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お見舞い

「華恋、調子はどうだ?」


 オレとリーエルは華恋が入院している病院にやってきた。

 華恋は念のため一日だけ入院することになったらしい。

 いわゆる検査入院ってやつだな。

 おそらく問題ないとは信じているけど万が一ってこともある。


「……よ、陽夜さん!?」

「そんなに驚くほど?」

「別に驚いてませんわ!」


 華恋が口を尖らせた。

 よく見ると顔が赤いから微妙に熱が出ているみたいだ。

 あまり長居はしないほうがいいかもしれない。


「君の父さんには学園長から話しておいたみたいだよ。謝りに来ただろ?」

「そこの床に二人揃って土下座をするものだから何がなんだかわかりませんでしたわ。陽夜さん、あなたの仕業?」

「学園長って言ったのに……」


 なんで秒でバレてるんだ?

 この様子だと何があったのか大体予想はついてるのかもしれない。

 華恋の両親は学園長の言いつけ通り謝ったみたいだけど、この先が不安だな。

 華恋はオレ達がお見舞いに来てもあまり元気がない。


「この大量の果物、誰が置いていったんだ?」

「お父様とお母様ですわ。これを供えるから何卒お怒りをお鎮めくださいなんて、どういうことなんですの?」

「さ、さぁ、わからないな」


 なんで華恋にお供え物をしてるんだよ。

 オレにやられたのがよほど堪えたのか。

 まぁ変に恨みを持たれるよりはマシだけど、これからの付き合いが色んな意味で面倒になりそうだ。


「華恋」

「リーエルさん、なぜあなたまで来てらっしゃるの? わたくしを笑いに来たの?」

「華恋、悔しかったり悲しかったらたくさんお話して」

「な、なんですの。気持ち悪いですわね」


 リーエルがベッドに手をついて身を乗り出す。

 確かに不思議ちゃんのリーエルがこんなに長いセリフを言うのは違和感あるな。


「私、華恋ともお友達になりたい」

「は? 何を言ってるのかしら」

「私、お友達ができたことなかった。なにをやっても私が皆に勝っちゃうから離れていく。それでずっと一人でいいと思っていた」

「……自慢ですの?」


 うん、今のところ自慢に聞こえなくもないな。

 でもリーエルなりにコミュニケーションを取ろうとしている。


「でも花壇の呪霊を祓ったら二年生の舞ちゃんがすごく喜んだ。なんか……仲良くなれた気がした」

「そ、そう」

「私、気づいた。お友達を作るには喜ぶことをしないといけない。舞ちゃんは花壇を守ってあげたから喜んだ。だから華恋の喜ぶことをしたい」

「私の喜ぶことがお話だとでも?」


 リーエルが少しだけ言葉を詰まらせた。

 こんなに長く話すなんて滅多にないからな。

 本人なりにがんばっているんだと思う。


「華恋が喜ぶことがわからない。でも苦しかったり悲しかったら私が聞く。そしたらヨーヤみたいに解決できるかもしれない」


 リーエルが不器用なりに本心を打ち明けた。

 華恋は白いシーツの一点を注視したまま喋らない。

 オレはリーエルの家の事情も何もかも知らないな。


 華恋もそうだけどリーエルにもそれなりに悩みがあったように見える。

 こうして歩み寄ろうとしてくれるのはオレとしても嬉しいけどな。

 特に華恋はなぜか一時期ストーキングしてきたし。


「……あなたは陽夜さんのことが好きなのでしょう?」

「大好き。結婚する」

「じゃあ仲良くできませんわ」

「なんで?」


 リーエルが聞き返すと華恋が沈黙した。

 本当になんでだ?


「な、なぜって、別に深い意味はありませんわ」

「じゃあ仲良くしよう」

「でも結婚するんでしょう!」

「する」

「では無理ですわね!」

「なんで?」


 華恋、どうしたんだ?

 さっきから話の要領を得ないな。

 そりゃリーエルもなんで攻撃するよ。


「そ、それは! わたくしが陽夜さんのことが……!」


 華恋が言いよどんだ。

 え、これってまさかオレのことが好きとか言い出さないよな?

 まさかそんなリーエルじゃあるまいし、華恋に限ってそんなことはないだろう。


「好きだからですわーーーー!」


 言っちゃった! ウソだろ!?

 この歳頃の女の子って大体こうなのか!?

 リーエルからして会った瞬間結婚がどうとか言ったけどさ。

 いや、気の迷いだろう。子どもにはよくある。


「よかった」

「何がよかったんですの! わ、わたくしが邪魔でありませんこと!?」

「ヨーヤが好きなら仲良くなれる」

「どういう理屈ですの!?」


 そういうものなのか?

 結婚だの婿だの言ってる子がいる時点で恋敵になるんじゃないのか?


「ヨーヤトークしよ」

「いや、本人の前でそれはやめてくれ」


 オレはすかさず待ったをかけた。

 リーエルがすでにベッドに肘をついて語り明かす気満々な姿勢だからな。

 オレは落ち着いてリンゴを手にとって皮を剥こうと思った。

 が、ナイフがないな。


「華恋、ナイフってないのか?」

「刃物の持ち込みは禁止されてますわ」

「え、じゃあなんでリンゴなんか置いていったんだ……」


 オレはリンゴを元の位置に戻した。

 なんか一気に気まずくなったな。

 話題を変えよう。


 だけど家庭問題とかナイーブな話題は控えたほうがいいか。

 華恋を助けた時に言葉使いが子ども相応になっていた件といい、あらかた予想はつく。

 だからこそ触れないでおこう。


「華恋、好きとかそんなのよりもだ。これからもクラスメイトとして仲良くしてくれ」

「ク、クラスメイトとして……」

「あ……」


 もしかして悪手だったか?

 絶対悪手だな。まいったな。


「いや、そういう意味じゃなくて! オレそういうのよくわかんないからさ! とりあえずってことだよ!」

「わたくしにだってわかりませんわ。でも打ち明けてしまったものはしょうがありませんの……。陽夜さん、好きですわ」

「そ、そう、ね……」


 なんか冷や汗がすごい気がする。

 女の子に面と向かって好きとか言われた経験なんてないからな。

 でもこの歳頃の女の子なら気の迷いとかそういうのありそうだし、ひとまず置いておこう。


「華恋、ヨーヤトークしよ」

「だから本人の前でやめれ」

「じゃあヨーヤは外に出ていて」

「いくらなんでもひどすぎないか?」


 リーエルが何がなんでもヨーヤトークする姿勢を崩さない。

 そっちがその気ならしょうがないな。


「オレは帰るから後は二人で仲良くね」

「あ! もう帰るんですの!?」

「あまり長居しても悪いからね」

「長居していただいても一向に構いませんのよ!」


 そうは言っても暗くなる前に帰らないと両親が捜索願いを出しかねない。

 前は日が落ちる前の夕方に帰った時にちょうど警察に向かう途中だったからな。

 あと数分遅れていたら警察の方々に多大なるご迷惑をおかけしていた。


「リーエルも早く帰らないと親が心配するんじゃないのか?」

「迎えにきてもらう」

「あ、そう」


 なるほど、さすが金持ちは違うわけか。

 うちも金持ちのはずだけどさ。

 病室の窓の外を見てみるとちょうど黒のリムジンが見えた。

 おい、まさかあれか?


 ドアが開くと合計五人、リーエルの両親とクララ。

 そしてなぜかオレの両親が飛び出してきた。


「さ、さて。帰ろ……」

「陽夜ッ! 心配していたんだぞ!」

「うあぁっ!?」


 早すぎないか!?

 どんだけ霊力強化でフルダッシュしてきたんだ!

 たった今、車から降りてきたばかりだろ!


「リーエル! よかった! 誘拐されていなかったんだな!」

「パパ、おヒゲ痛い」

「お嬢様はかわいいから秒で誘拐されちゃいますよ!」

「されない」


 うん、なんかどこの家庭も大変だな。

 愛されるのはいいことだけどさ。

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