかよりも、人によっては下の怪位の呪霊に狡猾に攻められるほうがつらい。

 それは退魔術や個人の資質との相性にもよる。


 オレなんかも変な絡め手でこられるよりは、ハナコさんみたいなわかりやすい相手のほうが都合がいい。

 逆に第一や第二の段階で絡め手で攻められると途端に足元をすくわれかねないはずだ。

 怪位はあくまで指標であって、絶対的なものじゃない。

 というのが父さんの教えだ。


「ねぇ、陽夜さん。あくび、出ますわよね」

「いや、出ないよ」

「でもハナコさん以下の呪霊なんて退屈でしょう? あくび、出ますわよね?」

「色々な呪霊と戦って経験を積めるんだから、退屈なんてことはないよ」


 オレは頑なに自論を崩さなかった。

 言葉の通りだ。この呪霊学園にはまだまだ呪霊がたくさんいる。

 トイレのハナコさんなんて氷山の一角だろう。


「陽夜さんったらやけにリーエルさんの肩を持ちますのね」

「いや、どこが?」


 華恋が口を尖らせてしまった。

 あくびに拘ってるのは華恋のほうだと思うんだけど。


「実習といっても、皆さんに討伐していただくのは何もそこまで強力なものではありません。第一怪位ばかりですよ」

「先生、呪霊の怪位についてもう一度だけおさらいをしたほうがいいのでは?」

「空呂君、いいですねぇ。討伐実習の前ですからね」


 そう言って不和利先生が日本人形を操って黒板にチョークで文字を書いた。

 授業にまであの人形を取り入れるとか、完全に狂ってる。


「怪位というのは要するに呪霊の害悪度なんですよねぇ。それは今まで実際に出した被害やこれから起こりうる被害も加味されて、退魔師協会が認定します」


第一怪位

個人に身体に何らかの影響を及ぼす。

体調を崩すなど。


第二怪位

複数人の体に何らかの影響を及ぼす。

体調の他、怪我をしたりなど。

曰くつきの土地で事故が多発する場合など。


第三怪位

一人以上の殺害実績がある。


第四怪位

三人以上の生命が危険にさらされた。

もしくは三人以上が殺害された。

この辺りから町単位への被害が懸念される。


第五怪位

四人以上の生命が危険にさらされた。

町単位への被害をもたらした。


第六怪位

この辺りから被害予想がつかず、未知の領域。


 黒板に書かれた怪位の基準に生徒達が関心を示した。

 オレが祓ったハナコさんは中の位の退魔師を二人以上殺害している。

 その事件以来、被害が出てないならハナコさんはあちら側の世界にいったのかもしれない。


「先生、第六怪位より上はあるんですか?」

「あります。ただしこれより上となると、実際に被害が出てからでは遅いレベルの呪霊……つまり触らぬ神に祟りなし、なんて呼ばれるような相手ですねぇ」


 生徒の質問に対して不和利先生がニコニコしながら答える。

 なんでそんなに楽しそうなんだ。

 生徒達がゾゾゾーとばかりに寒気を感じていた。


「でも大丈夫ですよ! 呪霊学園といっても第一怪位の中でも一番弱い呪霊しかいません! では手始めに廊下に出てみましょう!」


 不和利先生に引率されて向かったのは初等部棟の東にある廊下だ。

 ここはあらゆる場所にいくにしても不便で、ほとんど誰も近づかない。

 病院だった場所を学園として強引に改装したせいで、この学園にはこういった利便性に乏しい場所がそこら中にある。


「あ、いますねぇ……」


 不和利先生が見つけたのは溶けかけた生首の呪霊だ。

 そいつが宙に浮いて廊下を左右に行ったり来たりしている。

 あれだけでも十分トラウマものだけど、これにびびってるようじゃ退魔師は務まらない。


「あの呪霊、皆さんだったらどう討伐します?」

「殴る!」

「蹴る!」

「暴行を加える!」


 殴る蹴るの暴行を加えるとか、ニュースで聞きそうなワードだな。

 あれ自体は大した呪霊じゃないけど、誰かに悪い影響を及ぼす可能性は十分ある。

 例えば一般人があれに憑かれたら体調不良くらいは引き起こす。


「そうですね。皆さんはまだ一年生だから、それで正解です。ですがこんなやり方を見せましょう」


 不和利先生が生首に手の平を向けた。


「……ハァッ!」


 その手の平から霊力が霧吹きみたいに放たれて生首が消し飛んだ。

 あれは霊力操作の基礎か。

 霊力で岩を動かしたりする以外にもああいう使い方がある。


「すごーい!」

「どうやったの!?」

「寺生まれみたい!」


 生徒達に絶賛されて不和利先生が得意げに胸を張る。

 日本人形も同じポーズをしているんだから、かっこいいやら悪いやら。


「今のは霊力を風のように操作して吹き飛ばしました。ああいう弱い呪霊なら触らずしてこうやって祓えるのですよ。霊力の操作を極めるとこういったこともできることを覚えておいてくださいね」


 確かにあの生首を殴るのは心理的に嫌だ。

 不和利先生は霊力の操作の範囲で色々な可能性を見せてくれているわけか。


「では次へいきましょうー」


 不和利先生がさっきと同じように案内してくれる。

 ここは一階の東階段を下りた先にある空き教室か?

 だけど何もいないな。


「えーと……おかしいですねぇ。つ、次へ行きましょう」


 不和利先生が慌てたようにして場所を変えたけど、次も当てが外れたみたいだ。

 今度は校舎を出てグラウンドを通り、隅にある雑木林。

 ここにも呪霊は存在せず、オレ達はひたすら歩かされた。


「呪霊を探しているのなら一足遅かったな」


 オレ達の背後から誰かが声をかけてきた。

 これは女の子の声か?

 オレ達が振り向くと、そいつは満足そうに笑いかけてきた。

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