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神の怒り

「あの花条家当主が一撃で……」

「やはりあの子は神の子なのか……?」


 ピクピクと痙攣する花一を見下ろすオレに対して遠巻きから先生達が囁いている。

 全力で殴ったからすぐには起き上がれないはず。

 一応生きている辺り、さすが花条家の当主だ。

 いや、死なれたら困るけどさ。


「神の子すげぇーーーー!」

「大人に勝っちゃったよ!」

「神の子かっこいい!」


 校舎の窓から見ていた生徒達が一斉に騒いだ。

 そういえばめっちゃ見られていたなぁ。 


「ヨーヤ、すごすぎる……」


 そう言いながらリーエルが倒れている花一を枝でツンツンしてる。

 やめなさい。


「これで確信した。あの子は神が遣わした子だ」

「花条家当主の花一は匠の位の退魔師……。それを七歳の子どもが打ち破ったのだ」

「神が子どもの体を借りて降臨されているのかもしれん」


 なんかすごいムチャクチャな設定が追加されてるんだけど。

 いくらなんでもそれは大袈裟すぎじゃないか?

 さすがに花一だってすぐに起き上がるだろう。

 オレが花一を起こそうとすると、すぐ隣に華恋の母親が立っていた。


「よ、よくも私の夫を……」

「……やるか?」

「ひっ……!?」


 オレが妖力を全開にすると母親が気圧されて後ずさる。

 唯一花一を止められる立場にいながら何もしなかったこの女も許さない。

 オレが睨み上げるとよろよろと離れていく。


「な、な、なんて……霊力……」


 霊力じゃないけどな。

 戦意喪失したならそこで大人しくしていてほしい。


「花一、起きろ。霊力強化のおかげで致命傷には至ってないはずだ」

「う……ごほっ……げほげほぉッ……」

「……そんなに?」


 ちょっと待って。

 なんか血とか吐いてるんだけど?

 これって割とやばくないか?


「きゅ、救急車を呼べ!」

「ま、待って! オレがなんとかできる!」


 救急車を呼ぼうとする先生をオレが焦って止めた。

 救急車なんて呼ぶよりもっと確実な方法がある。

 オレは先生の一人からスマホを借りて家に電話した。


「母さん? ちょっとかくかくしかじかで来てほしい」


 母さんの退魔術なら確実に癒せるはずだ。

 オレの家から学園まで徒歩で20分、救急車より家にいる母さんのほうが早い。

 その証拠に遠くから砂煙を上げて何かが爆走してくる。


「陽夜ぁぁぁぁぁ!」


 ジャスト2分、自転車に乗った母さんが霊力強化で自転車を漕いできた。

 グラウンドにドリフト走行ばりに乗り込んできてまっすぐオレのところにやってくる。


「どうしたの! 誰かにいじめられたのね! 母さんが蹴散らしてあげる!」

「そうじゃなくてあそこの華恋の父さんを癒してあげてほしい」

「まぁーーー! これはひどいわ!」


 そりゃいくら母さんでもドン引きだよ。

 さすがにお説教だろうから覚悟しよう。


「陽夜がここまでするほど花一が怒らせたのね!」

「違う! いやそうだけど早く癒してあげて!」


 今、ナチュラルに呼び捨てしたな。

 母さんの母なる知神(ヒールヴィーナス)で花一の怪我がみるみるうちに治っていく。

 この治療速度は父さんによれば常軌を逸しているらしい。


 回復系の退魔術はただでさえ貴重な上にここまで仕上がっているものは稀だ。

 そのせいで退魔師を引退する時は退魔師協会からかなり引き留められたらしいけど。


「う……うぅ……」

「このろくでなしぃぃー!」

「ぐはぁっ!」

「何をやって陽夜を怒らせたの! ねぇ!」


 せっかく癒したのに母さんが花一にグーパンを食らわせた。

 花一、踏んだり蹴ったりだな。

 興奮する母さんを先生達がなだめてようやく落ち着いた。


「陽夜! この男になにされたの!」

「母さん、本当に落ち着いて」


 母さんに胸倉を掴まれた花一がぐわんぐわんと頭が揺れていた。


「う、う……」

「花一、今すぐにでも華恋のところに行ってやれ。あんたみたいなのでも一応親だろ」

「うぅぅ! うああぁぁ!」

「おい、どうした?」

「か、神の、神の怒りだ……私は禁忌に触れてしまったんだ……逆らうべきではなかった……!」


 花一が尻餅をつきながら下がる。

 さっきまでの勢いはどこにいったんだ?

 

「学園長! 私はとんでもない勘違いをしていた! いくら家のためとはいえ、神の子に娘を嫁がせるなどあまりに不敬極まりない!」

「落ち着きたまえ、花条さん。あなたは勘違いをされている」

「か、勘違い?」

「神の子の怒りを鎮めるにはあなたが華恋さんの病院に向かうことだ。そして真摯に謝る。先程、不和利先生から聞いた病院名を教えるのですぐに向かいなさい。さすれば神の怒りは収まる」

「今すぐに!」


 学園長? なにをほざいてらっしゃる?

 真に受けた花一が妻の手首を掴んでグラウンドから出ていった。

 そして法定速度超過が心配になる速さで車で学園から走り去っていく。


「が、学園長。よろしいんですか?」

「一人の生徒が救われる。何がいけないのだね」


 先生の問いに学園長があっけらかんと答えた。

 確かにこれで反省してくれるならオレからいうことはないかな。


「陽夜君。あの花一さんに勝つとはね。彼は若い頃に異例の速度で匠の位まで駆け上がった天才だというのに……」

「いや、あそこにいる空呂君のおかげでもあります。彼が忠告してくれなかったら油断していたかもしれません」


 オレが指名した空呂君は恥ずかしそうに視線を逸らしている。

 トイレのハナコさんに続いて花一の退魔術を知っているなんて恐れ入った。

 そう考えるとオレは呪霊や他の退魔師のことを何も知らないな。


「彼か。聞けば他の先生が面接をした時はその知識量に驚かされたと言っていたな」

「へぇ……」

「まぁそれより、だ。陽夜君、あの花一さんを必要以上に挑発した件についてはきっちり咎めさせてもらおう。君の発言は花条家への侮辱でもあるからね」

「それはすみません……」

「まぁあの花一さんにも後ほど話をするのだが……その前に、だね」


 説教なら甘んじて受け入れよう。

 なんて思ってたら学園長が拳にハーッとか息を吹きかけてるんだけど?

 あの、それって今のご時世でやっていいやつですか?


――ゴンッ!


「いってぇぇーーーー!」


 頭に岩が激突したのかと思う衝撃だ!

 オレは思わず頭を押さえて涙が出た。


「た、体罰! 体罰だ!」

「陽夜君、ここは普通の学園ではないのだよ。これしきのことで騒ぐようでは立派な退魔師になどなれん」

「都合よく論点がすり替えらえているような!?」


 すっげぇ痛いけどこれも甘んじて受け入れる。

 体罰については賛否あるけど、オレは受け入れた。

 ただ問題はオレの後ろにいる人だ。

 めっちゃ母なる知神(ヒールヴィーナス)で癒されているオレがいるんだからな。


「学園長、これは明らかに問題ではなくて?」

「陽夜君のお母さん、異論があるならば聞こう。今度の休みにすぐ近くにある海鮮系の居酒屋でどうかな? もちろん宗司も同席してな。私の教育論を交えて数時間はいけると思うよ」

「望むところです。私の陽夜論に太刀打ちできるとは到底思えませんけどね」


 到底太刀打ちできるようには思えない論なんだけど。

 それにしてもあぁクソ痛かった。

 あれで霊力強化してない上に本気じゃないんだろうからな。

 さすが父さんと並ぶ日本五大退魔師の一人だよ。


「が、学園長が神の子にゲンコツをくらわせたぞぉ!」

「体罰どころか天罰が下るぞ!」

「学園長! 気は確かか!」


 先生達が大騒ぎすると生徒達も釣られてパニックになる。

 雷が落ちてくるだの大雨が降るだの明日地球が滅亡するだの、そこまでいくとやっぱり忌子なんじゃないか?

 そのうちオレが石ころにつまづいて転んだだけで天災が起こるとか騒がれそう。

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