オレの怒り 1
「ヨーヤ!」
オレが裏の世界から帰ってくると真っ先に飛びついてきたのはリーエルだ。
向かう時、不和利先生達が止めるのを振り切ったからな。
後でたっぷり怒られよう。
「リーエル、心配かけちゃったね」
「ヨーヤ、無事だった……ヨーヤ、よかった……」
リーエルががっしり抱きしめてきて、その横で華恋がチラ見してくる。
やっぱりまだ顔が赤いな。熱が出ているなら早く病院に連れていかないと。
「陽夜君! よかったです!」
「不和利先生、勝手なことしてごめんなさい。でもあと一歩遅かったら華恋が殺されていた」
「そのことは後で聞きます。まずは華恋さん、怪我をしてますね」
「そうだ、早く病院に連れて行ってあげてほしい!」
不和利先生が華恋を見ると、少し泣きそうな顔になって抱きしめた。
「華恋さん……無事でよかったです。先生、あなたがいなくなったと聞いてずっと心配だったんですよ」
「先生、ごめんなさい……」
「事情は聞きました。あなたはまだ幼いのですから急ぎすぎなくていいんです。先生が相談に乗ってあげます。だから……もうこんなことはやめてください」
「先生ェ……ぐすっ……」
不和利先生が泣いている。
こんなにも心配してくれるなんていい先生だな。
人形マニアの変態だと思ってたけどいい先生だよ。
「入学して間もないとはいえ、あなたのことを見てあげられなかったのは先生の責任です。生徒同士での競い合いは認めるべきではありませんでした」
「先生は悪くありませんわ! わたくしがいけないんですの!」
「華恋さん……」
不和利先生に頭を撫でられた華恋がポロポロと涙をこぼした。
それから不和利先生は保護者の花条家にスマホで連絡を入れている。
オレは聞き耳を立てつつ、教室で皆に囲まれた。
「陽夜君、華恋ちゃんはどこにいたの?」
「呪霊やっつけたの?」
「やっぱり陽夜君は強いんだね!」
押すな押すなといった状態で質問攻めにあっていた。
しかもリーエルまで離れないんだから身動きが取れない。
そんな中で華恋の取り巻き達が申し訳なさそうにしている。
「か、華恋さん、私達……」
「あなた達は悪くありませんわ。堂々としてなさい」
ただの取り巻きだと思っていたけど、いい奴らかもしれない。
ふと空路君が自分の机の上で窓の外を眺めているのが視界に入った。
「おーい! 空呂君、助かったよ! トイレのハナコさん、無事に討伐できたよ!」
「そうか。よかったな」
「華恋が助かったのも君のおかげだ! 仲が悪そうに見えたけどちゃんと心配してたんだね!」
「……僕なんかより君のほうがよっぽど功労者だ。まったく……いい刺激になるよ」
「え? なんて?」
「何も言ってない」
空呂君はそれっきり寝たふりをして机に伏せてしまった。
ちょっと捻くれ気味な奴だけど友達になれそうな気がする。
なんとなくだけどね。
「……はい? あの、娘さんが無事だったんですよ? え?」
不和利先生のほうがどうも不穏だ。
話し相手はおそらく華恋の両親だろうけど、不和利先生の声が段々と荒々しくなる。
「そもそも娘さんは家にいると思ってたんですよ!」
クラス内の注目が一斉にそちらに集まる。
オレは不和利先生の近くにそっと立った。
不和利先生は見たこともないくらい表情が険しくなっている。
「お言葉ですが華恋さんにはご両親がついてあげるのが一番です! あなた達、それでも両親ですかッ!」
確実によくない雲行きだな。
話し相手は母親か? 花一か?
かすかに聞こえる声を聞く限りじゃこれは母親だな。
しかも母親の返答が微妙に遅いのも気になる。
いちいち誰かに確認を取ってから話しているようにしか聞こえない。
「もうわかりました! 華恋さんは……」
「不和利先生、代わってください」
「え? 陽夜君?」
「オレが話します」
無意識のうちにオレの顔にも感情が出ていたんだろう。
不和利先生がゴクリと生唾を飲んでからスッとスマホを渡してくれた。
「電話を代わりました。伍神陽夜です。華恋のお母さんですか?」
「え? よ、陽夜君? あなた、陽夜君が出たわ……」
「花一、そこにいるんだろ? 代われ」
「か、花一って……なんて口の利き方……」
まごついた母親の声、そして近くで黒子みたいなことをしている花一。
オレの怒りは頂点に達した。
「いいから代われっつってんだよッ!」
オレの怒声が教室内に響いた。
いや、それだけにとどまっていないな。
他の教室から先生達が何事かとばかりにやってくる。
「不破先生、どうかされたんですか?」
「そ、それが……」
騒がしくなる周囲に構わずオレは花一を待った。
「……陽夜君か。不破先生に電話していたはずだが、どういうことだ?」
「花一か。華恋にトイレのハナコさんのことを教えたのはお前だな?」
「なんだ、その口の利き方は。反抗期か?」
「いいから答えろ」
「そうだとしたらなんだ?」
悪びれる様子もなく開き直ったか。
あまりの怒りでスマホを壊しそうだ。
「もし教えたのが事実ならオレはお前を許さない。今すぐ学園に来い」
「君はいつからこの私を呼びつけるほど偉くなった? 少し家族で付き合ってやったからといって何か勘違いしてないか?」
「華恋が傷ついている。あんたのせいでな」
「まさかとは思うが、華恋はトイレのハナコさんに勝ったのか? だとしたら褒めてやらんとな!」
オレは深呼吸をしながら平静さを何とか保った。
話していて確信に変わったことがある。
こいつは華恋じゃなくて退魔師としての華恋にのみ期待している。
仮に華恋がトイレのハナコさんに負けていたらどう反応していた?
そもそも娘が学園から帰らないのにこんな惨状だからな。
「華恋はトイレのハナコさんに殺されかけていた。討伐したのはオレだ」
「なに!? 君が討伐したのか! それはすごいな! やはり神の子だ! いいぞ! そこに華恋はいるのか!」
「いるから今すぐ学園に来い。そこの情けない母親と一緒にな」
オレの話を聞かずにスマホが切れた。
呆れつつもスマホを不和利先生に返す。
「陽夜君、ご両親は来ていただけるんです?」
「オレが討伐を告げたから来ると決めたらしいです」
「はぁ……華恋さん……」
華恋は席に座ったまま顔を上げない。
その痛々しい姿は見ていられないほどだ。
オレは静かに窓の前に立つ。
「不和利先生、午前中は自習でお願いしていいですか」
「ど、どうして?」
「一人の生徒のためです。それに不和利先生は早く華恋を病院に連れていってあげてください」
「そうですね。華恋さん、いきましょう」
不和利先生が華恋の手を引いて教室から出ていく。
怪我のこともそうだけど、これから起こることを華恋に見せつけるわけにはいかないからな。
オレは窓の外を眺めたまま花条家の二人を待った。
「ヨーヤ、怒ってる?」
「勝手に自習の流れにしてごめん。気分悪くさせちゃったよね」
「ううん、安心した」
「安心した?」
リーエルがキリキリと歯軋りをしている。
まさかリーエルも怒ってるのか?
「すごくムカムカする。ヨーヤと同じ気持ちで安心した」
「リーエル……」
「華恋、悲しそうだった」
「……うん」
リーエルがムスっとした表情で拳を握る。
リーエルでもこんな風に感情を露にするんだな。
てっきりオレ以外に関心がないと思っていた。
そんなことを考えていると窓の外から校門前に一台の車が止まるのが見えた。
運転手が下りてきて後部座席のドアを開くと出てきたのは花条夫妻だ。
オレはすぐに玄関に向かった。
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