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オレの怒り 2

「陽夜君、わざわざ出迎えてくれたのか? それに生徒達もいるな」


 不和利先生やオレの他にクラスメイト達が校門の内側にあるグラウンドに出た。

 花一の一歩後ろに華恋の母親が立っていてまるで付き人だ。

 校舎の窓からは生徒達や教師が何事かとばかりに覗いている。


「ところで華恋はどこだ?」

「病院にいった」

「そうか。まぁ日頃から霊力強化の鍛錬を怠っていないので大した怪我ではあるまい」

「お前、なんとも思わないのか? 明らかに討伐不可能な呪霊を自分の娘にけしかけておいてさ」


 オレが睨みつけると花一はフッと笑った。

 コレは拳を握って感情を自制する。


「大袈裟だな。ここは退魔師養成学園、多少の怪我などつきものだろう。それに60年前の呪霊ごとき祓えんようでは花条家の面汚しだ」

「確かに退魔術は時代と共に洗練されたけど呪霊も同じだ。中にはより呪力が蓄積されて強くなる個体もいる。お前らの手に余っている日本三大呪霊の御岩様みたいにな」


 クラスメイトがざわつく中、オレは花一を挑発した。

 それが効いたのか、花一は露骨に嫌悪感を露にする。

 更にその体から霊力が揺らめくように放たれて子ども達が悲鳴を上げる。


「……花条家を愚弄したな?」

「お前は華恋を殺しかけた。それに比べたら些末なものだよ」


 花一が青筋を立てた時、オレの後ろから教師達が走ってきた。

 後ろに学園長もいるみたいでいよいよ大事だな。


「花条様、今日はどういったご用件で……?」

「そこのガキに呼びつけられた。よって今から躾をする」

「は? 呼びつけられたとは? あ、あの、どうか落ち着かれてください。子ども達も怯えております」

「どけ」


 花一が教師を突き飛ばした。

 それを皮切りに複数の教師達が花一の前進を阻む。


「花条様! 落ち着いてください! お話なら私達が聞きます!」

「邪魔だと言っているだろうがぁッ!」


 花一が教師達をまとめて吹っ飛ばした。

 腕に覚えがある退魔師達だろうに、ものともしてないな。

 それだけ霊力に差があるという証でもある。


「これまでは下手に出てやったが頭に乗りおって……。子どもだから安全だと思い上がっているのか?」

「いや? お前をぶん殴るつもりで呼びつけたからな。とっととかかってこいよ」


 怒りのあまり花一が口を真横に結んだ。

 そしてグラウンドの地面を突き破るかのように出てきたのは一本の巨木だ。

 枝には真っ赤な花が咲き誇っていて、まるで血に染め上げられたかのようだった。


「神の子などと煽てられて調子に乗ってしまったようだな。いくら才に溢れようとも大人を怒らせたらどうなるのか教えてやる」


 これが花一の退魔術か。

 生き血を啜ったかのような巨木だな。


「花条様! どうか……」

「いや、やらせておけ」

「学園長! いくら神の子だからといって花条様が本気になればひとたまりもありませんよ!」

「彼が望んでそうしたことだ」


 教師達が再び止めに入ろうとするけど学園長に制される。

 学園長が言う通り、オレがあえてこうなるように挑発したんだ。

 これで合法的にぶっ飛ばせるからな。


「退魔術、研ぎ澄まされた血桜(レッドスレイヤー)


 巨木の花びらが一斉に散っていく。


「狐火」


 オレの周囲に狐火を展開して花びらを寄せ付けないようにガードした。

 花びらを燃やし続けるけど次々と舞い散って終わりが見えないな。


「陽夜君! その花びらには絶対に触れちゃダメだ! 触れると血を吸われて一瞬で絶命する! そんなのが無数に散っているんだ!」

「空呂君、ありがとう。君は物知りだね」


 あの空呂君が叫んで助言してくれた。

 やっぱりいい奴だな。


「ほう、反応はよし。だがな、こんな芸当もできるぞ」


 地面に落ちた花びらが人型に姿を変えていく。

 それは一言で言えば血の人間だ。

 これだけ見たら呪霊と変わらない歪さを感じる。

 それらがオレを取り囲み、尚且つ花びらは止まらない。


「そいつらは私が葬ってきた者達の成れの果てだ! 我が霊力としてやって生かし続けている!」

「ずいぶんえげつないことをするんだな」

「はぐれ退魔師! 花条家に仇成す者! どいつもこいつも生きる価値のないクズどもだ! 有効活用といえ! 研ぎ澄まされた血桜(レッドスレイヤー)……すべては花条家の礎なのだ!」

「こんなのと親戚付き合いとか絶対嫌だ」


 オレは懐から依り代を三つ取り出した。

 それらを放り投げて式神を顕現させる。


「ご主人ちゃま! ご飯の時間なのです!?」

「ガハハハハッ! ぼっちゃま! ようやく出番ですかい! 燃やしますぜぇ!」

「はぁ……寒い寒い……外は冷えるわ……」


 オレが召喚したのは座敷童子ことワコ。

 火炎車、雪女だ。

 最近ようやく成功したこの式神達、手数を補うには十分すぎる。


「な、なんだ! 呪霊を手下に加えたのか!?」

「お前が言うな。皆、オレの式神だよ」


 ワコは花びらが生徒達に当たらないように。

 火炎車が回転して縦横無尽に駆け回り、雪女は舞い散る花びらや血人間を凍結させていく。


「ガハハハハハーー! なんだこれは! 燃やし甲斐がなさすぎるぞ!」

「桜が咲く季節だというのに寒いわぁ……」


 火炎車と雪女により、オレは場を整えつつある。

 こうして花一の圧倒的手数のアドバンテージは一瞬で消えた。


「し、し、式神……なんだ、なんだそれはッ! やはり呪霊だろう!」

「どうせ説明してもわからないだろうからやめておくよ」

「だが花びらさえ当てれば勝ちだ!」


 花一が両手を動かすと花びらがうねって軌道を変えた。

 四方八方から生物みたいに攻め立ててくる。


「狐火」


 オレは花びらに狐火で火をつける。

 すると花びらから花びらに火が燃え移った。

 束になった花びらの先頭から燃え盛ってそれがやがて血桜に辿りつく。


「なっ!」

「燃え果てろ」


 血桜の巨木が瞬時に炎に包まれた。

 ゴォォォと音を立てて焼き尽くす様は生命の介入など一切許さないと主張しているかのようだ。


「わ、私の! 私の 研ぎ澄まされた血桜(レッドスレイヤー)が! 数百年に渡って脈々と受け継がれてきた確かな退魔術が! こ、こうも簡単に! こんなバカなことがあるかぁッ!」


 花一が燃える血桜を見上げて叫んでいる。

 すっかり花びらや血人間が一掃された中、オレは悠々と歩いて近づいた。


「花一、これに懲りたら華恋に謝れ。そして二度と束縛するな」

「き、貴様なんぞに! この、この花条花一が破れるなどあり得ん!」

「だったらこいよ」

「はぁぁぁッ!」


 花一が接近戦を挑んでくるもその拳は遅い。

 いや、遅すぎる。

 父さんの体術に比べたらあまりにお粗末極まりない。


「くっ! この、このガキめが!」

「この分だと長らく自分で戦っていないな。この様でよく華恋に偉そうなことを言えたもんだよ」

「黙れぇ! 私は花条家十九代目当主! 花条花一だッ!」


 オレは拳にありったけの妖力を込めた。


「当主以前に父親として歯ぁ食いしばれッ!」


 拳を花一の顔面にぶち込んだ。

 血をまき散らして吹っ飛ぶ様はまさに血桜と瓜二つ、花一は燃え散る寸前の巨木に激突した。


「ぶふぐぅッ……!」


 花一に衝突された巨木がバキリと折れる。

 炭同然になって折れた巨木が花一の上に崩れ落ちてしまった。


「ぶ、ぶげっ……」

「もう一発」

「ぐぉえぇッ!」


 オレがダメ押しの蹴りを花一の脇腹に入れると、またも転がされた花一は今度こそ気を失った。

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