クラス対抗戦?
放課後、リーエルと一緒に裏山で訓練をする日々を重ねていると妙な気配を感じることがある。
呪霊かと思ったけどその呪力は微々たるものだ。
小さい呪霊は学園にいけばたくさんいるけど、外ではあまり見かけない。
「ハッ!?」
「ヨーヤ、どうしたの?」
オレが振り向くとタタタと何者かが走り去っていく。
その後ろ姿は華恋だった。
あの目立つドリルヘアーは見間違えるはずもない。
なんだってストーキングなんかしてくるんだ?
あいつとは謎に家族ぐるみの付き合いだけど正直に言って仲良くなれた自信はない。
あの父親もやたらと優しいけどそれが逆に不気味だ。
そんなある日のことだ。
登校すると華恋が教壇の前で仁王立ちしていた。
例の女子二人も側近みたいにくっついている。
「皆さん、ごきげんよう。学園生活はいかがかしら? 各自それなりの方法で腕を磨いてらっしゃることでしょう」
なんか言い出したぞ。
案の定、クラス中がどよめいてなんだこいつ感を出している。
この前、あいつに絡んだ女子三人が返り討ちにあったものだから誰も口を出せない。
さすがにやりすぎということで華恋はきつく絞られて保護者まで呼ばれて大変だったらしい。
最終的には父親の花一が女子三人の治療費を払って和解したと聞かされた。
花一本人にな。
「うちの娘はやんちゃで困るよ! あれでは嫁の貰い手がつかんかもしれんなぁ!」
「そ、そんなことないよ……」
「ま、陽夜君になら任せてもいいかもしれん! ハッハッハッ!」
「そうなのかな……」
どちらかの家に集まった時はずっとこんな感じだ。
オレは呆れて何も言えなかった。
最近思うのだけど花一はまさか華恋とオレをくっつけたいのか?
だけどあれだけオレ達を嫌っていたからなぁ。
あっちにだってプライドというものがあるだろう。
単に心を入れ替えただけと今は信じておく。
で、その信じた相手の子どもがなんか黒板に書き始めた。
「第一回クラス内呪霊討伐戦! 始めますわーー!」
あの子の思考は前からわからなかったけど今度もわからない。
初回から第一回と名付けるとは、なかなか強気に出たな。
第二回が開催されない可能性は一切考慮されていない。
「皆さん、日々の勉強や訓練の成果を発揮したくて仕方ないのではなくて? そこでわたくしが皆さんにそういった場を提供して差し上げますわ!」
華恋がドヤ顔で仁王立ちして女子二人が拍手で盛り上げる。
尚、オレ達サイドは誰も一言も喋ってない。
どうせ何を言ったところで強行するだろうし、最近は誰もあいつに口出しをしない。
例の女子三人しばき倒し事件が相当響いている。
「陽夜さん! 聞いてらして!?」
「え? 聞いてるよ」
「この討伐戦で陽夜さんが求めている子が見つかると宣言しますわ! うふふふふ!」
「は、はぁ?」
オレがいつ誰を求めたんだ?
うふふふじゃないんだわ。
「異議あり」
その時、学級委員長を務めている空呂君が手を上げた。
メガネがきらりと光る優等生だ。
オレは入学式の挨拶を務めたけど、さすがに学級委員は面倒で辞退していた。
「華恋さん、そういった危険な行為は感心しないな。先生だって認めないだろう」
「先生だって実力さえ見せつければ認めますわ。メガネは黙ってらして?」
「メ、メガネ……」
斜め上の理屈で華恋が空呂君を黙らせる。
何をどうやっても強行するつもりなんだから勝手にやらせておけばいい。
とはいうものの、オレは少し面白そうだと感じている。
授業や実習を真面目に受けているだけじゃ凡人止まりだ。
上にいく人間はそれにプラスアルファの努力をしている。
そういう意味で普通の人間がやらないようなことを積極的にやるのは悪いことじゃない。
「華恋、ルールは?」
「あら、陽夜さん。乗り気ですのね。ルールは単純、一週間、より強い呪霊を祓った方の勝ちですわ」
「強い弱いの基準は? 倒した証拠はどうする?」
「倒した呪霊を先生に報告すればわかりますの。証拠は必要ないんじゃなくて? ウソの報告をするような恥知らずなんて眼中にありませんの」
意外とガバガバな討伐戦だな。
まぁ子どもが提案しているものだし規制しようがない。
「例えばゴルフは紳士のスポーツですわ。これは恥知らずが集まれば到底成り立たないスポーツですの。この討伐戦もそのように願いたいものですこと……うふふっ!」
一理あるなぁ。
虚偽申告するような奴は勝手にさせておけばいい。
そんなのはオレも眼中にない。
初めて華恋と気が合ったな。
「華恋さん、僕は学級委員として止める立場にある。こんなものは認めない」
「だったら一人でお行儀よく勉強でもしてなさい」
「フン、不和利先生にはしっかりと報告するからな。僕は君が花条家の子だろうと一切へりくだるつもりはない」
「勝手になさい」
華恋も華恋だけど空呂君もなかなかお堅いな。
あの子は華恋と違って一般家庭育ちらしいけど入学試験の成績は上位だったらしい。
「はーい、皆さん席についてくださーい! ホームルームを始めまーす!」
不和利先生がやってきて今日も一日の授業が始まる。
勝負は一週間、オレも気合いを入れてがんばろう。
* * *
「こんなものか」
放課後、オレは今日だけで六体の呪霊を祓った。
驕り高ぶるつもりはないけど呪力感知ならオレの得意分野だ。
華恋によれば一番強い呪霊を祓った人間の勝ちだよな。
目ぼしいのはオレがすでに討伐しちゃったからたぶん一週間もいらない。
あのリーエルも呪力感知の訓練を始めたけど正直に言ってオレには及ばなかった。
そんなわけでオレは不和利先生に討伐報告をした。
「手だけの呪霊……すごいわねぇ。プールに出没した呪霊ですね?」
「プール脇にいましたね。今のところ初等部の校舎内に出現する呪霊で一番強いのはこいつです」
「ご名答、これは陽夜君の優勝ですねー」
「あの華恋は悔しがるだろうなぁ……」
と、噂をすれば職員室に入ってきたのは華恋達だ。
一体何を討伐したのか知らないけどオレの勝ちは揺るがない。
ちなみにこの勝負は空呂君の奮闘空しく不和利先生が認めてしまった。
ただし他の生徒に迷惑をかけないようにと一応の釘を刺されたけど。
「不和利先生。本日、東廊下で生徒の足をすくっていた呪霊を討伐しましたわ」
「あらぁ、生徒がたまに転ばされて怪我をさせられていたのですよねぇ。さすが華恋さんですねぇ」
「わたくしが優勝で間違いないのではなくて?」
「残念ですねー。陽夜さんが討伐した腕の呪霊のほうが手強いです」
不和利先生が無情にもそう告げると華恋の表情がみるみると変化した。
だけどそれは明らかな笑みだ。
なんだ? 悔しくないのか?
絶対わたくしが負けるなんてーって騒ぐと思っていたのに。
「あら、そう。さすが陽夜さんですわ。おめでとうございますわ」
「あ、あぁ。どうも……」
「それでこそお父様が認めた男の子ですの。そうでなくては張り合いがありませんわ」
「悔しくないのか?」
オレがそう聞くと華恋はうふふと笑う。
「いーえ? だって勝負はこれからですもの。さぁ不和利先生、わたくしは帰りますわ。ごきげんよう」
「ごきげんようー」
不和利先生と人形達が手を振って華恋を見送った。
あの華恋のことだから悔しがるか泣くかどちらかだと思ってたんだけどな。
どういうことだ?
「先生、呪霊討伐した」
「リーエルさん。どんな呪霊を討伐したのですか?」
「トイレから出てくる手」
「あらぁー、生徒のおしりを撫でるけしからん呪霊ですねー。でも陽夜君が討伐した呪霊の下位互換みたいなのですねぇ」
「ヨーヤすごすぎる」
なんだその呪霊、普通に案件じゃないのか。
このご時世にやばすぎだろ。
リーエルは撫でられてないよな?
「二人とも、今日はもう遅いので寄り道しないで家に帰ってくださいねー」
華恋の態度に疑問を持ちつつもオレ達は帰宅した。
華恋の言う通り、勝負はこれからか。
だけどオレはどこか引っかかりを覚えていた。
華恋、もしかしたら勝算があるんじゃないのか?
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